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子宮がん車検診35年の成績

神奈川県予防医学協会では、神奈川県・横浜市からの委託を受け、昭和43年から検診車による子宮がん検診を実施し、平成14年までに189万6317人、近々200万人に達する実績をあげている。今号では、子宮がん車検診35年間の成績と検診の有効性、近年顕著にみられる若年層における子宮頸がん・異形成発見率の上昇傾向、さらにこれからの子宮頸がん検診のあり方などについて、当協会中央診療所副所長、婦人検診部長の岡島弘幸医師が解説する。

車検診35年間の成績

image受診者総数:1,896,317名
内初診者数:569,173名
再診者数:1,281,352名
初・再診不明者:45,792名
要精検者数:12,199名
精検受診率:96・1%
頸部異形成検出数:2,076名
頸部異形成検出率:0・11%
頸がん検出数:2,053名
検出率:0・11%

以上が35年間の総括である。図1に子宮頸がん発見の推移を経年的に示したが、検診の効果が見事に表れている。検診開始当時0・33%あった発見率が昭和57年、老人保健法スタートの時期ですでに0・16%に略半減し、その後も減少して平成9年には0・04%となった。しかし、その後増加に転じて平成13年に0・10%となった。その増加の原因は図2でみるように若年層での急増にある。

次に前がん病変である頸部異形成の推移をみると(図3)、継続した検診の努力にもかかわらず一貫して右肩上がりの上昇を示している。特に平成7年の0・12%以後、平成13年0・28%までの上昇率は急峻で、これを年齢階層別に分析してみると(図4)、やはり若年層での上昇によっていることが明白である。したがってこの若年層に抵抗感をもたせることなく、いかにして検診の場に誘導するかが今後の大きな課題である。

ヒトパピローマウイルス(HPV)と頸がん

子宮頸がんの発生は、昔から性習慣・性行動が関係していると言われてきた。かつて性病(VD)と呼ばれていた梅毒、淋病などの細菌感染はペニシリンの登場により急速に収束し、代わりにクラミジア、性器ヘルペス、尖形コンジローム、そして致死的感染症であるエイズが1980年代に登場して、性感染症(STD)への社会的関心が一挙にたかまった。頸がんとHPVの関係が明らかになったのは、1983年zur‐Hausenらが頸がん組織の中からHPV16型をクローニングして以来のことで、この発見以来HPVが頸がん発生に最も関与する因子と考えられるようになった。

HPV感染が細胞診上どの様な所見を呈するか、私のお師匠さんの増淵一正先生が昭和52年、日本で初めて国際細胞学会議を開催した時、私はカナダの細胞病理学者Dr.Meiselsから、がんや異形成の異型核周囲に見られるコイロサイトーシスが、HPV感染による特異的細胞、組織変化であることを教えられた。
最近10年間に車検診でみられたコイロサイトーシス検出率の傾向は図5にみるように平成12年0・07%、平成13年0・18%と急増し、これが異形成検出率の急増と関連していると考えざるを得ない。

今後の子宮頸がん検診のあり方

image現在の細胞診による子宮頸がん検診が、東北大学・久道茂教授(当時)による「がん検診の有効性評価に関する研究」でも「検診の有効性を証明する充分な証拠がある」と評価され、子宮頸がんは早期に発見すれば子宮摘出までしなくても完治できて、その後の妊娠・出産も可能とQOLの面からも高く評価される由縁は、Dr.Papanicolaouが1928年、細胞診による「がん」診断の可能性を提案したことから始まった。

日本には終戦後、米国との学問的交流が再開され、細胞診の手法が導入されて、東北大学・黒川利雄先生を中心とする、がん検診体制が確立されたことによるところが大きい。

今、これと同じようなエポック・メイキングな科学的進歩がある。それは1970年代後半から遺伝子工学的手法によりHPVDNAが試験管内で増やすことが可能になったことである。これによってHPV研究は飛躍的に発展することになった。

今、筑波大学・吉川裕之教授を中心とする「HPV感染と子宮頸部発がんに関するコホート研究」が組織され、本邦ではHPV16・18型など、がん関連DNAと広く認知されている7タイプを主要危険因子として、細胞診所見と、このハイリスクHPV陽性群を組み合わせた異形成状態の管理法が提唱されはじめている。近い将来子宮頸がん検診にこの遺伝子工学手法が組み入れられる方向性はまちがいないように思われる。

車検診と精度管理

平成10年、老人保健法による検診事業が一般財源化され、実施責任が市町村に移管された際に、一番懸念されたことは精度管理の問題であった。

厚生労働省は平成18年3月31日付で、ようやく「がん予防重点教育及びがん検診実施のための指針」の一部改正を通知、4月1日からこの指針に基づくがん検診の実施を求めた。

今回の改正で従来と大きく異なる点は、従来「受診率、要精検率、精検受診率、がん発見率等を検討するとともに、効果や効率を評価する」と、やや漠然とした表現であったものを、これに「陽性反応適中度」を加え、「これ等の指標を把握し、地域医師会、検診実施機関、精密検査機関等関係者に対する指導助言を行う」など、管理指導協議会に対し具体的に運営内容を定めたり、さらに「住民が自ら受けるがん検診の質を判断できるよう、検討結果をホームページに公表する」ことを求めている。

この指針改正が一日も早く県指導協議会の運営に反映されることを願うものであるが、今回まとめさせていただいた車検診35年間の成績は、関係者のご努力のお陰で、まさに35年間の永きにわたってこの指針通りの精度管理が実った結果と自負されるものである。

(健康かながわ2007年2月号)
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