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子宮頸がんは予防できる時代に

日本では1年間に約1万5千人の女性が子宮頸がんを発症し、3千500人が亡くなっている。発症の原因はHPV(ヒトパピロマウイルス)の感染だが現在ではワクチン接種や細胞診、高リスク型HPVDNA検査による一次・二次予防が可能になり、完治する可能性が高まった。子宮頸がんに詳しい当協会の岡島弘幸医師に聞いた(編集部)。

HPVとは?

HPVは皮膚や粘膜にイボ(乳頭腫)をつくるウイルスとして古くから知られていて動物界にひろく存在することは分かっていましたが、種特異性(牛には牛、人には人のものしか感染しない)が強く、培養細胞による分離技術が未確立で研究の難しいウイルスでした。

ところが1970年代後半から分子生物学、遺伝子工学を活かした研究が進んで極微量のDNA(核酸)の検出が可能になり、HPV研究は飛躍的に進みました。1980年代よりHPVDNAによるウイルスの同定やゲノム解析が進み、多くの研究者により今までに100種類以上の型が確認されています。83年、ドイツのZ・ハウゼンらにより子宮頸がん組織から高リスク型のHPV-16型、18型が検出されて、子宮頸がんのウイルス発がんという仮説が確立されました。ハウゼンはこの功績により2008年、ノーベル医学生理学賞を授与されています。

子宮頸がんはHPVに感染して発症しますか?

子宮頸がんの発症は100年以上も前から性習慣・性行動が深く関与していることを示す数々の疫学的研究があります。女性性器のHPV感染症は以前は尖形コンジロームのみと思われていましたが1976年、カナダの細胞病理学者マイセルスが子宮頸部異形成の細胞内にHPV感染によると考えられる変化(コイロサイトーテック・アティピア)が存在することをはじめて指摘し、この研究が83年のハウゼンらの研究につながっています。

性交渉に伴うHPV感染症それ自体は、きわめてありふれたものです。たまたま性交渉で感染するだけで、エイズのようなSTD(性感染症)とは異なります。男女ともに80%は少なくとも一回はHPV感染があるといわれていますが、発症するかしないかはウイルスの量や個体の免疫力に関係しています。 大部分のHPV感染は一過性であり、70%は1年以内、90%が2年以内に排除されますが、高リスク型感染者の10%で持続感染となり、その一部から子宮頸がんが発症すると考えられています。感染=がん発症ではないことを理解してください。

発症する年齢は?
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性行為の始まる10~20歳代に初感染があるわけですが、手元の資料で日本の健常女性の年代別HPV陽性率を見ると20歳代が最も多くなっています(図1)。

初感染のあと、その半数は免疫的機能によってHPVは排除され30歳代以降は10%程度に半減します。

子宮頸がんの発症は長い潜伏期間を経て40~50歳代がピークです。しかし最近では、20歳代の罹患率・死亡率ともに増加していて、若年化傾向が心配されています(図2)。

子宮頸がんは予防が可能ですか?

はい。現在は早期発見に効果的な細胞診とコルポスコープによる子宮頸がん検診が予防手段として一般的です。がんが発生する子宮頸部から採取した細胞を顕微鏡で見て、細胞そのものに増殖性の異常があるかどうかを調べるのが細胞診。これに加えて、発がんに関係する高リスク型HPVに感染しているかどうかを調べるHPVDNA検査が可能になりました。従来からの子宮頸がん検診である細胞診と最新の手法を採り入れたHPVDNA検査を同時に受けることで、子宮頸部の異形成(上皮内腫瘍)などを高感度に検出することができます。

HPV検査が陽性だったら…

健常女性のHPV陽性率は20歳代で20%。しかし、最初に説明したように大部分の感染は一過性のもので、免疫によってHPVは自然排除され30歳以降では10%程度に下がります。問題は30歳以降、微増傾向ともみえる持続感染グループで、子宮頸がんの発症は40~50歳がピークですから、このグループの追跡検査には特に力を入れる必要があります。

頸がんの検診について国の指針は?

現在のところ厚生労働省は20歳以上の女性は1~2年に1回、細胞診中心の従来型検診を推奨しています。しかし、HPV検査の導入については反対というわけではありませんが、まずは受診率や細胞診による従来法の検査精度・費用効果の分析が必要ということで欧米のような積極策をとっていません。

ワクチン接種は有効な手段ですか?

昨年12月から接種が可能になったワクチンは、子宮頸がんを発症させる高リスク型のHPV-16型、18型だけに有効です。頸がんの60~70%はこの二つの型が関与しているためです。しかし、残りの30~40%前後の頸がんは他の型のHPVが関与しているため、ワクチン接種で絶対安心とは言い切れません。また、頸がんを治療することはできません。

主要国での検診体制は?

日本以外の先進国では検診の目標を死亡率の低下ではなく、子宮がんを予防して、たとえ発病しても将来子どもを産むことができる0期がんまでに早期に検出することを目的にしていると思います。お話したように年齢が進むほど持続感染が主流となり、高リスク型HPVの陽性反応的中率も高くなります。このことから30歳以上の女性でHPV検査と細胞診を併用するやり方が新しい標準検査法として採用されるようになっています。

問題は、欧米の検診受診率は70%を超えますが日本では残念ながら20%台。検診啓発の広報の必要性が大いにあります。予防ワクチンの有効性は認められていますが、日本では公費負担、公費補助などはいつ実現するか分かりませんから、まずは女性の意識改革をお願いして受診率を上げていくことが大切だと思います。

県予防医学協会では…

紹介した二つの子宮頸がん検診を受けることができます。細胞診とともにHPV検査を希望される方も増えています。HPV検査は検体中の高リスク型HPVDNAを特殊な方法で捉え、化学発光により検出する「ハイブリッドキャプチャー方式」により実施します。10歳代でHPVワクチン接種を受けておいて20歳代で検診の習慣を身につけ、30歳代では定期的な細胞診に加えてHPV検査を同時受診すれば、子宮頸がんの発症は完全に予防できるはずです。

ワクチン接種もできるように…

多くの方々の健康を確かめる支えとなるのが当協会の使命です。子宮頸がんについていえば、一次予防にあたるワクチン投与と二次予防の検診を、中央診療所などで実施できる専門機関として期待に応える責任があります。

(健康かながわ2010年4月号)
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