第3回かながわ健康支援セミナーが9月14日、松村ガーデンホール(神奈川県予防医学協会2階)で開催された。横浜市立大学院で医学研究科情報システム予防医学を専攻される倉尚樹先生が「メタボリックシンドロームの診断と自己管理方法について」を講演。倉先生の専門である心療内科からのアプローチとした患者心理を考慮した療養指導についての話も交えての講演となった。
現代の食生活などを反映して、日本人の体重は増加している。ここ20年間の年代別平均体重の経年変化からも明らか。BMIの平均値を見ても、健康的な男女の数値とされる22を男性は20歳過ぎから、女性は40歳代から越える傾向がみられる。
日本ではBMI25以上を肥満症の判断基準にしているが、同じ過体重でもお腹周りが太る内臓脂肪型の肥満は要注意である。
内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満で、共に高血圧を併発する患者を比較すると、前者が後者より耐糖能障害や高脂血症などの合併症の発症率が高い。そして内臓脂肪型肥満から高血圧・糖尿病・高脂血症・高尿酸血症、やがては動脈硬化を誘発し、脳卒中や心筋梗塞を招くことになる。
これら生活習慣病は長期的には“血管の病気”である。この流れを患者に理解してもらい、定期的な医療指導と、“動脈硬化の評価”をして伝えることが重要である。
メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積を基に血圧や血糖、脂質の異常が重なって現れる状態を呼ぶが、昨年4月に日本動脈硬化学会、日本糖尿病学会など8学会合同で「メタボリックシンドローム診断基準」を作成した。その内容は、図の通りとなる。
ここで留意すべきは、血糖値・血圧・脂質など各病態の程度(軽度の異常)を問わず、併発により動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクが高まるという見解。
メタボリックシンドロームの改善と予防には、モニタリングと自己評価・管理が大切になる。そのためには、次のような方法で進めていくことがよいだろう。
■目標の設定…現体重の5~10%減と、達成可能な目標を立てる。一日平均50gずつゆっくり減らすのが理想。
■自己管理…食事と運動で自己管理する。夕食の摂取量を減らし、一日一万歩を目標に、数値で把握する。50g精度体重計・歩数計・家庭用血圧計を使い、グラフに記録する。
低カロリーな食生活には、寒天の利用もいい。ほぼノンカロリーで、食物繊維や水分も豊富。整腸作用もあり、満腹感が得られる。料理方法も多彩。
■自己評価…起床時の排尿・排便後と夕食後の体重を毎日計測し、50g単位で記録する。朝夕の体重差が600g以上あれば夕食過多を反映。そこで推奨しているのが「50gデイリィダイエット記録シート」。BMIや腹囲、歩数と毎日の記録、併せて食生活等を記す“いいわけ欄”がある。体重変化を感じやすく、気づきを書くことで励みにもなる。ダイエットの成果を正しく楽しく管理することが継続の秘訣といえる。
■目標値との比較…体重、運動の目標値と比較し、その結果に応じて、自己管理の継続・強化を行う。
生活習慣病を含めて、患者心理を考えたアプローチも治療の重要プロセスである。核となる考え方が行動科学的理論だが、その基軸は“適切な行動は強化し、不適切な行動は修正していく”ことにある。疾病・症状への知識~生活習慣の自己評価~問題点への工夫。各過程において、適切な教育・アドバイスをしながら行動変容を促すことが肥満克服につながる。そのためにも身体的・心理的モニタリングをしっかり行いたい。
理解すれば、患者は動く。「何故そうする必要があるのか」の、正しい知識と動機づけをして、現状について患者自身で考え、自分の言葉で表現してもらう。よくできたことは評価し、強化する。その上で不十分な点については対策を患者と一緒に考え、優先順位をつけ、達成可能な課題を設定する。
このプロセスの中で成功体験を積み重ね,それが患者の自信となり、自らの問題解決能力も増す。治療時期に応じた関わり方や患者を取り巻く治療環境にも配慮し、最終的な患者自身の自己管理の習得へと導いていく。そしてその基盤には、患者・医療機関・家族・職場など相互の信頼関係づくりがあることも忘れてはいけない。