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健康かながわ

職場における受動喫煙防止対策について

image平成22年度「禁煙、分煙活動を推進する神奈川会議」講演会は6月5日、松村ガーデンホール(横浜市中区・当協会2階)で開かれ、同会会長の中山脩郎座長の挨拶に続いて情報提供、講演が行われた。

神奈川県たばこ対策課長、井出康夫氏の「受動喫煙防止条例」施行後の報告では、5月末にスタートを切った卒煙塾やスモークフリー・サポーターズ・クラブ、分煙技術アドバイザーの活動などが紹介された。また、前衆議院議員、岩國哲人氏は自らの質問主意書などをもとに国会と内閣の禁煙論争について披露した。本号では、北里大学医学部長で、厚生労働省の「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会」で座長を務めた相澤好治氏による「職場における受動喫煙対策」の講演内容、また県下の「ロイヤルホスト」全25店舗を禁煙にしたロイヤルホールディングスの事例を中心にまとめた(編集部)。

労働者の健康障害を招く「たばこの害」食

image驚厚生労働省は平成4年以降、職場における受動喫煙防止対策を労働安全衛生法に定められた快適職場形成の一環として進めてきた。しかし、その後、健康増進法が平成15年に施行され、平成17年2月には「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」が発効するなど、受動喫煙を取り巻く環境は変化してきた。また、さまざまな調査データから、職場での受動喫煙に対する労働者の意識の高まりがうかがえる。
こうした環境の変化を踏まえ、今後の職場における受動喫煙防止対策はどうあるべきか…。平成21年7月から始まった有識者による「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会」(座長:相澤好治北里大学医学部長)は8回にわたって議論を重ねてきた。

同検討会の報告は、たばこの害、特に受動喫煙の問題は労働者にとって健康障害であるという観点にまで踏み込んでいる点が大きな特徴である。「受動喫煙防止対策のあり方に関する検討会」の報告を読み上げながら、「喫煙者は自分のたばこの煙が周囲の者を曝露していることを認識することが重要」と、相澤氏は改めて強調した。
 受動喫煙の健康への影響は乳幼児突然死症候群、子どもの呼吸器感染症や喘息発作の誘発など呼吸器疾患の原因となることはすでに知られている。また、受動喫煙による急性の循環器への悪影響は〝たばこを吸わないのに肺がんになってしまいました〟というテレビレポーターの体験談で改めて注目を浴びることになった。「心血管系疾患の発生リスクは中国人で1・86、米国人で1・91…*。呼吸器疾患の発生リスクは米国人成人で1・15から2・96、肺がん1・17、慢性閉塞性疾患1・55…*」。
( *平成19年度受動喫煙の健康への影響および防止対策に関する調査研究委員会)

労働環境における受動喫煙の健康影響をデータに基づいて相澤氏は説明し、「職場と公共の場所での禁煙により、心血管系疾患による入院数の減少や呼吸器系疾患に関する自他覚症状は改善する」と続けた。
喫煙対策の改善を職場に望む労働者の割合は92・2%**。事業所全体を禁煙にしている割合は18・4%**。職場で喫煙に関して不快に感じる非喫煙者の割合は減ってきてはいる。しかし「WHO(世界保健機関)規制枠組み条約履行のためのガイドラインと日本の職域での対応状況はまだ不完全と言わざるを得ない」と相澤氏は指摘する。喫煙対策に「取り組む必要性を感じない」「取り組む資金がない」と回答した事業所に対しては「発生源」となる喫煙者を含めた禁煙・分煙、受動喫煙防止の啓発を繰り返していくことが大切だという。 (**平成19年労働者健康状況調査・厚生労働省)

受動喫煙被害が安全配慮義務違反になる可能性

検討会報告書では、今後の職場における受動喫煙防止対策の基本的方向・責務のあり方として「労働者の健康障害防止という観点から対策に取り組むこと」、「労働安全衛生法において、受動喫煙防止対策を規定すること」が必要であるとしている。
その理由を、「労働者が職場を選択することは容易ではなく、一定期間拘束されること。また、事業者には労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をするものとする…労働契約法第5条にある安全配慮義務が事業者にはある」とし、受動喫煙が原因で健康被害を訴え、因果関係が明らかになれば事業者の安全配慮義務違反になると補足した。

「労働者の健康障害防止の観点から取り組む受動喫煙防止対策は、努力義務ではなく〝事業所の義務〟とすべきである」。そのうえで、受動喫煙防止対策にどのようにして取り組めばよいかわからない事業場に対し、効果を上げている事例情報を提供する(技術的支援)、喫煙室設置などへの経済的配慮(財政的支援)が欠かせないと相澤氏はいう。

労使双方の合意が推進力に

受動喫煙防止対策の推進には、留意する事項がある。例えば、関係する事業者等への十分な周知がこれまで以上に欠かせないこと。事業者がテナントとして貸しビルに入居している場合は、貸しビルの管理者、建築物貸与者の協力も必要になること。
そして最後に、日本における今後の次の3課題を掲げている。

・直ちに全面禁煙は困難な場合でも、将来的に全面禁煙・空間分煙を導入するよう国民のコンセンサスを得つつ、社会全体として取り組みを計画的に進めることが必要
・国民に対するたばこ煙の有害性等に関する一層の周知が必要。喫煙による健康影響も併せて周知することも考えられる
・地域保健の関係機関との連携が必要…

相澤氏は講演を、「国民合意の防止対策にするために、今後、制度改正について労働政策審議会での議論」が始まることに期待すると結んだ。

労使双方の合意が推進力に

ロイヤルホールディングス株式会社

ロイヤルホストは県下の「ロイヤルホスト」全25店舗を受動喫煙防止条例施行日より1カ月早い3月1日に禁煙とした。「受動喫煙防止条例応援団第一号(企業)としての使命と考えて」と同社改革プロジェクト改装推進部長の前川剛氏は前倒し実施の理由を付け加えた。

禁煙化に伴い12店舗を店内全面改装。喫煙ルーム設置が5店舗。禁煙化のみ実施の8店舗は次年度に改装を予定している。完全禁煙=喫煙ルームの設置に対し「子ども連れでも安心して食事ができる」「店内の空気がきれいと実感できる」「専用スペースで気兼ねなくたばこが吸える」という歓迎の一方で、禁煙になったから足は遠のくといった利用者の声を紹介した。

今年10月には県下グループ店舗60の客席で土日終日禁煙を実施する。その後徐々に店舗禁煙化率を高めていき、平成23年中に全店禁煙をめざす。前川氏は「従業員の受動喫煙も社会責任を担う企業として問題の一つ」と位置づけ、客席全面禁煙化により従業員の受動喫煙は大きく低減すると話した。

(健康かながわ2010年7月号)
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