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健康かながわ

第5回かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)が12月12日、横浜情報文化センターで開催された。今回は「企業が留意すべき従業員のメンタルヘルス対策~法令・裁判例に基づく対策について」をテーマに、安西法律事務所の荻谷聡史弁護士(写真)に講演いただいた。使用者に問われる安全配慮義務について、裁判例などから最近の動向をうかがった。県内の健康管理担当者ら92人(81団体)が参加した。

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問われる安全配慮義務

 
 従業員がメンタル不調に陥ることのないようにすることは、従業員の生活と命を守り、企業の生産性を高めるうえでも重要である。平成27年の厚生労働省の調べでは、仕事や職業生活に関することで、強いストレスを感じる労働者の割合は55・7%。精神障害に関する労災請求のうち、未遂を含む自殺件数は199件、支給件数は93件に及ぶ。
 精神障害の発症が業務に起因すると認められ、労災認定されるのはどのようなケースか。セミナーでは、厚生労働省が定めた労災認定基準「心理的負荷による精神障害の認定基準について」のレジメを配布。資料には、「達成困難なノルマが課された」など具体的な出来事と共に、それに伴う心理的負荷の強度を弱・中・強と判断する具体例が書かれている。具体的な出来事について、心理的負荷が「強」の評価となり、その後精神障害を発症した場合には、通常は労災認定となる。また心理的負荷が「中」の評価である出来事が複数生じている場合にも、労災認定される場合がある。
 労災認定はあくまでも政府との間での問題であり、それとは別に、企業との間では損害賠償責任が問題となる。損害賠償責任の種類としては、不法行為責任と債務不履行責任があり、また、労災保険給付を受けた場合は賠償額が減額される。
 精神障害を発症する業務の典型例として見過ごせない、長時間労働にも言及した。ここでは、平成12年の電通事件を取り上げ、「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」が企業側にあると明言した最高裁の一文を紹介。この判決を機に、過重労働に起因する精神疾患について、安全配慮義務違反の有無がより一層問題とされるようになった。
 また、メンタルヘルスに関する情報を従業員が申告しなかった事例として、平成26年に出された、電機メーカでのうつ病・解雇事件の判決を紹介。この事案では、「たとえ労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている」とされた。安全配慮義務を守るためには、従業員の申し出がなくても、従業員にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、必要に応じて企業から手を差し伸べて業務軽減を図り、長時間労働させないなどの配慮に努めることが重要。そのためには、日頃から上司は部下とのコミュニケーションを深めて部下の変化を観察し、体調や顔色の悪化、食欲低下、服装の乱れなどの異常があった場合、適切な対応が求められる。

従業員の処遇にかかわる課題

  続いてのテーマは、精神障害を発症した従業員の休職・復職・退職(解雇)に関する注意点。発症原因が業務である場合、原則として療養のために休業する期間及びその後30日間は解雇できない(労基法19条1項)。
 発症原因が業務以外である場合は、休職制度が適用される事例が多い。休職制度を設けるか否かは各企業の判断にゆだねられるが、一度設定したら労働者の同意なしには、原則として廃止できない。また、休職を適用せずに解雇すると、解雇権の濫用になる可能性が高いので注意が必要。
 では、従業員に精神疾患が疑われる異常な言動がある場合どのように対応するか、大まかな流れは図のとおり。また、本人が休職を求めない場合はどうするべきか。この場合、まず当該異常な言動が精神疾患によるものか否かを特定する。また医師の診断により、精神疾患が原因で仕事ができないと判断された時は、休職を発令できる。
 精神疾患か否かの判断は、専門医の受診が必要となるが、従業員が診断を受けたがらない場合は、合理性・相当性があれば、企業は受診を命じることができ、従業員はその指示に従う義務がある。
 休職しても治癒しない場合は、一般に就業規則上、解雇または自動退職になるとされており、復職するには「治癒」の判断基準がポイントになる。治癒は原則として、「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したか」が基準となる。ただし、これまでの裁判例から「職種に限定がない場合であれば、他の軽易な職務であれば従事することができ、当該軽易な職務への現実的な配置可能性があるか」などの例外的な基準もある。
 従業員が復職を申し出た場合、原則・例外に則って治癒したか否かを専門医の意見を踏まえ、企業が最終決定する。産業医と専門医の判断が分かれたら、産業医の意見を踏まえることも可能。
 また、復職においてはリハビリ出勤(トライアル出社)を取り入れる企業もある。法令上定めがある措置ではないが、任意にリハビリ出勤を行う場合は、休職期間継続の有無や労務提供義務の有無など、内容や処遇を明確にしておくこと。
産業医も訴訟の対象に
 メンタルヘルス訴訟には様々な事案があるが、産業医が訴訟の当事者になるケースもある。
 大阪地裁が扱った事案では、自律神経失調症で休職中の従業員に対し、勤務先の産業医の言動により、症状が悪化し復職時期が遅れたとし産業医に損害賠償を求めた。大阪地判は、「自律神経失調症の患者に面談する産業医としては、安易な激励や圧迫的な言動、患者を突き放して自助努力を促すような言動により、患者の病状が悪化する危険性が高いことを知り、そのような言動を避けることが合理的に期待される」とし、復職が遅れたことによる減収と慰謝料についての損害賠償が認められた。

産業医も訴訟の対象に

メンタルヘルス訴訟には様々な事案があるが、産業医が訴訟の当事者になるケースもある。
 大阪地裁が扱った事案では、自律神経失調症で休職中の従業員に対し、勤務先の産業医の言動により、症状が悪化し復職時期が遅れたとし産業医に損害賠償を求めた。大阪地判は、「自律神経失調症の患者に面談する産業医としては、安易な激励や圧迫的な言動、患者を突き放して自助努力を促すような言動により、患者の病状が悪化する危険性が高いことを知り、そのような言動を避けることが合理的に期待される」とし、復職が遅れたことによる減収と慰謝料についての損害賠償が認められた。

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