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健康かながわ

  特定健診・保健指導で一気に働き盛り世代への生活習慣病対策の機運が高まり、今ではデータヘルスや重症化予防などの流れへとつながっている。平成27年度第6回かながわ健康支援セミナー(主催=当協会)では、臨床医と産業医の視点から働き盛り世代にフォーカスをあてている、福田洋先生に生活習慣病を中心に働き盛り世代の職場のヘルスプロモーションとヘルスリテラシーについてお話しいただいた。産業医や保健師、看護師など51団体63人が参加。 

企業風土が重要

かつて国際産業衛生学会では有害業務や職業病が話題の中心でしたが、近年、産業構造の変化とともに、有機溶剤や騒音などの古典的リスクから、長時間残業、メンタルストレス、長時間の座業、移民、震災、新興感染症など新たな働く人のリスクが指摘される中、職場での生活習慣病対策への注目も高まっています。国内でも特定保健指導、特定健診は第2期に入りました。第1期を振り返ると、メタボリックシンドローム、生活習慣病の意味を多くの国民が知り、6カ月間の特定保健指導も一定の効果を上げ、毎年約70万人程度が保健指導を受けており、生活習慣病に関するビッグデータも蓄積しました。
 しかし一方で、3大生活習慣病の未治療が明らかになり、糖尿病は約5割、高血圧は約7割、脂質異常は約9割が未治療です。特に協会けんぽや総合健保など中小企業が多い健保組合ではこの傾向が顕著です。忙しく働く人は、健康診断で生活習慣病の指摘があったぐらいではなかなか通院しない。むしろ歯が痛い、下痢が止まらないなど自覚症状があるほうが、通院につながります。臨床医と産業医の両方を行っていると「臨床と予防のはざま」、「職場と病院の距離」を実感することが多いです。
では、どうして通院しないのでしょう。アンケートでは「仕事が忙しい」という理由が多いです。問題はその本当の理由です。「健診結果に関心がない」「自覚症状がない」などの理由もありますが、逆に受診できたほうの理由を調べてみると、個人の問題よりも、職場の風土、経営者や上司の理解が大事なことがわかってきました。例えば、社長自身が大病を患ったことで健康に理解がある、就業時間内の受診が可能など、職場の環境を整えることが、受診を促し、健診や保健指導の効果を上げます。  

重症化予防から

また、特定健診のデータから生活習慣病治療中の方のコントロールの状況を知ることもできます。糖尿病が一番治療が難しく、コントロール不良は約7割です。高血圧は約4割がコントロール不良。一方脂質異常症は約2割がコントロール不良で、受診さえしてくれれば、治療に一定の効果が期待できます。
 対面で時間をしっかりかける保健指導はとても贅沢なヘルスプロモーションのツールです。私がもし真剣勝負で30分、40分、保健指導するとしたら、血圧200やヘモグロビンA1c10というような、重症化が懸念される方に時間を使いたいと思います。超重症域の対象者の選定に明確な基準はありませんが、対象集団の分布を見て、マンパワーとのバランスでよりリスクの高い方から指導すると良いでしょう。レセプトのデータを突合することでこれらの分析はさらに正確に行うことができます。
 特定健診・保健指導が始まったことで、メタボの人への保健指導だけでなく、未治療の状態や治療中の方のコントロールの状態も見えるようになりました。健康保険組合、企業など、それぞれの対象集団の健診の受診者全体のデータを俯瞰して見られるようになったのは大きな収穫です。 

ヘルスリテラシーが鍵

ヘルスリテラシーは「健康面で適切な意思決定に必要な基本的健康情報やサービスを調べ、得て、理解し、効果的に利用する個人的能力」です。所得、学歴、人種などの健康格差が課題であるアメリカでは国策として国民のヘルスリテラシーの向上を目標に掲げています。
 順天堂大学と全日本民医連 による共同研究(T2DMU40Study)(注1)で、40歳以下の若年糖尿病患者の肥満が明らかになりました。驚くべきことに対象患者の4人に3人がBMI30以上で、4人に1人に網膜症、6人に1人に腎症、心筋梗塞や脳梗塞、足の壊疽などの合併症を発病している方もいました。対象集団は日本の平均に比べて、低学歴、低所得、非正規雇用や無職の方が多く、ヘルスリテラシーが低い方でより肥満が多く、糖尿病コントロールが悪いという結果でした。
 臨床では、ヘルスリテラシーの不足はリスクになります。例えば糖尿病患者が渡されたパンフレットの意味が理解できないと、正しい治療につながりません。ヘルスリテラシーを提唱した英国・サウサンプトン大学のナットビーム学長は、公衆衛生では資産(アセット)として捉えられるといいます。ヘルスリテラシーが高まると、個人は禁煙したり、運動を始めるかも知れません。その人が健康になるだけでなく、企業ならば衛生委員会やスポーツなどの活動が盛り上がるかも知れません。個人の健康だけではなく、組織や地域、国をも変える資産になりうる可能性があるのです。  ヘルスプロモーションに取り組める企業や、そこで働く社員さんは恵まれていると思います。健康情報をきちんと使えることの幸せさを理解し、それを会社が提供できたら、素晴らしいことだと思います。
 産業保健のゴールはヘルシーカンパニーです。働く人が多くの時間を過ごす職場に健康な環境を作ることです。健康と経営や職場とをどう関連させてとらえるか、まだいろいろと考えるべきところがあります。ヘルスリテラシーを新入社員から管理職、壮年、退職の世代、そしてその人たちが地域に還っていくまで、生涯通じて高めていくことが重要と思います。

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