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健康かながわ

12月19日、横浜情報文化センターで第5回かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)が開催された。このセミナーは企業・団体の健康管理スタッフへ向け、最新の産業保健の情報を提供するために年7回ほど開催しているもの。今回は「職場のメンタルヘルス対策~こころが折れない部下の育て方~」をテーマに、筑波大学医学医療系・笹原信一朗准教授を講師に招いた。参加者は116団体から137人。 
 


経験させる行動させる

25歳男性のTさんは入社3年目。希望していた本社宣伝部ではなく工場総務課に配属。不本意な配属に不満をもらし、工場では子会社社員への横柄な態度や職場上司の悪口、口論などが頻発。ついには本社人事部より勤務態度の改善が指導された。その翌日から無断欠勤。その後、「抑うつ状態」の診断書が送られてきて3カ月の疾病休職となった、講演の冒頭、このような事例を笹原先生は紹介した。

  これは従来の過重労働による消耗型のうつ(メランコリー親和型)に代わって、昨今増加しているストレス脆弱性・ディスチミア親和型うつの典型例である。事例のTさんも定時勤務で仕事が終わり、残業などはなかった。
  笹原先生はこのような事例を「未熟型」といい、自己愛・他罰・自己中心的であることが特徴、と解説する。症状として趣味・私生活は楽しめるが会社に行く意欲が起きないという「選択的抑制」がみられる。
  こういった事例対応のポイントは、まず主治医と連携をとること。主治医は本人の言い分しか聞いていないので「会社でパワハラをされた」と本人がいったら、主治医はその真偽が確かめられないでいるからだ。加えて就業規則も主治医に伝え、休業補償や期間を明確にする。こういう人の性格は「もともと仕事熱心ではない」というものがあり、放っておけばいつまでも休んでしまう、と笹原先生。

ストレスへの耐性

職場にはストレスへの耐性が強い人もいれば、弱い人もいる。昇進して管理職となった人はストレスへの耐性が強かった人、と笹原先生。ストレスに強い人は「首尾一貫感覚」という考え方を身につけている。それは①有意味感…どんなに辛いことに対しても何らかの意味を見出せる感覚②把握可能感…どんなことも自分の行動と結果が関連しているという感覚③処理可能感…自分で良かれと思う行動を最後まで成し遂げられるという感覚、の3つで構成されている。

  これらの感覚は実際に困難に直面し、それを乗り越えることで身につくもので「経験」に他ならない。若い人の社会的経験が乏しくなっている。それは現代社会全体の問題で「人格の成熟の遅れによる非社会化」がすすんでいる、と笹原先生は問題を提起する。

陰性感情の制御

未熟で心の折れやすい部下に上司はどのように接すればいいのだろうか。まずは自分だけがかわいく(自己愛)、自己中心的で、何でも他人のせいにする(他罰)部下に、芽生える「陰性感情」を制御すること。陰性感性のままにイライラしたり、怒鳴ってしまうような敵対的な接触はパワハラとして労災・訴訟リスクとなってしまう。
  具体的には「自分の人生、何の意味も無い」と感じている部下に、まずは「行動」を促す。結果は成り行きにまかせ、過程を大切にし、結果にこだわらない。失敗してもいい、まずは行動してみようという上司からの支援は、経験の乏しい部下に自己への「有意味感」をもたらすのである。

  大切なのは人材を育てるという視点を忘れないこと。未熟であるということは「障害」でも「病気」でもなく、本人も決して悪意があるわけではないことを理解することが、未熟型人材への対応の原則となる。

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