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健康かながわ

今年度 第2回 かながわ健康支援セミナーが8月25日、神奈川県自動車整備振興会教育センターで開催された。産業保健に関わる産業医や看護師など75団体、91人が参加。今回は放射線影響研究所顧問研究員、産業医科大学名誉教授の大久保利晃先生による「産業保健活動の軌跡とこれから」と産業医科大学精神保健学教授の廣尚典先生による「ストレスチェック実施後の職場環境改善の取り組み方」の2題の講演が行われた。本紙では、長年、産業保健活動に関わってきた大久保先生による講演内容を報告する。

 


産業保健活動を見直す

「産業保健活動は、時代とともにどんな変化を遂げてきたのだろうか。今回は、産業保健活動の軌跡を辿り、健康診断の活用法や産業医制度のこれからについて、現在抱えている課題を含めて考えていきたい」と大久保先生(写真)。

労働者の健康課題は、時代ごとに変化し、昭和20年代は結核や感染、昭和30年代は急性中毒やじん肺。そして昭和50年代からメンタルヘルスに注目が集まっている。
健康診断の目的について大久保先生は「健康診断は長い間、疾病の罹患が疑われる人の選別、スクリーニングが目的だったが、今後は疾病発見だけでなく健康度測定として位置付けられるべき」という。
毎年、測定される一人ひとりのデータを継続的に観察し、健康政策に反映させることが人々の健康向上につながる。また、これまでの産業保健活動において問題視されてきた、法律・行政主導の動き、企業規模による格差も改めたい。「ニーズに沿って自主的に目標を決めて活動し、すべての労働者が産業保健活動の恩恵を受けられるようにしたい」と話す。
大久保先生は、職場環境レベルと産業保健活動の在り方についても言及。産業保健活動には、当然ながら費用がかかる。では、どのような費用の投じ方が得策か。環境レベルが悪いときは環境対策に、環境レベルが改善したら健康増進や快適な職場環境作りに力を入れ、その時々の環境レベルに応じてプログラムを考え、予算を組むのが望ましい。
では、産業保健活動の現場では、どんな産業医が求められるか。大久保先生は「企業の労働実態に明るく、経営を理解する能力を持ち、医学を基礎とした学際的専門領域を持つ人材が理想的。こうした人材を最低でも10年間の養成期間を設けて長期計画で育てていきたい」と話す。

制度改善の必要性

よりよい産業保健活動を実現させるには、産業医制度自体を変えていく必要がある。かつては医師免許があれば産業医として選任されたが、日本医師会認定産業医制度の成立により、所定のカリキュラムに基づく産業医学基礎研修50単位以上を修了した医師、またはそれと同等の研修を受けた医師にのみ認定証が交付され、産業医活動に従事するようになった。
 現在の産業医制度の問題点の1つが、いわゆる〝50人の壁〟。産業医の選任義務があるのは、常時50人以上の労働者を雇用する事業所に限られ、労働者人口の過半数は制度を利用できない。今後は、全労働者を対象にした産業医選任制度を望まれる。制度を変える場合、派遣、在宅など多様な雇用形態への対応が不可欠。
 また企業の労働者数に比例する形で、企業規模を問わず選任できるしくみ作りが急務といえる。
 すでにこうしたしくみを確立しているヨーロッパ諸国の事例も参考にしたい。ヨーロッパ並みの基準で全労働者を対象にした選任制度が成立した場合、必要な産業医の数は専任換算で2万5、650人と計算される(表)。また、産業医の社会的地位の確立、身分保障、生涯研修、独立性・中立性の確保、責任体制の確立についても制度化する必要がある。
 では、産業医の社会的立場を確かなものにするにはどうすればいいか。まず、認定医、専門医制度の認知度を高め、産業医の権限や裁量範囲の拡大が望まれる。後者は企業との契約内容や産業医一人ひとりの能力に関係するので、課題は多い。嘱託産業医の場合など、企業側から十分な情報を得られないケースもあり、情報提供の面でも改善が必要。さらに、契約内容の明確化などもあげられる。
 制度が整い十分な数の産業医を養成できた場合、産業医が所属する機関が必要になる。これには労働衛生機関が率先してその役割を担っていただきたい。こうした産業医業務提供システムの確立を急ぎたい。

産業保健の未来

最後にこれからの産業保健のあるべき姿が語られた。「第一に積極的、創造的な提案ができる体制作りを進めたい。また産業医は、医学に留まらず会社の経営陣、工場の技術者とも意思疎通ができる知識と共通言語を持ち、総合的な能力を身に付ける必要がある」と大久保先生。
 医療者の立場で発言するのではなく、労働者の身になって指導し、本人が自主的に健康対策に興味を持つよう心掛けたい。また労働負担の軽減が叫ばれるが、人によっては仕事を減らされることで自責を生み、ストレスになるため個人の適正を見極めた指導が必要となる。健康診断においては、どの数値レベルからでも対策次第で健康度を上げられるという認識を産業保健の現場から高めていきたいと大久保先生はいう。
 産業保健活動の軌跡をめぐることで見えてきた課題を1つずつ解決し、時代に即した活動が期待される。

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