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がん検診事業評価と今後の展望(第32回予防医学実務研修会)

第32回予防医学実務研修会*が8月20日午後2時から、大和市地域医療センターで開かれた。今回の研修会は、神奈川県内市町村のがん検診の現状などを踏まえたうえで、厚生労働省から発表された「今後のわが国におけるがん検診事業評価の在り方について」報告書(案)にうたわれている“がん検診受診率の向上”“がん検診の精度管理・事業評価”について、今後、どのように進めていくべきか…鈴木忠義・県予防医学協会常勤顧問を座長に、県立がんセンター・岡本直幸氏と蔵本博行・県予防医学協会婦人検診部長の2人を講師に迎え、さまざまな問題提起をもとに考える場となった。本号では、その岡本氏の講演を中心に報告する(文責・編集部)。

*主催‥(財)神奈川県予防医学協会 共催‥神奈川県都市衛生行政協議会 神奈川県町村保健衛生連絡協議会

がん発生・死亡率の地域格差

日本では、心疾患や脳血管疾患で亡くなる方は減少傾向にある中、がんによる死亡率は男女ともに増えています。
乳がんを例に挙げると、40~50歳代を中心に増加傾向が見られ、閉経後に発症のピークがあるのでは、と指摘する関係者もいます。乳がんで死亡する人が多いのは東京、神奈川、大阪、北海道、埼玉。人口が集中する大都会のある都道府県が上位を占めています。また、肺がん死亡率は男女ともに九州北部、近畿地域で目立ちます。

がんへの取り組みも 地域格差の要因?

image神奈川県下の市町村別に胃がんの死亡率を見ると、人口10万人当たりの地域格差はトップの湯河原町と最も少ない山北町で約3倍もあります。県の平均値33・4を上回るのは20市町村です。また、市町村別の胃がん検診受診率を見ると、県平均7・3%を上回るのは17、下回るのが19市町村(平成17年度)。

ほぼ4人に一人が受診している開成町と、対象者の大半が未受診の藤沢市では20%以上の差がありました。マンモグラフィ併用の乳がん検診受診率でも最大(山北町)・最小(秦野市)で15%近い差になっています。

こうした地域格差の要因はどこにあるのでしょうか。
地域の性・年齢(人口)構成や社会、経済構造、食生活の違いが挙げられるでしょう。さらに、地域のがん検診頻度・検診精度、地域住民の受診行動(健康観、意識)、がん医療体制も要因となるのではないでしょうか。

10人に6人は未受診者

image内閣府が約三千人を対象に、がん対策に対する政府への要望を聞きました。「がんの早期発見(治療)」という答えが60%を超えてトップです。

その一方で、がん検診の受診状況を調べると、大都市部(東京都市部・政令指定市)で「今まで受診したことがない」と答えた人が6割近くもいました。がん対策に早期発見を望みながら、受診はしないという現状が浮かび上がってきました。

検診を受けない理由トップは 「検診は不要だから」

検診を受けない理由トップは 「検診は不要だから」

では、なぜ、がん検診を受けないのでしょう。平成19年内閣府調査では,「面倒くさい・受診する時間がない・受診のしかたを知らない・お金がかかるから…」などの回答が出されています.受診率を高めるには、こうした理由で受診してこなかった人たちに対する広報・啓発といった働きかけが重要になってきます。

最も多い「がん検診は不要」と考えている人たちには、部位別のがん検診有効性評価をはじめ、がんになるまでには10~30年もか
かっているので自覚症状が出た時は手遅れのことが多い、といったがんの仕組みそのものから知らせ、理解を得る工夫を継続して行っていくことが求められます。

がん検診受診率の 国際比較

北欧や英国、北米では2年のうちに乳がん検診を受診する率は70~80%。日本では視触診受診が12%(神奈川県3・4%*)、マンモ併用受診が2~4%(同4・9%*)。欧米の調査対象が保険加入(生保商品)者で、受診によるメリットがあるから、という条件を割り引いてもこの差は大きいと思います。
*平成17年の数値

がん対策にみる神奈川の姿勢

乳がん死亡率(標準化死亡比)でワースト2の神奈川県は、予防・早期発見・治療・ターミナルケアまでを見通した総合的ながん対策「がんへの挑戦・10か年戦略」を進めています。
喫煙率の低下や食生活の改善などのがんの一次予防の推進やがん検診の充実を図って「がんにならない神奈川づくり」を、がん診療連携拠点病院や高度ながん医療と研究により「がんに負けない神奈川づくり」を平成26年までに目指す、としています。

