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健康かながわ
第6回かながわ健康支援セミナー(主催=当協会)が1月31日、横浜情報文化センターで開催された。今回は「睡眠障害の弊害とその対策」をテーマに、東京慈恵会医科大学精神神経科教授で同大・葛飾医療センターの伊藤洋院長に講演いただいた。当日は県内の産業保健に関わる健康スタッフなど81団体から91人が参加。不眠症の定義など基本的な概念から治療、そしてその弊害など幅広い角度から解説があった。。  

不眠症

 睡眠障害といわれるものは90種以上あるが、もっとも頻度が高いものは不眠症である。伊藤洋先生は、睡眠障害の分類から講演を始めた。
 睡眠障害国際分類では、不眠の臨床型は、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒に分類されており、いくつかの根拠により熟眠障害は除外された。また慢性不眠障害の診断基準を、週3回以上で最低でも3カ月続いていることとしており、日本では、5人に1人が『不眠』を訴えているとされるものの、『不眠症』と診断される人は6~8%と考えられている。
 不眠症は、かつては「本人は辛いものの何の弊害も待たない病態」と考えられていた。
 その認識を変えたのが、寝不足による判断ミスから起きた86年のスペースシャトルの爆発事故だ。これを受けアメリカでは、不眠による社会的損失は、不眠を解消するために必要な経費の10倍に上ると結論づけた。
 不眠症は日中の眠気(EDS)の原因となり、作業能力・判断力の低下や反応時間の遅延などの弊害が生じる。夜勤明けの運転による事故は通常の4~5倍に達し、徹夜運転は、飲酒運転と同様のパフォーマンス低下をもたらす。
 また最近改正された道路交通法を受け、日本医師会では「道路交通法に基づく一定の症状を呈する病気等にある者を診断した医師から公安委員会への任意の届出ガイドライン(平成26年9月)」も出されている。。

認知症と睡眠障害

 不眠が心身に及ぼす影響に関しては、糖尿病、高血圧や心筋梗塞との関連、あるいは、乳がん・膀胱がんの発症リスクとの関係が、研究されている。最近のトピックは認知症との関連である。
 認知症患者は、神経伝達物質の障害により、睡眠障害の頻度がきわめて高いことは、以前から知られていた。最近になって、睡眠は脳神経組織を傷つけるβ-アミロイドを洗い流す作用があるため、睡眠の改善で認知症を予防できるのではないかといわれるようになった。これを支持する、「不眠が長期間持続すると海馬が委縮する」などのデータは発表されてはいるが、「直接原因が睡眠だ」との確定はできていない。。

不眠症の治療

日本は諸外国と比べ、BZP(ベンゾジアゼピン)系睡眠薬の使用量が多いといわれていることを受け、国立精神・神経医療研究センターなどが『睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン』を作成した。これにより、規則正しい時間に7時間以上の睡眠をとるなどの睡眠衛生指導を行ったのち、投薬することとされた。
 しかし、日本では20~25%の人が交代制勤務であり、毎日決まった時間に睡眠をとることが難しい。対策としては、ヒトの体内リズムに即したシフトの見直しである。日勤→準夜勤→夜勤と、徐々に夜にずらしていくほうが、体に負担が少ない。
 先進国になればなるほど、交代制勤務が増えていく。企業の利益と個人の睡眠は相反するものだが、不眠を放置すれば事故につながり、社会的損失の増大を招く。主訴を放置せず、何らかの対応をとることが、企業にも求められている。
 伊藤教授は詳細な事例や、さまざまな研究データをわかりやすく示しながら、企業の課題にも触れた。

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