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健康かながわ

 
 

労働安全衛生法改正に伴い、本年12月から施行されるストレスチェック制度。従業員50人以上の事業場では実施が義務づけられている。この制度の導入にあたって、事業場はどのような準備が必要か。8月21日に開催された平成27年度第1回かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)では、これまでに産業医として企業でストレスチェックを実践されてきた「にしのうえ産業医事務所」所長、西埜植規秀先生(写真)に講演をお願いした。当日は県内の143の企業・団体から179人の担当者が参加した。

 


 法制化されたストレスチェック制度は、ストレスチェックを実施するだけでなく、その事後措置、すなわち高ストレス状態で面接希望の申出があった従業員に対し、医師面接及び就業上の措置を行うことまでが事業主に義務づけられている。施行は今年の12月1日であり、年に1回以上の実施が求められる。従って、50人以上の事業場では、来年の11月30日までにストレスチェックを1回は実施しなければいけない。
 ストレスチェック制度導入の背景としては、ストレスを感じている労働者が依然5割を超える状況や仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労災認定されるケースが増加傾向を認めることにある。こうした背景をふまえ、労働者がメンタルヘルス不調となることを未然に防止すること(一次予防)を目的として創設された。くの訴訟では、長時間労働が精神疾患を罹患した原因であることが前提となっている。

現状に合せて体制づくり

  実施の流れは、実施前・ストレスチェック実施・実施後(面接指導等)に分かれる。実施前では、事業者による方針の表明や衛生委員会での調査審議を行い、その内容を労働者に説明・情報提供する。
 「方針や目的は非常に大切です。事業場(または企業)トップが健康、特にメンタルヘルスをどのように考えているのか。事業場の姿勢、メッセージが伝わる内容にして欲しい。これにより事業場内におけるストレスチェック制度の位置づけが決まるかもしれません」と西埜植先生はポイントを指摘する。
 次に体制づくり。実施の流れを確認した上で、具体的な作業を洗い出し、社内スタッフでできること、できないことを検討する。
 常勤の産業医や看護職など産業保健スタッフが充実している事業場では、ある程度社内で実施できるかもしれない。しかしそうではない場合は、外部への委託を視野に入れて、実施者は誰が担うのが効果的・効率的かを検討する必要がある。
 実施者は、医師・保健師、または看護師と精神保健福祉士で研修を受けた者とされている。外部機関に委託する場合、外部機関の前記専門職が実施者となるが、社内に共同実施者を置かなければストレスチェックの結果情報を把握できない。外部委託する場合は社内と外部の役割分担、情報共有については事前に検討する必要がある。
 「社内に共同実施者を置かず、外部委託のみで実施することはメンタルヘルス対応が後手に回ってしまうなどのデメリットの可能性があるものの、社内に情報が知られないという安心感が出るかもしれません。それぞれの事業場の状況によって検討して欲しいと思います」と西埜植先生はいう。

高ストレス者は 申出で面接

実施者は調査票を選定し、高ストレス者の選定基準を決める。調査票の代表的なものには厚生労働省が勧める「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」があるが、必ずしもこれを使用する必要はない。ストレス要因、ストレス反応、修飾要因の3領域が含まれ、各項目を点数化し、高ストレス者かどうかの判定ができる質問紙であれば良い。
 職業性ストレス簡易調査票の特長は、仕事のストレス要因を適切に評価でき、心理的ストレス反応では、ネガティブな反応ばかりでなく、ポジティブな反応も評価できる点。また、個人だけでなくて、組織分析もできることが特徴である。事業場のニーズに合わせ、簡略化した23項目、さらに設問を加えた80項目というものもあり、これらを適用することも可能である。
 ストレスチェックの結果は本人への気づきを促すことができるよう、ストレスの状態をわかりやすくフィードバックすることが望ましい。内容としては、前述の3領域についてのレーダーチャート、ストレスの程度(点数)、セルフケアのアドバイス、面接指導の要否、相談窓口を明記したい。これらを使い、受検者にフィードバックする。高ストレス状態で医師による面接が必要な受検者には実施者から面接を勧奨するが、面接を行う場合は受検者からの申出が必要となる。
 「自身のストレス結果が会社や上司に伝わることを恐れ、ストレスチェックを受けなかったり、面接の申出を控える高ストレス者が多く出るかもしれません。特に高ストレス者を放置しておくことは会社にとってリスクです。実施者から情報が流出しないことをさまざまな場面で告知し、受検者に安心感を与えながら、粘り強く面接や相談を勧奨することが大事です。また、研修などで相談の重要性を伝えること、社内外に気軽に相談できる相談窓口を設置することも大変重要です」と西埜植先生。

