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健康かながわ

  第5回かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)が、12月6日に神奈川中小企業センタービルで開催された。「マインドフルネスで働く人の心をサポートする方法」をテーマに、RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長で、林香寺住職の川野泰周医師(写真)がここ近年、注目を集めている心理療法「マインドフルネス」を精神医学と仏教の視点から解説した。当日は69団体82人の参加があった。

こころの科学 マインドフルネス

マインドフルネス。企業で人事や健康管理に携わっていれば一度は聞いたことのあるワードではないだろうか。マインドフルネスとは「意図的に、今この瞬間に、判断せずに、注意を払うこと」と、これを身体疾患や精神疾患の治療として導入した第一人者であるジョン・カバットジン(マサチューセッツ大学医学部名誉教授)は定義している。カバットジン博士は1979年瞑想体験を中心としたストレス低減クリニックを大学医学部に設立、1990年に著書「マインドフルネス・ストレス低減法」を著し、同法を確立した。その効能はうつ病や慢性疼痛性疾患の治療効果のみならず、ストレス耐性の向上・集中力の向上・創造的思考と明晰な思考の促進など多岐にわたる。
 「マインドフルネスは健やかに生きるための智慧であり、思い遣りと慈しみの科学。禅に通じるものです」と講師の川野泰周医師は語る。川野医師は精神科医として臨床にあたるとともに臨済宗建長寺派林香寺住職として仏道に励まれている。川野医師はマインドフルネスが注目を集めるようになった背景について、「心理療法に対する認識の変化」をあげる。
 15年前の精神科治療では心理療法はあくまで補助的なものと考えられており治療の主体は薬物療法であった。しかし、この5~10年で心理療法の治療効果が、薬物療法を上回ることがある、ということが信頼性の高い研究で証明されたことにはインパクトがあった。図は2015年、医学雑誌ランセットに発表された研究。再発を繰り返すうつ病患者414人を従来どおりの薬物維持療法と抗うつ薬を中断して、マインドフルネス療法を行う2グループに分け、うつ病の再発率を調査したもの。2年間の調査ではほぼ同程度の成績(統計的有意差なし)であったが、翌年(2016年)の発表では有意差が得られた。
「治療行為は常に科学的な視点で吟味される必要があります。すなわち再現性、統計的な有意性、論理的整合性を有することが必須です」と川野医師はいう。
 心理療法の科学的根拠(エビデンス)が証明される一方、国内の精神科臨床ではいまだに薬物療法一辺倒である現状を川野医師は嘆息する。多くの新しい心理療法は怪しいという偏見や時間と手間のかかる心理療法では診察患者数を稼げないから、と解説する。
 また、マインドフルネスのメリットとして川野医師は「いっぺんに数十人の集団療法が可能であり、患者さん自身が自宅でもできるのでセルフヘルプにつながる」という。

ビジネスへの応用

マインドフルネスが注目を集めた背景にアップルやグーグルなど米国の錚々たる新進気鋭の企業が社員研修にマインドフルネスを導入したことがあげられる。特にグーグル社のエンジニアであったチャーディー・メン・タン氏が同社の社員研修として導入しやすいプログラムを開発し、世界的ベストセラーとなった「サーチ・インサイド・ユアセルフ」を著したことも普及の一因であろう。
 ROI(Return On Investment)・投資利益率は投下した資本に対して得られた利益を表す指標である。マインドフルネスの効果をROIとして評価している企業では「バーンアウト(燃え尽き)状態となる社員が減少し、生産性が20%向上。その結果、社員66人で年間22、580ドル(約250万円)の経費削減」(ダウ・ケミカル社)、「社員1人あたりの生産性が1週間で62分間向上し、1人あたり年間3、000ドル(約33万円)の経費削減」(エトナ社)といった報告がある。。

マインドフルネスの実践

セミナーでは川野医師のガイドで代表的な呼吸瞑想(主な流れは表のとおり)を参加者全員で体験した。
 瞑想中は、ただ呼吸に意識を向け、雑念がわいてもかまわない。周囲の音やしびれやかゆみといった身体の感覚への気づきが高まる場合もあるが、気づいたら、捉われず、ただ呼吸に注意を向けなおす。マインドフルネスの目的は集中することではない。
 自分に向き合い、評価・判断をすることなく今この瞬間の感覚に注意を向けること。
 そこから生まれる一瞬一瞬の気づきを得て、そして手放していくことが要諦だ。。

 

 


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