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健康かながわ

根拠に基づく健康増進のすすめ方

平成15年度第7回健康管理懇談会が2月19日、松村ガーデンホール(横浜市・関内)で開催された。今回のテーマは「根拠に基づく健康増進のすすめ方-効果的な健診データ(分析)の活用」。東京大学医学教育国際協力研究センター講師の水嶋春朔先生(医師)を迎えて、健診や事後措置といった保健サービスの質とその有効性の評価、そのために健診データをいかに活用していくかについてのポイントが紹介された。96の事業所や団体から、産業医、保健師や健康づくり担当者ら112人が参加した。

医療・保健サービス事業の有効性評価

image産業保健で行われている健診や事後措置といった保健サービスの有効性を評価するには4つの指標が必要である。まず①構造の評価と②過程の評価である。これは何人専門職がいて、どのような健診項目で何回健診をやって、受診者が何人いた。そして保健指導や健康教育など事後措置を何回やり、何人が参加したか、ということ。

こういった評価はどこの事業所でも記録はされているだろう。しかし最も大切なのが③結果の評価・アウトカム評価である。従業員の健康度がどれだけアップしたか、休業日数がどれだけ減少したか、生産性がどれだけアップしたか、を定量的に捉えていくことで始めて有効性が検証できるのである。
そして有効性の評価にさらに必要な指標が「顧客満足度」。サービスを受けた人(例えば健診受診者)が満足したか、生活の質の向上に役立ったか、といった評価項目も欠かせない。こういった評価は単年度ではなかなか難しいもので、3~4年の継続した結果に基づく分析が大切になる。

効果の分析について具体的な例をあげると、健康教育の例がわかりやすい。高脂血症や肥満教室を実施して、その評価を行う場合のポイントは「対照群・指導を受けなかったグループ」の設定である。指導を行ったグループ(介入群)と対照群の差を比較することが大切なのであり、介入群のみの健診データの改善に一喜一憂しているだけでは、本当の有効性を評価したことにはならない。

なぜなら健診データはさまざまな要因で変動する可能性を持っているからだ。その典型的な例が施設間差。検査機関ごとに測定法や精度が違うため、異なった機関で測定した検査データを比較することには意味がない。  また「平均への回帰」という統計的現象では、ある集団の分布で高値、低値のグループは2回目3回目の測定で中央(平均)へ寄ってくる、という現象がおこる。介入をしなくてもデータは平均に近づいていくのである。
また「季節変動」も考慮しなければならない。冬場と夏場の食生活や活動量といった生活習慣の違いは健診データに影響をおよぼす。このことから「2月スタート、5月終わりの減量教室や高脂血症の教室は成功します」と水嶋講師は言う。その他、検診に対する慣れ、偶然、バイアス、交絡因子(性・年齢など)も健診データの変動の要因となる。

こういった要素も検討しながらできるだけ除外し検証を行えるスキルと、効果が実証できなかった保健サービスは止めていく、といったポリシーを持つことが根拠に基づく保健サービスの第一歩となるだろう。

集団の健康状態を評価する

集団の健康状態を評価する指標としては問診や調査から①生活習慣、が把握できる。次に健診から②健診データ③発症数(率)が、レセプトからの医療費で④有病数(率)が把握できる。
大切なのは問診→健診データ→レセプト、といったばらばらのデータを個人単位でリンケージ(突合)すること。そのためには個別のデータのリンケージを積み重ねて行く。
Aさんは運動不足→糖尿病→通院週2回、Bさんは運動習慣あり→HbA1c正常→病気なし、といったデータを集積することで導きだされるのが「運動習慣のある人(集団)に比べ、ない人(集団)の方が○倍、糖尿病になっている」という事実が判るのである。

診データで推測する

こうやって問題点がわかったら、問題解決のためには「情報を定量的に収集し、自分なりの評価軸をもつこと」と水嶋講師。 Plan(立案)Do(実行)See(評価)という流れは医療保健サービスの流れにはあてはまらない。Planの前に現状把握(地域職域診断)が必要。個人の思いつきや流行りの施策に流れてしまう思いつきの「プラン」では根拠に基づく保健サービスとは言えない。5年後の健康状態の改善・長期欠勤者の減少といった評価軸をたててシミユレーションをすることで投入するコストにみあった効果があるのか検証し、実行へ移すことが必要。

こういった意味で健診のデータは現状のモニターリングの指標となる貴重なデータであり、評価の指標としても使われるべきで、健診をして異常者だけに事後措置をしているのでは「川の流れに例えると下流対策しかしていないことと同じです」と水嶋講師は語る。

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