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前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ>受動喫煙防止対策の最新の動向
健康かながわ

 厚生労働省は、毎年5月31日のWHO世界禁煙デーから6月6日までの1週間を禁煙週間と定めています。全国で禁煙に関するイベントが開催され、マスコミでも多く取り上げられる季節です。

  世界保健機関(WHO)は「喫煙は予防可能な最大の疾病・早死の原因」と結論づけ、タバコの消費が健康に及ぼす悪影響から人類を保護することを目的とした「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(Framework Convention on Tobacco Control:FCTC)」を提唱し、2005年に発効させました。現在、わが国を含む174カ国が締約しており、全世界でタバコ規制のために様々な政策がとられています。具体的には、先進国ではタバコ1箱1000円(第6条)、パッケージにグロテスクな写真を入れた警告(第11条)、過去の映画や番組の喫煙シーンにはモザイク(第13条)、無料の禁煙相談電話と禁煙治療の費用補助(第14条)などです。

  ここでは、第8条「受動喫煙からの保護」について解説します。2011年、第8条に関するガイドラインが示され、「喫煙室や空気清浄機の使用では受動喫煙を防止できない」「屋内は100%完全禁煙とすべき」ことが強調されました。

  すでに多くの国や州で一般職場の事務室だけでなく、飲食店等のサービス産業も含め、すべての屋内を全面禁煙とする法律が施行されています。一方、わが国では厚生労働省の調査(2009年)によれば、勤務中に受動喫煙を受ける労働者の割合は56%もあり、調査に含まれていない飲食店などのサービス産業の禁煙化はほとんど進んでいません。

労働安全衛生法改正に伴う受動喫煙防止対策

     立ち後れているわが国の受動喫煙対策ですが、少しずつ動き始めました。まず、2010年2月に厚労省健康局長から発せられた「受動喫煙防止対策について」(健発0225第2号)では、「公共的な空間については原則として全面禁煙」「少なくとも官公庁や医療施設は全面禁煙」「屋外であっても子どもの利用が想定される公園、通学路等の公共的な空間では、受動喫煙防止のための配慮が必要」とされました。

  2010年5月、職場環境について提言を行う日本産業衛生学会は「タバコ煙」を明らかな発がん物質である第1群に追加収載し、対策を求めました。2010年6月、「2020年までに受動喫煙のない職場を実現する」ことが閣議決定され、さらに、2011年12月2日の閣議決定でも職場の受動喫煙防止を強化すべきこととし、現在、全面禁煙を第1選択とする労働安全衛生法の改正が検討されています。

神奈川県の受動喫煙防止条例とその意義

 国の対策に先んじて「神奈川県公共的施設における受動喫煙防止条例」が2010年4月に施行されました。多くの施設が禁煙化され、受動喫煙のない快適な空間が増えたことを神奈川の皆さんは実感していることでしょう。2011年11月、私たちは飲食店の禁煙化状況を観察するために、横浜市関内地区の本町通り、みなと通り、博物館通り、JR根岸線に囲まれた区域で営業しているすべての飲食店の立ち入り調査を行いました。飲食を主として営業が行われている550店舗(雑居ビルのバーを除く)のうち、全面禁煙が51店舗(写真2)、喫煙専用ルームや喫煙席を壁やドアで仕切る対策が31店舗でした。

  特に対策が義務づけられた100㎡以上の大型店では、100%対策が行われており、条例の効果を確認できました。
  飲食店の禁煙化を話題にすると、売上の減少を心配する経営者も多いようです。しかし、某製薬メーカーの調査では()、全席禁煙などの対策が取られている店舗に行く回数は増え、自由に喫煙できる店舗を利用する回数は減っています。非喫煙者が人口の8割弱なのですから、飲食店にとって「きれいな空気」はアピールポイントになってきました。

  ただし、壁などで仕切りをする「いわゆる分煙」は役に立ちません。タバコ煙濃度の調査では、喫煙席は劣悪な環境であること、その煙が禁煙席にも漂ってきていることが分かりました。お金をかけて役に立たないものを作るよりも、「全面禁煙」と大きく貼り紙をして、お客さんを呼び込む方が得策だといえます。

最近のタバコ対策の動向・状況

  喫煙室を作っても受動喫煙を防止できない、という致命的な難点以外にもデメリットがあります。
  ①タバコの煙と一緒に空調された空気を排気するため電力が浪費されます。私たちの試算では、厚生労働省のガイドライン通りに喫煙室を設置すると1カ所当たり年間11、000kWhの電力(=約25万円)が失われます。

  ②執務室に近い場所に喫煙室があることでタバコのための離席が増え、勤務時間のロスタイムが増えます。1回の喫煙を7分とすれば、1日5回で35分。年間の勤務日数を240日、時給を2200円とすると、年間で約30万円の労働時間の損失になります。

  ③喫煙後、数分間の吐息にはタバコ煙が吐き出されるので、喫煙直後の人が隣に座ると受動喫煙が発生します。

  ④環境の悪い喫煙室で燻製状態になった人の衣服、毛髪から発生するタバコ臭が室内の空気を汚染します。

  ⑤喫煙室があると、禁煙しようとする決意を鈍らせます。

  ⑥サービス産業の営業部分に喫煙席を設けると従業員に職業的な受動喫煙が発生します。

  全面禁煙であれば貼り紙を一枚貼るだけで費用は一切かかりませんし、喫煙室のスペースを有効利用できるなど、良いことずくめです。ただし、灰皿を出入口に設置するとビルの奥にまで大量のタバコ煙が入り込んできますのでご注意下さい。厚生労働省の事務連絡でも「屋外に喫煙場所を設ける場合には、出入口や窓から極力離す」べきことが示されています。

  吸う人が減れば、喫煙所を設ける必要もなくなります。吸う場所がなくなれば、禁煙せざるを得ません。受動喫煙防止という観点からだけでなく、喫煙者の禁煙を手助けするためにタバコを吸える場所を減らしていくことが、今後のタバコ対策の方針として大切なことだと思います。

(健康かながわ2012年5月号)

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