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健康かながわ

強毒性インフルエンザが〝新型〟となる日

本紙は、一昨年の10~12月号に『新型インフルエンザがやってくる』の題で予測記事を掲載しました。その半年後の昨年4月末、中米・北米から新型インフルエンザが襲来しました。ほぼ半年後沈静化します。予測記事ほど深刻な社会問題にはなりませんでした。本紙は、新型インフルエンザが「この程度か」と認識されることを恐れます。今年もインフルエンザの季節になりました。昨年流行の“新型”を振り返りながら、当時頻繁に使われた季節性インフルエンザに触れ、これからの“新型”の流行に備えたいと思います。(常勤顧問 鈴木忠義)

昨年の流行像

2009年4月24日にWHOは、メキシコおよび米国にインフルエンザ様疾患が発生したと公表し、以降表1に記した経過をとります。成田空港の物々しいいでたち(私は宇宙服と呼びます)の検疫官の活動や厚生労働大臣の深夜の記者会見などによって大事件の様相の気配でした。国民は不安に駆られます。修学旅行から帰国した高校生の中から患者が出ると、その学校にすさまじい非難の嵐が襲いかかりました。

  5月に始まった騒動は、特定の学校や集団などに限定していた様子でしたが、実はウイルスは静かに広がっていたようで、秋口から患者が増え始め近年にない流行像を示します。今年の夏まで、ほぼ1年余の状況です(図1)。







幸いなことに感染(外来受診者2千万人、他に未受診者などの数は不明)の割に死者は少数(200人強)にとどまりました。この死亡率(人口10万人当たり0・15)は、初発地のメキシコや北米およびその後の世界各国と比べてかなり小さかったようです(図2)。この理由は、初期に実施された学校閉鎖によって、感染源がその他の人との接触が制限され地域に広がることが抑えられ、致死率の高い人に感染が広がらなかったからだと考えられています。


過去の流行像

 インフルエンザは発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、時に全身衰弱感のような特徴的な全身症状が突然現れます。呼吸器症状は後期になってから出現することが多く、鼻閉、喉頭痛、咳などです。時に激しくまた遷延性のことがありますが、合併症がなければ2~7日で治癒します。老齢者や慢性の心臓・肺・腎臓の疾患がある者、乳幼児、妊婦は重篤化しやすく、時に死亡することがあります。

わが国の過去では、世界的大流行の大正7年のスペインかぜ(H1N1)では20~30万人、昭和32年のアジアかぜ(H2N2)、昭和43年の香港かぜ(H3N2)でも数万人の死亡超過とみられています。こうした大流行は、毎年繰り返されると自然能動免疫が残ることによって感染回避の仕組みが作用し、感染者が少なくなるとか軽症で済むことが常態になります。

今回の流行の後半でしばしば耳にした季節性インフルエンザとは、こうした事態で繰り返される毎年の流行を指したのです。ところがウイルスの側に大きな変異が起こり、過去の自然能動免疫が有効に働かないと再び大流行が起こるのです。

高病原性とは

感染症が人に対する影響力の強さを病原性といいます。その大きさを「高低」あるいは「強毒・弱毒」などと表現します。
  インフルエンザの感染は病原体保有者の呼吸器から排出された病原体が空気中を飛んで直接に、もしくは排出者の手指を経由して、家具、器物に付着し、さらにそこに触れた他者の手指などを通して口、喉頭粘膜に達すると感染が成立するとされます。

研究者の意見では、直接排出されたウイルスは咳やくしゃみの飛沫にくるまれるから、せいぜい1メートル程度の距離を飛んでも漂うものは少ない。しかし付着したものは数時間以上生存し、容易に他者に移動するといいます。三つの要素があります(表2)。これを分かりやすく表現すると、感染力×発症力×致命力=病原性の大きさです。3項とも分子は分母を超えないので、病原性は大きさ1以下です。

感染力
 は、集団の中に病原体(この記事ではインフルエンザ・ウイルス)が入ってきたときの感染した人の割合です。年齢や性、健康状態などで異なります。

発症力
 は、病原体に攻撃された人が症状を表す割合です。ごく小さな異常から、大きな変化として重篤な症状までがあります。老齢者や慢性の心臓・肺・腎臓の疾患がある者、乳幼児、妊婦は重篤化しやすいのです。

致命力
 は、感染し、発症し、その結果死に至った人の割合です

今回の流行例では、国内の感染者は人口1億2千万人のうち約2千万人として、感染力0・17。ただしこれは受診者ですから、発症者と等しいとして発症力は1。致命力は死亡者200人、発症者2千万人なので10万人に1人と算出されるのです。

新型インフルエンザの恐怖

今回の〝新型〟は、大正時代から続くH1N1の変異した新型でした。しかも変異した部分の性質は、人の臓器の一部の組織に選択的に強く作用したというのが学者の意見です。

  数年前(2003年)から東南アジア各地で、食材商品として鳥を扱った人およびその周辺で、インフルエンザ様症状から急激に死亡した例が多数発生しています。鳥→人、人→人感染が観察され、各国の致死率が報告されています。世界合計で患者504人、死亡者294人(死亡率58%)(厚生労働白書・平成22年度版から引用)。 世界中、WHO始め各国が恐怖感を持って備えるのは、この高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)です。

〝新型〟は怖いのだ

昨年の新型は、比較的平穏に過ぎたというのが私の感想です。しかし今後くるかもしれない高病原性の新型は、やはり怖いのです。流行初期は、そのウイルスの病原の性状が分かりません。数週間のあいだ、最悪に備えた態度で接するべきだと考えられるのです。

(健康かながわ2010年11月号)

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