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前のページへ戻るHOME > 法人向けサービス > 健康情報(法人向け) > かながわ健康支援セミナー>いま、健康とはなにか -21世紀の課題を探る-
健康かながわ

<学術講演>都市型長寿の創生~世界調査でわかったみんなの健康づくり~
家森幸男氏 
武庫川女子大学国際健康開発研究所所長

 私は1985年から25カ国・61地域をめぐり、さまざまな人種、民族を対象に24時間尿の採取・バイオマーカー分析などを実施して「栄養と健康の関係」を研究してきました。その中には、調査初期と比べて10数年も寿命が減った地域、都市化や工業化により伝統的な長寿地域が崩壊しつつある現実もみています。

  成人で平均3リットル/日のヨーグルトを飲むマサイ族は正常な血圧でした(1986-87年)が、12年後に再び調査をしてみると高血圧が増えていました。塩を使い始めて過剰摂取になったのです。

オーストラリアの先住民・アボリジニは、天然のウナギや海藻、種実類、ハーブなどを主食にしていましたが、政府保護下で食生活が西洋化したことで肥満が増えました。ハワイやブラジルに移民した沖縄の人たちを追跡調査したところ、50歳代に糖尿病が増え、ブラジル移民では17年も短命化したことがわかりました。

塩分6グラム/日以下で脳卒中予防
 世界調査を通じて塩分の過剰摂取が血圧を高め、脳卒中が多くなることがわかりました。沖縄の人たちの1日の塩分摂取量は8~9グラム。私たちは世界中の塩分摂取と脳卒中の関係から1日6グラム以下なら脳卒中を予防できるのでは、と報告しました。WHOの塩分摂取量を6グラム以下にという目標を裏付ける成績になりました。

  静岡県の人は緑茶、果実、大豆を多く飲食しているためにカリウム値が高く、脳卒中になる人が少ないというデータも得ました。これは、コーカサス地方の食事にもみられます。肉類はゆでこぼして脂肪を少なくして食べます。肉は日本人の倍近く食べるのですが、血中コレステロールが上がらないから心疾患の予防につながり、野菜からカリウムや食物繊維を多く摂るために塩分の害も防げます。

2002-04年にかけて、兵庫県で大規模な「ご飯・大豆・減塩」食を食べてもらう運動をし、臨海部・山間部・都市部の県民1000人近くの人々から1日の尿を集め、分析した結果、塩分摂取量が1日10グラム以下の人が増え、血圧値140~160の人の割合は23%から17%に下がり、4人に1人の割合で血圧が正常化しました。大豆をしっかり食べている人では、塩分を1日10グラム前後摂っても血圧が上がらないこともわかりました。

バランスのとれた日本食
 心筋梗塞などの心疾患は、大豆を食べて尿中にイソフラボンが多い地域では少なく、女性ホルモンに似た構造のイソフラボンが心筋梗塞の予防に有効であることがわかってきました。

  ラット実験を経て1996年、イソフラボンを多く含む胚軸をふりかけにして、ブラジル在住の更年期の日系人女性に食べてもらいました。3週間後に調べてみると血圧とコレステロール値が下がりました。大豆のたんぱく質をパンに入れ、1日25グラム摂ってもらったところ、肥満の多いアボリジニも8週間後には血圧が下がり、悪玉と善玉コレステロールの比率が下がって動脈硬化も予防が可能であることもわかりました。

  大豆に多く含まれるイソフラボンやたんぱく質、雑穀・種実類、海藻類に多いマグネシウム。魚介類に多いDHA、タウリン。ご飯や野菜とともに、こうした栄養素をバランスよく摂取していれば、メタボのリスク=肥満、高血圧、脂質異常症は確実に少なくなります。長寿食として知られる沖縄の伝統食がよい例です。ご飯中心の日本食に、塩分の摂り過ぎとカルシウム不足という欠点を補う工夫を加えれば高血圧、動脈硬化も少なくなります。

食・体・心の健康=都市型長寿
 日本の市町村別平均寿命で、男性の上位を占めたのは横浜、川崎、東京などの都市住民でした。私たちが行ってきた大がかりな調査からも、都市で健康長寿を楽しむ暮らし方は十分に可能である、ということがわかってきました。

  男女の平均寿命が日本に次ぐ世界2位の香港で、ビルの6階に住む90歳男性の健診をしました。朝、湯を沸かして茶を飲み、ご飯を炊いて発酵食品と豚肉を蒸した料理とともに食べます。外出時は階段を使います。デジタル計測の自動血圧計で測ると130~65。理想的な血圧でした。週に一回、男性は近所に住む4世代の子どもたちとそろって食事をします。食卓に並ぶ料理は市場で手に入る新鮮な魚介類、野菜と、香港ではおやつのように食べる豆腐をふんだんに使ったものです。

