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前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ>第35回予防医学実務研修会 被災地での支援活動で明らかになった行政の役割
健康かながわ

3月11日に起きた東日本大震災、東電福島第一原発の大事故。発生から半年を経ましたが、収束の見通しはついていません。今回の研修会は、第1部で神奈川県内の放射線測定と健康への影響などを、第2部では実際に被災地へ赴いた保健師とケースワーカーにその状況を報告してもらいました。「住民の健康を守る」行政の使命と役割について、あらためて議論を深めるきっかけになればと思います(文責・編集部)。

報告者 永井雅子 神奈川県保健福祉局保健医療部健康増進課 技幹
    晝場壽代 神奈川県保健福祉局保健医療部保健予防課精神保健医療グループグループリーダー
    大塚美保 座間市健康部健康づくり課 主査
座 長 鈴木忠義 (財)神奈川県予防医学協会 常勤顧問
8月25日 松村ガーデンホール(県予防医学協会2階)
主催:(財)神奈川県予防医学協会
共催:神奈川県都市衛生行政協議会、神奈川県町村保健衛生連絡協議会

3月12日以降、神奈川県は厚生労働省から被災地への保健師等の派遣の文書を受けて市町村、保健福祉事務所に保健師等の派遣を依頼し、準備に入った。
  最初の報告者は永井雅子技幹。

 

岩手と福島へ

永井 岩手には、こころのケアチーム(医師・保健師・福祉職)が3月23日から。保健師チームは27日から釜石保健所(大槌町)に向かいました。福島へは国の追加派遣依頼を受けて、4月7日、福島県会津保健福祉事務所(猪苗代町)に向かいました。被災地2県への派遣メンバーには事務職が各1人加わっています。

健康相談と被曝情報提供

 永井 大槌町では避難所を担当し、避難者の健康相談・管理と、要望に応じて仮設住宅・在宅生活者の家庭訪問を行いました。
  猪苗代町では、福島第一原発から20~30キロ圏内から避難してきた方たちの健康相談、放射能による被曝情報の提供に努めました。

迅速な派遣のための課題

永井 被災地への人員派遣は迅速さが求められます。今回は先遣隊を送りこめず、現地の状況をしっかり把握できませんでした。
  長期にわたる派遣なので、組織内の役割分担、環境・健康の課題も解決しておくべきでした。十分な説明会(県は計5回実施)をするべきです。

派遣時に気をつけること

永井 3月11日から半年後のいまも余震が続いていますから、当時はもっと大変でした。非常用食料や携帯、防護用品の備えは欠かせないと思いました。派遣された職員のこころのケアも重要です。

派遣終了の判断

永井 避難所の閉鎖、二次施設への移行時が転機となるでしょう。自力でやっていける、といった被災地の要望が出た時点でもいいと思います。

大槌町へのこころのケア派遣体制

晝場1チーム3、4人(精神科医、保健師、看護師、精神保健福祉士、臨床心理士、事務)編成で大槌町の海側の避難所を巡回しました。3月24日~8月8日にかけて4泊5日、同時期に3チームが現地入りしていたこともあります。保健師チーム(2、3人)は山側の避難所を回り、健康相談・チェックにあたりました。体制と支援内容は[図A]の通りです。

 

関係機関との調整

晝場 岩手県精神保健福祉センターを中心に活動した今回の派遣では、同センターで週1回の話し合いを持ちました。釜石地区、大槌町チームの話し合い、釜石保健所のミーティングも開きました。住民の個別ケース、避難所代表、大槌町職員のメンタルヘルスについても提案・調整を重ねました。しかし、見極めは難航しました。

望ましい支援とは

晝場 関係機関、各自治体から派遣されてきた専門職と「こころのケアチームとは?」ということを話し合いました。被災後の住民のメンタルヘルス、精神障害者への支援、支援者・派遣職員のメンタルヘルス…意見は分かれました。

 では、「望ましい支援とは何か」。被災した地域が本来の活動に戻ること、地域の力を信じて支援することではないかと感じました。

非常時対応は行政の使命

晝場 神奈川県内で大型自然災害発生が、あるいは県外への派遣体制を求められた場合、期待に応えられるのは、平常時の活動の積み重ねだと思いました。広範囲の連携、地域づくりを重視し、準備は足元からしっかりと行いたいと思います。  今回、被災地に立った貴重な経験から、しっかりとした組織連携があった上で、その場の職員の臨機応変な活動が第一だ、と感じました。

気仙沼市へ保健師8人派遣

大塚 座間市からは県の「こころのケアチーム」に保健師2人が参加(4/23~28)し、別に気仙沼市からの要請で保健師3人が避難所での健康相談に努めました(5/20~6/10、7泊8日交代)。座間市の保健師は総勢13人。そのうち8人が被災地に向かいました。

  気仙沼市の臨海部は、大きな被害を受けた地域です。私が健康相談を行った避難所は立派な体育館です。ピーク時で1800人が避難していました。私が派遣されたのは2カ月が経っていたので、避難所内の生活は落ち着いていました。

避難所となった体育館の受付にはチラシなどの広報物が貼られ、県外の市町村から受付業務の応援が入っていました。仮設トイレ、洗濯乾燥機が並び、送られてきた支援物資の仕分けも手際よく進んでいる印象でした。自衛隊の炊き出し作業班も活動していました。

ミーティングと情報共有

大塚 各市町村から派遣された職員は避難所での活動中、毎日ミーティングを開き(写真①)、個別ケースごとの情報共有を図りました。最初は長いなぁと感じた派遣期間も、始めると7泊8日で自分にできることはわずかだと痛感。「居住スペース化」していく避難所での健康相談・支援はどうしたらいいか? 24時間体制の介護は可能か? 継続的な支援がいいのか? を自問自答しました。

資源・人材の供給バランスを

大塚 自立を、と言いながら至れり尽くせりの支援でいいのか。支援側の課題、派遣時のバックアップにも欠かせないことが見えました。まずは現地入り・被災地巡回の送迎。必需品(寝袋、携帯、パソコン等)の提供、そして業務日誌など記録の簡略化も必要と感じました。資源と人材の供給バランスの調整も長い目で見て欠かせないことだと思います。

 講演後、会場からの質問には永井技幹が中心となって答えた。
Q 派遣チーム事務職の役割とは

 現地への道のり、被災地巡回時の車両の運転、移動経路の下調べや食事の入手、関係書類のコピーなどです。医師や看護師、保健師など技術専門職が被災地で十二分に活動するため、事務職の支援は不可欠でした。チーム全員が「イコールパートナー」での活動でした。

 民間やボランティアでもできる支援があるのでは…

 物も人も、生活する環境整備も不十分な状況では、「適切なニーズに適切な支援を行う」のは行政の使命だと思います。

(健康かながわ2011年9月号)

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