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健康かながわ

7月8日に行われた「かながわ健康支援セミナー」(主催・当協会)では、政府の新成長戦略に盛り込まれた「健康経営(※)」について、その推進を提唱する古井祐司氏に講演をいただいた。従業員の健康増進に積極的に取り組み、生産性を高める企業を社会的に評価し応援する「健康経営」の進め方とこれからの社会にもたらす意義を話された。当日は企業・団体の健康管理に携わる医師や看護師・保健師など66団体85人が参加した。
※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。 


先端医療の前に

今日は健康経営をキーワードに社会の動きや、政府戦略も含めこれからの健康づくりをご紹介したいと思います。
 医学部を出て、がんの遺伝子研究に入ったものの「高度医療が必要になる前に、何かできることがある」と考えた私は、20歳代後半、北は礼文島から南は平戸島まで、過疎地を回わる中で先生方から「医療は病院内だけではなく、住民とのコミュニケーションにある」と聞き、保健師と一緒に公民館を回ったり、介護保険施行の前には在宅ケアとして導入されていたリハビリや褥瘡などに触れ、予防を強く意識するようになりました。
 その後、健康経営の名付け親、当時大阪ガスグループの統括産業医で、その後特定非営利活動法人健康経営研究会を創設された岡田邦夫先生と出会い「企業が従業員の健康に配慮することによって、企業活動にも大きな成果が期待できる」という考えに共感し、地域および職域は健康づくりの大切なフィールドであると認識しました。。

高齢化への対応

わが国の保健活動の水準は高いですが、少子高齢化のスピードは突出していて、国民の平均年齢が上がり、定年延長などで職域の年齢も上がっています。加齢とともに血管が傷つきやすくなるので、心筋梗塞などの発症率も上がります。平均年齢が40歳代前半から後半になれば、発症率は1・7倍になります。
 少子高齢社会における医療保険制度では従来どおり病気の治療も大切ですが、国民の病気を予防し、健康を維持することも大きな課題です。そこには集団アプローチが不可欠で、健康づくりも地域や職域など社会での評価が大切と考え、一昨年、東大政策ビジョン研究センターに健康経営の研究拠点を作りました。

データが示すもの

年代ごとの医療費を比較すると、標準偏差は加齢とともに大きくなります。つまり50歳で20歳代のしなやかな血管を持つ人もいれば、50歳代で70歳代の硬い血管を持つ人もいて、特に50歳以降はどんどんその差が広がります。高齢化が進むわが国では、健康に取り組む集団と取り組まない集団の健康格差が広がっていきます。
 特定健診の制度化でデータヘルスが進み、職域での健康状態のデータを企業相互で比較すると、自社の従業員の健康状態が明らかになります。
 たとえば肥満率が40%台と比較的高めの2つの企業があります。A社はB社よりも心筋梗塞などの発症率が2倍です。そこで、血圧、脂質、血糖など、特定健診の階層化の項目を使い、リスクがない人、低リスク、高リスク、服薬している人と分類して集団特性の可視化してみます(図)。
 A社は、「非肥満でリスクのない層の発症率」を1とすると、「痩せていてもリスクが高い層」は2から3倍、「太ってリスクが高い層」は4から7倍、発症率が上がります。B社は反対に、痩せている層からの発症率が高くなっています。実は、特定健診制度導入後の積極的な取り組みの実践で、肥満層のリスクが減少した結果と考えられます。
 A社は営業職が多く、朝食を抜き、夕食も深夜に。顧客対応で不規則な昼食は菓子パンで済ますことも多く、血糖値が上がり、糖尿病の合併症で心筋梗塞の危険性が高まる背景があります。

行動変容につなぐ

 データに基づく検証で、重症疾患で倒れた人の3人に2人はレセプトがないことがわかりました。多くの人は症状を自覚する間もなく倒れ、健診受診者の7割は自分の健診結果がわからず、その割合はメタボや血圧180以上の人もほとんど同じです。さらに、特定保健指導プログラムも8割は参加しない、残念な現実です。結局、特定健診を受けても、自身が健康状態をしっかり理解しないと、健康づくりへの行動変容につながりません。

データの意味

生活習慣病はほとんど自覚症状がないので、本人だけの努力では難しく、職場や自治体、保険者が取り組みを支援する必要があります。そのために特定健診・特定保健指導の制度ができました。
 来年度から本格化するデータヘルスは分析がメインではなく、データを使って人や社会をいい方向に動かそうとするものです。特定健診制度の導入で健診データが電子的に標準化されたことにも、大きな意味を持ちます。

経営者の危惧

横浜市は「経営動向調査」で、自治体として全国で初めて健康経営に関する調査をしました。そこでわかったのは、経営者が恐れているのは医療費よりも生産性の悪化です。体調が悪くて欠勤する。傷病手当、長期障害。出勤していても生産性が悪い。いわゆる機会損失が意外に大きく影響します。まさに健康経営は重要な問題でした。
 職域の健康づくりは産業保健の延長にあります。これまで保健師と一緒にどんな活動をしてきたのか。特定健診の実施前など、自身の健康に関心を持つタイミングに健康イベントを行う、仕事動線上に参加しやすいイベントを組むなど、今までの事業を活用しながら、方法などを再考することで、効果的な取り組みが生まれ、それをデータ化して、検証することで効果的な健康経営につながります。

コラボと評価

健康経営は義務ではありませんから、どんな事業から始めても構いませんが、従業員の意識づけと職場の環境整備がベースとなります。その際に健保や共済組合とのコラボするとメリットがあります。そして、次年度の予算をつけたり、従業員のモチベーションを高めるために短期的な評価は必要ですし、中長期的な評価では、従業員の健康が集団全体で改善または悪化しないかが求められます。
 大切なのは、データの読みとりです。分析だけでなく、対策の検討を外注する方法もありますが、現場を知るからこそ、職場の特性に応じた取り組みがわかることも少なくありません。

事例がモデルに

従業員一人ひとりが健康づくりを進めることが難しい毎日。企業のトップが健康経営を理解し、健康づくり事業を進めるには、データを使って自社の特徴、健康課題を明らかにすることが起点になります。「他社と比べるとこうです」。業界内の位置づけに敏感に反応するトップにはこういう働きかけが効果的です。
 新たな成長戦略の3つの矢として掲げられた「日本再興戦略」に「健康経営」が盛り込まれました。企業のCSR報告書への健康計画の導入や健康経営銘柄の導入などが示唆され、すでに健康経営の認証を受けた企業は、日本政策投資銀行から優遇金利の融資を受けています。
 労働基準局でも生産性向上のための健康投資を推進する企業の評価を考えています。厚労省の健康局も一昨年からスマートライフ・プロジェクトの中で「健康づくりアワード」を始めました。
 各社が進める健康経営が評価され、それが先行モデルとなって、さらに健康経営が広がっていくでしょう。

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