高ストレス者は 申出で面接

 ストレスチェック制度の努力義務として、集団分析があるが、10人以下の集団分析の場合、個人が特定されるおそれがあることから分析対象となる一人ひとりに同意を求める必要がある。
 調査票に職業性ストレス簡易調査票を使用する場合、集団分析としては「ストレス判定図」による。その結果を管理監督者にフィードバックして、管理監督者が職場のストレスの特徴を読み取り、改善内容をリストアップ。そして、改善計画を立て、PDCAのサイクルをまわすことが可能である。ただそれには事業所や管理監督者の一定の理解がないと推進することが難しい。
 西埜植先生は「集団分析を事業場全体で進めることが難しい場合、産業保健スタッフが、事業場の中で気になる部署のデータを確認することから始めても良いでしょう。集団分析結果が有用であると認識できると、事業主や職場へも説明しやすくなります。分析していくと、ある程度「気になる部署」がデータに反映されるのが分かります。それを蓄積していくことによって、少しずつ職場環境改善のPDCAをまわしていってほしい」と語る。
 また「なかなか理想通りに進まないことも多い。やはり大切なポイントは事業主、管理監督者の姿勢と理解。職場環境改善をマネジメントの一環として、真剣に考えてもらうことができるよう、研修等で伝えるだけでなく、会社の方針や計画の中に組み込むことも有用。継続できれば必ず浸透してきます。少しずつ取り組めるところからスタートして欲しい」と会場に集まった参加者によびかけた。

質疑応答

Q 高ストレス者の面接は産業医でないといけないのですか。保健師などでもよいのですか。
A 高ストレス者で面接の申出をした人は医師面接となりますが、それ以外の人は医師面接の必要はなく、通常の産業保健活動での対応となります。
 面接指導の申出窓口以外の相談窓口を設置しておくこと、相談を勧奨することは会社の対応として重要です。
Q ストレスチェック制度の担当者がなかなか決まりません。現在健診の担当者でもよいでしょうか。
A 健診の担当者がストレスチェック制度の担当をしてもかまいません。法令の規定はすべて事業場単位の適用となり、全体の責任者は事業主です。
Q 実施計画書を提出する義務がありますか。
A 実施計画書を公的機関に提出する義務はありません。健康診断のように50人以上の事業場では労働基準監督署へストレスチェックの結果報告書の提出は必要です。

Q 職場環境改善に力を入れると57項目では難しいという話を聞きました。実際はどうでしょうか。
A 私自身は57項目を使うことで対応できると思います。さらに詳細な分析をしたい場合は新職業性ストレス簡易調査票(80問)も良いです。
私としては質問票の選定よりも、事業場の体制を十分検討しておく必要があると考えます。
Q 精神科以外の産業医の先生はどの程度対応できますか。研修などを受けていただくことが必要ですか。
A さまざまな先生がいるので、一概にはいえません。現在、ストレスチェックについての産業医研修が各都道府県の産業保健総合支援センターや医師会で実施されていますので、受講いただくことは有用と思われます。
Q 弊社は嘱託産業医で、月に1回安全衛生委員会のみの出席です。ストレスチェックで高ストレス者の産業医面談を実施する場合には、実施者または共同実施者に産業医の名前を入れた方がいいでしょうか。
A 入れた方が良いと指針にも書いていますが、嘱託産業医がまったく関与したくないといわれる場合は難しいと思います。
ただ労基署に報告する際は産業医の押印が必要となるため、仕組み上まったく関与しない、ということにはなりませんし、実施者・共同実施者にならなくても、時間が許すのであれば高ストレス者の申出がある従業員への対応はお願いしても良いのではないでしょうか。

Q 集団分析をする場合、部署の人数によっては結果が個人的に知られる恐れはありませんか。その場合、人数の規準はありますか。
A 厚労省で示しているのは10人です。10人以上の場合は個人が特定されにくい環境と判断し同意がなくても、分析に使って良いこととなっています。


 




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