  健康長寿には「食の健康・体の健康・心の健康」のバランスが欠かせません。この男性のように、炊きたての朝ごはんを楽しむ(食の健康)。階段の上り下りで脚を使う(体の健康)。みんなと食事を楽しむ(心の健康)。など、日常の生活でこの三拍子が揃えば、どの都市でも健康長寿の暮らしができるのです。

文化講演>二人三脚で乗り越えた介護の日々~今日も二人で~
小山明子さん 女優

 私は数年前からマンモグラフィ検診を受け、ピンクリボンのバッジを胸に街頭に立つこともあります。以前は夫とともに年2回、人間ドックに入っていましたが、仕事で向かった海外で夫が倒れてから私の日常は大きく変わりました。

  帰国した夫に付き添うことができず、妻としての役目を果たせない自分を責め、自殺願望に囚われました。夫がリハビリ訓練を始めるようになってもうつ状態でしたが、再び映画を撮ると言って黙々と機能回復に取り組む夫に向き合えるのは自分しかいない、という思いで臨みました。厳しい訓練に夫は弱音を吐くどころか周囲に「ありがとう、すみません」と感謝するばかり。倒れてから約半年後、夫は復帰に向けて動き始めました。

  映画の現場に戻って間もなく、リハビリ中に夫が倒れ、そのまま入院しました。病室にいると電話が鳴り、今度は住み込みのお手伝いさんが入院したという連絡でした。自分のうつも治っていないのに、なぜ…。〝禍福はあざなえる縄の如し〟という言葉が浮かびました。

  落ち込んだ私を勇気づけてくれたのはご近所の方たちでした。うちで食べない、と声をかけてくださった奥さん。人様の家の朝ごはんをいただいたり、公園の掃除、消防訓練では炊き出しや心臓マッサージを体験するなど町内会活動にも参加し、普通の主婦として過ごした一週間。

  夫とお手伝いさんの入院のおかげで私は違った生き方を見つけ、二人が退院する頃には、私のうつも改善していました。介護疲れの体を鍛え直そうと始めた水泳は、いまでも続いています。

あなたがいるから私は生きている
 二人で健康を願いながら老後を楽しもう。そう思った矢先、夫が三度目の入院をします。ベッドに横たわる姿を見守るしかできない私は、たくさんの本を読みました。ユーモア、感謝、寛容、歴史上の人物の名言とともに「手放す心」という言葉を書きとめました。この言葉にハッとしたからです。

  これまで女優であることを手放せなかった私。でも、女優が何になるの。目の前の病気の夫を見守るのが私の役目ではないの…そう割り切ると、気分がスッキリしました。

  夫の病状が安定して二日後に退院という時、お手伝いさんがまた入院しました。三度目のマイナスからのスタート。でも私は強い気持ちで受け入れました。為せば成る、為さねば成らぬ何事も、です。

  ある夏の日、夫に「ビール飲む?」と話しかけたら「当然!」の返事。夫が好きなものを食べさせようと思いました。
  夫が生きているから私は元気でいられる。あなたがいるから私は生きている。いまも病気と闘う夫が、私を支えています。

<記念講演>健康とはなにか~住民の健康と行政の役割~
中沢明紀氏 神奈川県保健福祉局参事監兼保健医療部長

  健康とは何でしょう。捉え方に個人差はあります。WHOの定義にも「病気ではなく、弱っていない、心身ともに困っていない」などの言葉が並びます。日本人の平均寿命は男女とも世界1位*。なぜ日本人は健康で、長生きなのか…世界的医学雑誌『ランセット』は国民皆保険実施50年を迎えた日本を特集し、平均寿命と行政施策の関係を探っています。

一方で、高齢化のスピードアップ、政治・経済の停滞と格差社会への懸念、西洋型食習慣の弊害や運動不足とストレス、喫煙・飲酒と自殺、過労死といった日本の課題も浮かび上がっています。*2010年:女性世界1位、男性4位

超高齢社会を見据えて
 県では平成13年2月から、病気予防で健康長寿をめざす「かながわ健康21プラン」をスタートさせ体重管理、運動と睡眠、口腔ケアなど10項目を取り上げ、県民が主体となって取り組んできました。
 
  また、平成22年度には「受動喫煙防止条例」を全国の自治体に先駆けて施行し、受動喫煙が一因とされるがんやぜんそく、乳幼児突然死症候群、低体重出生の予防に取り組んでいます。23年度は、歯および口腔の健康づくり推進プランを実施に移しました。全身の健康づくりに重要な口腔衛生を浸透させ、“8020”(80歳でも自分の歯が20本)の実現をめざすものです。

  900万県民が暮らす神奈川は現在、男女とも平均寿命では全国上位です。しかし、10年後の神奈川は、65歳以上が4人に1人の超高齢社会になります。高齢者増は医療費増大を招く恐れがあり、皆保険維持の難しさも懸念されます。そこで、そもそも病気にならないようヘルスプロモーションを採り入れた医療のグランドデザイン策定に着手し、23年度中の策定をめざしています。県民の健康意識、関心を高めると同時に、行政からの情報提供、活動支援をより充実する体制を整えていきます。

 

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