5年以内に受診率50%以上

がん検診の質の向上等は、がん対策基本法により法的な義務付けのあるテーマになりました。がん対策推進基本計画にも「(5年以内に)がん検診受診率を50%以上とする」という具体的な数値目標が掲げられています。
そのためには、がん検診の正確な受診率を把握する必要があります。が、受診対象者の範囲をどこまで広げるかといった点を含めて、簡単なことではありません。

対象者算出の試行錯誤

対象者の母集団が絞り切れない現状では対象者数が割り出されても、算出方法によって3種類の受診率が出てしまいます。
実際に神奈川県内の市町村におけるがん検診対象者算出状況(平成16年度調査)をみてみると、市町村独自の推計係数や非就業率・非受療率などを活用した推計に基づく(17市町村)、国保人口を活用(7市町村)、平成4年に県が提示した率の活用(7市町村)、市町村独自の調査に基づく(5市町村)などバラつきがあります。「40歳以上のすべて」を検診対象者把握と算定の根拠にしている市町村もあり、現場の試行錯誤が見てとれます。

【がん検診の課題】

受診者・実施主体
がん検診の日時と検査時間、受診者の年齢や検診料自己負担などが、受診率が低い要因として挙がっています。実施主体には、予算の関係で受診可能人数に上限があること、職場などでのがん検診受診率が把握できないことなどが課題として浮かび上がっています。
精検受診率が100%でない理由も、精検機関への通院が必要、全額自己(受診者)負担といった負担感が大きく、また精検受診を勧め、精検受診者の意識を変える工夫(実施主体)が不十分といったことが考えられます。

【がん検診の課題】

検査機関
では、検診機関の課題はどこにあるでしょうか。
検診システム(個別・集団・ドック)による精度の差、要精検率、がん発見率、陽性反応的中度の差、検診内容の相違など、機関ごとのレベル、信頼性が挙げられます。
「安かろう・悪かろう」ではなく、検診機関は信頼されるべきレベルに達することが当然で、さらに検査方法や技術の見直し・改善に取り組み、判定方法・カットオフ値の基準を明確に示し、第三者による精度管理をしっかりと行うことが求められます。
同時に40~50代、60代への啓発広報を強化して、この階層を検診対象のメインターゲットにすえると、がん検診の課題をクリアしていく方向性がある程度、見えてくるかもしれません。

受診者50%達成 その可能性

122万人を数える神奈川県の乳がん検診対象者のうち、受診したのは約6万人、対象者全体の5%足らずというのが実情です。単年で50%の受診率=61万人以上を達成するには現状の11倍近い人に受診をしてもらわなければなりません。2年かけて50%を達成するためにでも、現状の5.3倍の受診を促す必要があります。受診者50%の実現に、市町村はどこまで対応できるでしょうか。

現状を上回る受診を受け入れれば、予算も増えます。がん検診経費の上乗せはできるでしょうか。また、定員を設定し、それ以上の受診希望者が窓口などに訪れた場合、柔軟な対応は可能でしょうか。

現状の検診施設・機関での受け入れはできるでしょうか。検診従事者(医師、放射線技師など)を確保し、検診の精度管理はどこが担うのか、も考えなければなりません。多くの項目を一度にクリアすることは難しいとなれば、数年先を見据えてできることから対応していく姿勢が求められてきます。

地域にあった受診率向上の取り組み

さまざまな視点から考えていくと、がん検診受診者50%の実現は、高いハードルと言わざるを得ないでしょう。しかし、柔軟な発想と努力で、その目標に近づこうとする市町村が各地にあります。私の耳に入ってきた一例をご紹介します。みなさんの参考になれば幸いです。

●偶数あるいは奇数ごとに年齢を分けて、あるいは40・50・60代と世代別に対象者を分けて、誕生日検診を実施(案内)する
●勤労者の利便を考え、平日の夜間、土・日に検診を実施する
●40代の対象者全員にハガキで検診を知らせる などなど

市町村ごとにさまざまな工夫をしています。みなさんの活躍する地域特性にあった受診率向上の工夫がいま、何より大切だと思います。

(健康かながわ2008年9月号)
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