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健康かながわ

  3月6日、かながわ健康支援セミナーが開催された。今回は特別編として、当協会がある横浜市中区関内周辺の事業場に呼びかけ、最近関心が高まっている「胃がんのリスク検診(ABC検診)」の有効性や対応について行われた。講師は神奈川県立がんセンター名誉総長で当協会がん予防医療部の小林理部長。11団体、17人が参加。

がん検診受診率は低迷

 国立がん研究センターのデータによると、2017年度の国内のがん罹患数予測で胃がんの罹患数は13万2、800人でがんの部位の中で2位でありながら死亡数予測では4万7、400人で3位と他のがんに比べ死亡率は減少している。
 がんの予防のための方策として、一次予防は、がんにならない体、職場、環境をつくる。それには個人の取り組み、企業の取り組み、国や自治体の取り組み、生活環境の見直し、検診やワクチンなどの対応が必要だ。二次予防は、がんを治せる段階で検診を受けること。
 国が策定した第3期がん対策推進基本計画(平成30年3月9日閣議決定)でも「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す」の全体目標でもそのトップに「科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実」と掲げられている。
 しかし、がん検診の受診率は伸びず、神奈川県では対策型任意型含めて41・8%と全国平均の40・9%は上回るものの50%にすら届かないのが現状である。これが改善されれば、さらに胃がんの早期発見が進み、治療可能な数も増え、死亡率も減少する。
 未受診の理由には「心配な時に検診を受ける」「健康に自信がある」「がんが見つかるのが恐い」など対象者の関心の薄いケース、「勤務時間内に受診ができない」「子連れでの受診ができない」など忙しさがネックになっているケース、費用の問題などが上げられている。
 そこで注目を集めているのが「胃がんのリスク検診(ABC検診)」(以下ABC検診)である。血液検査でできるために、「胃X線検査」「胃内視鏡検査」に比べて手軽に検診を受けられるというメリットが何よりも大きい。

発症のリスクを測る

 一般的に現在、胃の検査の方法には「胃X線検査」「胃内視鏡検査」「ペプシノーゲン検査」「ピロリ抗体検査」の4種類があり、この「ペプシノーゲン検査」と「ピロリ菌抗体検査」を併用したものが、「ABC検診」である(表1)。
 2014年度版国立がん研究センター がん予防・検診研究センターの有効性評価に基づく検診ガイドラインでは、胃がん検診は「科学的根拠のある検診」として40歳以上を対象としたX線検査による検診を標準的な方法として、さらに胃内視鏡検査も推奨されている。
 「ペプシノーゲン検査」「ピロリ菌抗体検査」と併用する「ABC検診」についてはどうだろうか。
 「ピロリ菌抗体検査」は、がんの原因となることの多いピロリ菌が感染しているかどうかを検査する。ピロリ菌の感染は年齢とともに増えていく。もともと海外に比べ、胃がんの発症の比率の高い日本人であるが、発症にはピロリ菌の感染率がかかわっている。この検査ではピロリ菌に感染しているかで胃がんのリスクを評価していく。しかし、海外では胃がんにおけるピロリ菌の感染率は日本よりも低く、また、ピロリ菌の感染率が日本人を上回るインド人は、胃がんの発症率は低いことから、ピロリ菌の感染はあくまでもリスクが大きい、としかとらえられない。また、事前にピロリ菌の除菌を行っている場合は陰性が出てもリスクは大きいと考えられる。
 一方、「ペプシノーゲン検査」では血液中のペプシノーゲン(消化酵素ペプシンの前駆体)の濃度によって、がんに進展する傾向の強い萎縮性胃炎が進行しているかを調べるもので、これも必ずしも進行の進み方ががん発症そのものを表すものではない。
 「胃がんのリスク検診(ABC検診)」はこの2つの検査結果の組み合わせを分類し、胃がん発生のリスクを評価するものである(表2)。
 表のようにそれぞれの検査の陽性(+)と陰性(-)の組み合わせでA群からD群の4つに分類されるが、どちらも陰性であるA群でも胃がん発症のリスクが低いといえるだけで、発症しないということではない。評価としては、リスクが低い順にA群は精密検査が不要、B群は3年に1回、C群は2年に1回、D群は毎年、X線や内視鏡によるがん検診の受診が推奨される。

A群でも発症の可能性

しかし、もっともリスクが少ないといわれるA群でも胃がんが発症する例もある。2008年から5年間の「ABC検診」受診者に対する東京都がん検診センターの統計(図)では、その後発見された胃がん571症例はA群が11・6%、B群が27・8%、C群が53・1%、D群が7・5%という結果が残されている。A群という評価が出ていても、当初と数年に1回はX線や内視鏡によるがん検診を受ける必要がある。また、国立がん研究センターのガイドラインでも、陽性者率が高いことから「過剰診断の可能性が高い」とされており、受診者の利益と不利益から考え、推奨グレードの評価は低い。

がん検診の補助的導入として

「ABC検診」はまだ明確なエビデンスが得られておらず、これだけに対策型胃がん検診を委ねることはできないが、その手軽さから、広い意味での受診率を高めるきっかけとなっている。さらに精密検査への受診勧奨まで見据えて、取り組むことが望まれる。リスクの程度を認識し、がんの発症とも関係の深い生活習慣を見直し、「胃X線検査」「胃内視鏡検査」など、必要ながん検診を受ける目安として活用するならば、その効果があると考えられる。しかし、現状ではX線や内視鏡によるがん検診の補助的な導入というな視点でとらえることが望まれる。

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