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前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ> 子宮頸がんから女性を守るために
健康かながわ

  厚生労働省では、毎年3月1日から3月8日までを「女性の健康週間」と定め、女性の健康づくりを国民運動として展開している。その週間に合わせ、全国各地で女性が自らの健康に目を向け、健康づくりを実践できるよう支援している。

  そこで今月号では若い女性に増加している「子宮頸がん」を取り上げ、横浜市立大学附属病院化学療法センター長の宮城悦子准教授に子宮頸がんの最新の動向も含めて寄稿いただいた。

子宮頸がんは予防できる疾患

 ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染から前がん状態である異形成を経て、扁平上皮がんに至る子宮頸がんの自然史の詳細が解明されました。その解明により、子宮頸がんの原因の約70%を占めるHPV16/18型に対する感染予防ワクチンが開発されました。

2009年12月に2価HPVワクチンが日本でも接種可能となり、2010年10月からワクチンの無料接種にむけた関連経費が補正予算案に計上されました。地方自治体と国の負担で、2011年度より中学1年生から高校1年生までの4学年を中心に公費助成が開始され、2012年度も継続の予定です。

  横浜市では、2012年度は新たに中学1年生となる女性に加え、 ワクチン供給不足により接種できない期間があった高校3年生相当までが対象となっています(神奈川県内でも自治体によって対象学年が異なりますので、問い合わせください)。

  日本での若年者の浸潤頸がん罹患率・死亡率ともに増加傾向にあることは大きな社会問題です(図1)。

この現状の主因は、欧米先進国では頸がん検診受診率が平均60%以上であるのに対し、日本では20%台と著しく低い(図2)という現状にあります。

日本人女性を子宮頸がんから守るためには、ワクチン接種と合わせて、定期的な子宮頸がん検診の必要性について継続的に教育・啓発を続ける必要があります。

子宮頸がん予防(HPV)ワクチンについて

 全世界の子宮頸がん症例において、約15種類の発がん性HPVの中でHPV16/18型が占める割合は70%を超えており、公共政策としてHPV16/18型の感染を予防することには大きな意義があります。HPVワクチンは、不活化ワクチンで感染性はなく、8年を超えて高い抗体価が維持されると報告されていますが、一生の免疫となるかは不明です。

  15~25歳の若年女性1万8644例を対象とした2価(16/18型に対する)HPVワクチンの試験の結果が2009年に公表されました。結果として、〝初交前の女児〟を想定したHPV16/18型の感染がない女性の集団において、中等度異形成以上の病変の予防効果は、HPV16/18型に起因するもので98・4%、すべての発がん性HPVに起因するもので70・2%でした。ただし、この試験で細胞診異常者やHPV16/18型既感染者も含むすべての参加者の2価ワクチンの効果の結果は、中等度異形成以上の病変の予防効果がHPV16/18型関連で52・8%、すべての発がん性HPVに起因するものでは30・4%でした。

  この結果は、性交渉がある年代の女性と性交渉開始前の女児へのHPVワクチン接種の効果について区別した認識が必要であることを示しますが、性交渉開始後の20歳代の集団でも一定の予防効果が期待できることもまた示しています。

  2011年8月より使用可能となった4価のワクチンは、HPV16/18型に加え男女の外陰部にできる良性のイボ(コンジローマ)の主な原因であるHPV6/11型感染予防効果があります。子宮頸がん予防効果は2価ワクチンと同等と考えられ、公費助成の対象になっています。

  HPVワクチンの副作用では、注射部位の疼痛・発赤・腫脹が高頻度に認められます。全身的な反応として関節痛・筋肉痛・発熱が見られることがありますが、妊娠や出産の転帰も対照群との差はありません。頻度は低いものの、ワクチン接種後に迷走神経反射として失神があらわれることが国内外で報告されており、接種前より過度な緊張を和らげながら座位で接種すること、 接種直後の状態に注意し接種後30分程度は被接種者の状態を観察するなど、薬剤アレルギーを含めた医療側の適切な対応も必要です。  

子宮頸がん検診と継続的な啓発活動が大切


 子宮頸がんはワクチン接種と検診でまさに予防可能ながんとなりましたが、その実現にはいくつかの課題が残されています。
  HPVワクチン公費接種対象年齢の女子を教育する立場にある多くの成人女性が、頸がんとHPVの関連性についての教育を受けていません。そのため成人女性の検診受診率が低く、ワクチン接種の必要性の認識が低いことが重大な問題です。

  学校教育に「HPVと頸がんの関連性」「感染予防ワクチンの存在と効果」「検診の重要性」について、健康教育として取り入れることが重要であると筆者は強く感じています。

  さらに接種を受ける女子が、HPVワクチン接種とその後の検診の必要性について理解するには、日本より検診受診率が高い先進各国で、12歳を中心に広く公費接種が行われているという現状を伝えることも有効であると思います。中学生・高校生が主体的に健康を考えるために、HPV感染と子宮頸がんや、喫煙と肺がんなどは因果関係がわかっており、予防できるがんであることを知る機会を与えることも重要です。

  性交渉と関連がある病気として、いわゆる性感染症とHPV感染による発がんの違いについて、正確な知識を教育することもまた重要であり、このことは男子学生にも知らしめるべきです。また成人女性が定期的に頸がん検診を受けることが習慣となるためには、受診勧奨や適切な情報提供が効果的に行われる必要があります。

  そこでわれわれの研究グループは、HPVワクチン接種率増加と連動した対策が必要と考え、2011年4月より若年女性の子宮頸がん予防を神奈川県から推進していくことを目指し、厚生労働科学研究費補助金による「横浜・神奈川子宮頸がん予防プロジェクト」を立ち上げました(図3にイメージ図)。

  今後、一般市民、医療・行政関係者、研究者などが一丸となった取り組みの実効性を検証していく予定です。
  詳細はホームページ(http://kanagawacc.jp/)をご覧ください。

参考文献
※1 http://www.jsog.or.jp/statement/pdf/HPV_20091016.pdf
※2 Mu?oz N, et al:Int J Cancer,111: 278-285, 2004.
※3 Paavonen J, et al:Lancet 374: 301-314, 2009.

 

(健康かながわ2012年3月号)

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