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健康かながわ

「食育」はいま…

皆さんはどこかで「食育」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。6月は食育月間です。また毎月19日が食育の日とされ、各地でさまざまな食育の取り組みがなされているのです。そこで今月は「食育」を特集し、日本の食育をリードする独立行政法人国立健康・栄養研究所の栄養教育プログラム・食育プロジェクトリーダーの饗場(あいば)直美先生に食育の現状とその課題そして今後の食育への提言も含めて寄稿していただきました。

子どもの健康と生活の現状

image平成17年国民健康・栄養調査では、小学生の体型が男女共に「やせ」と「肥満」が増加し、その代わり、「普通」体格者が減少していることがわかります(図1)。

また、思春期において、女子は自分の体型に対する過大評価の傾向が強く、自分が普通及びやせであるにも関わらず、肥満しているとの自己評価をする傾向が強く認められてきます。

女子のこのような傾向が食事の欠食につながり、十分な栄養が食事からとれない場合には、女性としての発達段階において大きな影響がでてくるばかりではなく、老齢期の骨粗鬆症のリスクが高まることが危惧されています。

朝食欠食

この子どもたちの体格の変化は、何に起因するのでしょうか。その中で食は避けては通れない問題です。子どもたちの食の乱れの一つとして朝食欠食が注目されています。
朝食欠食がこども達の不定愁訴と関連することが指摘されていますが、体力、特に持久力の養成にも影響しているようです。また、朝食を毎日摂取する子どもは、摂取しない子どもに比べ、授業でのテストや体力等での持久力があることも報告されています。

その理由は…

欠食習慣のある子ども達に朝食を欠食する理由を聞いてみると、「お腹が空いていないから」「食べる時間がない」がその主な理由として挙げられています。この二つの理由はいずれも前日の生活の影響を受けています。

夜遅くまで起きており、夕食あるいは夜食の時間が遅くなり、子ども達の食生活、生活が夜型に移っていることが1つの原因だと考えられます。高学年になるほど就寝時間が遅くなりますが、起床する時間は7時~7時半で寝不足になり、あるいは遅く起きると食事をする時間がなくなります。短時間でも食事ができる朝食の工夫や夕食が遅くなり、就寝までの時間が短い際には食事の内容を見直すなど、朝食を食べる環境整備が必要です。

給食の効果も

平成14年の食事状況調査結果において、登校日と休日とでは栄養摂取状況に差が認められます。日本人が不足していると考えられているカルシウムは、給食のある登校日にはほぼ摂取基準を満たすことができていますが、休日では不足しています。これは給食の効果が上がっていると考えられます。

給食のある日でも不足している栄養素として、鉄、食物繊維があります。鉄は毎日の活動にとって必須のミネラルであり、不足すると、だるさ等の不定愁訴やひいては貧血になります。子ども達の嫌いな食べ物の第一位は野菜類で、野菜不足が食物繊維の不足の原因と考えられます。
その一方で、脂肪からのエネルギー摂取比率が高く、脂肪のとりすぎが問題になっています。野菜不足、肉類からの脂肪の過剰摂取が子ども達を肥満へと向かわせている要因であると考えられます。

食育の意義

image食環境の変化、栄養の偏り、不規則な食事、肥満や生活習慣病の増加、過度の痩身志向への傾向、食の安全への様々な問題を解決するために「食育基本法」が制定されました。
「食育基本法」は、多省庁(内閣府、厚生労働省、農林水産省、文部科学省)にわたる総合健康施策であり、世界でも類をみない施策です。「食育基本法」の中で、食育は「生きる上での基本として、知育、徳育、体育の基礎」と位置づけられています(図2)。

特に子ども達に対する食育については「心身の成長及び人格の形成に大きな影響を及ぼし、生涯にわたって健全な心と身体を養い豊かな人間性をはぐくんでいく基礎となるもの」としています。そして、食育を「『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる」ことと定義しています。

幼児・学童期が大切

平成18年3月に策定された「食育推進基本計画」では、食育を効果的に推進するために、平成18年度から22年度までの5年間の間に数値的「目標」達成を目指して、多職種、国、地方公共団体、各種団体、ボランティア等が連携、協力を強化し、全国的国民運動として展開していくことが求められています。
生涯を通じて、それぞれのライフステージに応じた食育実践が求められていますが、特に食習慣・生活習慣が形成される時期である幼児・学童期にこそ、健全な食習慣を築くことが、子どもたちが大人になったときに健康でいられることをより確実にすると考えられます。

