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がん対策推進基本計画

image日本人の死因トップである「がん」。この病気の総合的で計画的な対策を推進するため、がん対策基本法が4月に施行され、具体策を盛り込んだ国のがん対策推進基本計画もまとまった。わが国の今後のがん対策の道筋を示した「計画」には、どんな内容が盛り込まれたのだろうか。(読売新聞東京本社科学部次長・佐藤良明)

がんによる死者は年間30万人以上。大雑把に言って3人に1人は、がんで亡くなる計算だ。国民にとって切実な問題といえるが、これまでの「がん対策」は患者本位とは言えなかった。ここ数年、患者側から「自分たちの気持ちに沿った医療を受けたい」という声がわき上がっていた。

そうした状況を背景に、議員立法で「がん対策基本法案」が国会に提出され、昨年6月に成立した。
今年4月に施行された同法では、がん対策推進基本計画を策定するよう規定。具体的中身は「がん対策推進協議会」で協議、決定する。協議会にはがん患者も委員として入った。がん医療の政策立案過程に、がん患者が初めて参加する画期的なメンバー構成だった。

6月にまとまり閣議決定された基本計画は、今年から2011年までの5年間を当面の対象期間にしている。基本方針としては「がん患者を含めた国民の視点に立ったがん対策の実施」を掲げた。
そのうえで全体目標として「10年以内に75歳未満のがんによる死亡率を2割減少」「患者・家族の苦痛の軽減と療養生活の質の維持向上」を挙げた。

次に、重点的に取り組むべき課題として「放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)の推進とこれらを専門的に行う医師らの育成」「治療の初期段階からの緩和ケアの実施」「がん登録の推進」を挙げている。注目すべきは、「取り組むべき施策」「個別目標」を打ち出し、抽象論に終わっていない点だ。

放射線療法と 化学療法

まず、放射線療法と化学療法だが、これらの治療は、外科手術と並んでがん治療の3本柱と呼ばれる。日本では胃がんなどのように、早期発見が可能で外科手術や内視鏡治療の技術が高いとされる部位のがんについては、欧米よりも生存率が優れているという評価がある。その一方で、放射線照射、抗がん剤については、専門医が不足し実施件数も少ないことが指摘されている。国民が知る情報量も足りないとの不満もある。

こうした現状を踏まえ基本計画では、がんの診療を行っている医療機関が、適切で効果的な放射線照射、抗がん剤治療を実施できるようにするため、その先導役として地域のがん医療を中心的に担う「がん診療連携拠点病院」で、放射線・外来抗がん剤治療を実施できる体制を整備する。さらに具体的には、拠点病院と特定機能病院(主に大学病院)で5年以内に放射線療法部門および化学療法部門を設置することを目標にしている。
抗がん剤など医薬品については、5年以内に、新薬を市場に送り出すまでの期間を2年半短縮することを目標にしている。

緩和ケア

次に緩和ケアについて。教科書的に言えば、治る見込みのない患者の肉体的・精神的苦痛を取り除き、QOL(生活の質、生命の質)を向上させる措置を指す。よく知られるのは、モルヒネなど医療用麻薬を使うことで、がんによる痛みを緩和する処置だ。日本では依然として、患者も医療側も「緩和ケアは末期患者に行う処置」という意識が根強く、がんの痛みを緩和する目的での使用量は欧米先進国に比べて数分の一程度にとどまっている。

目標では、こうした現状や今までの取り組みを踏まえて、末期だけでなく治療の初期段階から「緩和ケア」が受けられるようにする、とした。10年以内に、がん診療に携わる医師全員が研修などで、緩和ケアの基本的な知識を習得することを目標に挙げた。がん診療拠点病院の指定には「緩和ケアチームの設置」が要件になっている。
そこで、基本計画では、5年以内に全国の二次医療圏(複数の市町村で構成する一般的な医療サービスが受けられる区域)で、緩和ケアの知識・技能を習得している医師を増加させるとともに、緩和ケアの対処が可能な病院を複数箇所整備する、としている。

がん登録の推進

がん登録の推進についても、基本計画では重点課題とした。一般の人にはなじみが薄いシステムだが、どんながんにどういう人がなり、治療はうまくいったのか亡くなったのかまで患者情報を丸ごと把握し、全体の傾向を知って研究や対策に役立てようという試み。

基礎データの収集で大きな意味を持つが、登録実務は、現状では医師の熱意に負う部分が大きい。医療機関内で情報をまとめる「院内がん登録」のほか、先進的な自治体ではさらに拡大した「地域がん登録」もある。
基本計画では、すべての拠点病院で5年以内に、がん登録の実務を担う人が研修を受講できるようにすることを目標に挙げた。

一方、こうした重点課題以外に、私たち国民の関心が高いのは、大都市でも地方でも同じレベルの高度ながん医療が受けられることと、受け取る「情報」に格差がないことだ。こうした点について基本計画では、すべての二次医療圏に拠点病院を設置して、医療の均質化を図ることはもちろん、相談・支援センターも設置し、研修を受けた相談員を配置して患者・家族への支援にあたることを目標に掲げている。

基本計画を煮詰めたがん対策推進協議会の垣添忠生・国立がんセンター名誉総長は、協議会の席で「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることのない社会を実現したい」と語っている。
国の基本計画ができたのを受けて、各都道府県も地域の実情に合った基本計画をまとめる。がんに挑む国家的プロジェクトが絵に描いた餅に終わらないためにも関係者の英知と努力が求められる。

(健康かながわ2007年8月号)
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