この食育の重さにわたし達は気がついているでしょうか?
「食育基本法」の中で言われていることは、「健全な人間を育て上げる」ことなのです。子どもたちの将来の人生に関わる事業なのです。そのことを常に共通認識としてもち続けていきたいものです。

6月は食育月間で、毎月19日が食育の日です。現在、全国各地で様々なすばらしい食育の取り組みがされています。学校での食育推進のために、栄養教諭導入による体制の強化、指導内容の充実、学校給食の充実、子ども達の健康状態の改善等が目標として挙げられています。

栄養・食の専門家 栄養教諭の配置を

食育の専門職員として、栄養教諭の導入がなされましたが、現時点では、現在の栄養職員以外に栄養教諭を配置したところは非常に少なく、現在の栄養教諭は、ほとんどが栄養職員です(平成18年度11月現在で25道府県、320名の配置)。その栄養職員でさえ、少子化が進む現状では、全国の小学校全てに配置されている訳ではありません。

栄養教諭という栄養・食の専門家の不在の状態で効果的な食育が実践できるでしょうか?
栄養教諭・栄養職員の有無によって食育推進効率は異なることが推測されますが、栄養職員・栄養教諭不在の学校でも、取り急ぎ食育実践に必要な情報の提供がなされるような学校間ネットワークを構築(環境整備)することが必要です。

食育の最終目標は…

この一年国民運動として食育が様々な箇所で実践されている反面、個々の活動が個別に実践されているために、たとえ個々の活動がどんなにすばらしくても、最終的にどのような最終目標(アウトプット)となるのかが見えないのが現状ではないでしょうか?もう一度食育推進の最終目標が何であるのか、何を短期・長期で評価していけば良いのか考える必要があるのではないでしょうか。

食育には、文化的、哲学的概念が含まれているため、評価は困難でしょうか?たとえ、困難でも評価をしない限り、食育実践に対する適正な評価もされないのです。食育を実践する際には評価法までを視点に入れた実施計画を作成することが必要になります。
学校は食育実践現場であり、食育の対象は「子ども達」、実践者は学校の養護教諭、栄養教諭(栄養職員)、クラス担任、教科担任、校長など全ての職員です。子ども達が目指す長期目標は、健全な食習慣を身につけ、心身共に健康に成長し、生涯健康に生活できる素地を築く壮大な目標です。

学校内で食育に携わる全員が、食育への哲学も持ち、共通の最終目標を確認し、その上で、役割分担をしながら、それぞれの特異性を活かした食育を試みていくことが重要です。そして実践について評価を実施することが必須です。知識の習得は長期的な行動にすぐには定着せず、継続的な働きかけの繰り返しによって、段階的に定着します。
また人の行動は本人の意識の変化だけではなく、周りの環境、働きかけによって影響を受けると考えられています(社会的認知理論)。子どもたちに健全な生活習慣、行動が定着するためにはどのような環境整備、働きかけが必要でしょうか。子ども達を取り巻く環境を自然に行動変容できるように環境を整備し、継続的な働きかけをしていくかが、食育を成功させる大きなカギになります。

食育実践の場

食育実践では、具体的に「新たに教えていくこと」「身につけ、育んでいくこと」の2面があります。新たな知識をカリキュラム等で教え、給食で身につけ、定着させる。給食を食育実践の場にするためには栄養・食の専門家である栄養職員や栄養教諭や子どもたちの健康について最も情報を有し、また健康の専門家である養護教諭が必須ですが、毎日の給食時間に子どもたちと時間を常に共有できるのは担任の教諭です。

その場合、食育実践者は担任の教諭であり、その環境整備をするのが養護教諭と栄養教諭(栄養職員)になります。そして子ども達の最も身近な環境である家庭に対して担任・養護教諭・栄養教諭が協力して働きかけ、子どもをめぐる学校や家庭の環境整備を整え、子ども達のよい食行動へ促せる基礎を作ることです。

「育む」こと

このように子どもの食育では学校と家庭の環境整備が成功の鍵を握ります。「食育」は単に「教える」ものではなく「育む」ものですから、食育を実施して「育まれた」先に、我が国の子ども達みんながより健康になることを目指して、子どもたちが変われる様な環境整備をぜひ心がけていただきたいと思います。

そして食育実践には、子ども達の現状を正確に把握し、必ずアウトプットとしての評価までを考えて、子どもたちがどこまでできているのか、また、実践した食育のアプローチは効果的であったのかどうかの評価を積み重ねることが必要です。(饗場直美)

(健康かながわ2007年6月号)
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