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前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ>神奈川の食育事情 最前線①
健康かながわ

 第7回食育推進全国大会が初めて首都圏の横浜市で開催される今年は、各地でも食育イベントが盛んです。こうした中、地域の健康を守る役割の中心を担う神奈川県厚木保健福祉事務所の取り組みのひとつを紹介します。

  厚木市、海老名市、座間市、愛川町、清川村の5市町村を所管し、県内でも広い地域を管轄する厚木保健福祉事務所では、平成21年度から若い世代=大学生や20~30歳代の働く人たちに対する食事・生活への意識づけや効果的なアプローチの仕方を模索しています。

ぽっかりと空いた世代

神奈川県厚木保健福祉事務所の3人の管理栄養士、久保田律子さん、五十嵐香織さん、古川弘子さん(左から)。それぞれ手にしているのは、新入生・新入社員向けのオリエンテーションや研修時の活用を目的に作成したリーフレット。厚木保健福祉事務所のホームページからダウンロードできる。

 若い世代=大学生や20~30歳代の働く人たち=は、健康で生活習慣病とは縁のない生活を送る人も多い。その一方、進学や就職で一人 暮らしを始めるなど、生活環境が大きく変化する時期。そして特定健診・特定保健指導のような生活習慣に関する支援を受ける機会を持たない「空白世代」です。

  厚木保健福祉事務所は現在の取り組みに先駆け、働く世代の糖尿病食生活支援体制づくりを実施してきました。その過程で浮かび上がってきたのが、40歳代以降の生活習慣病を予防する上で、この世代の食生活が重要だということでした。

  「野菜の摂取量が少ない」「学生の半数が一人暮らし」「女性のやせ志向は高いが甘いものをよく買う」「熱中症にかかった人を調べたら朝食欠食」「若い世代は健康志向が不形成」。これは管内の事業所・市町村、フリー栄養士の会などが参加して行われた意見交換会で出てきたものです。

  小・中・高校で食育指導が行われても、高卒後は食生活支援がぽっかりと空いてしまいます。彼らに健康意識を高めてもらうにはどうするかも話し合いを重ねました。そして小さくて使いやすく、若い世代のライフスタイルに合った啓発媒体を作成・配布していくこととしました。
  平成21年度から検討会、作業部会を重ね、支援者が健康教育の場で活用できるリーフレットを作成。管内の給食施設を持つ事業所の安全衛生担当者や健康づくり担当者、看護師などに向けた研修会も実施し、若い世代への支援体制・環境整備を行ってきました。

朝ごはんを食べるメリットを強調

 教育媒体(電子ファイルをダウンロード使用)は対象者別・方法別に各5パターン、計10種類作成しました。対象者別では「集中力・美容力アップ」「できる男・きれいな女は朝ごはん」というキャッチフレーズで、朝ごはんを食べるメリットを強調。方法別のリーフレットは、支援者が対象者の知識量、欲しい情報に応じて必要なものだけを使用できるように作成しています。

  その後の検討会・研修会では、従業員の健康管理強化とともに朝食の喫食状況調査の必要性、社員食堂の役割の大きさが指摘されました。そこで23年度には、協力を得た管内大学・企業の10~30歳代・計1009人を対象に朝食喫食状況調査アンケートを実施。また特定給食施設や小規模特定給食施設を持つ78事業所を対象にリーフレット活用状況をアンケート調査しました。

ユニークな仕掛けを考える

 アンケート調査などの結果から見えてきたのは「企業は社員の食生活指導まで手が回らない」「保健福祉事務所のホームページにアクセスしてもらうための発信が必要」「就寝時刻と朝食欠食の関係が濃厚」といったことでした。

  厚木保健福祉事務所のホームページにアクセスしてもらうためには…。食生活で困ったことがあればここにアクセスすれば情報が得られる、ということを知ってもらうためには…。その打開に効果的な、ユニークな仕掛けはないか…。

  若い世代への食生活支援に当初から携わっている管理栄養士の五十嵐香織さんたちは、「新生活が始まる時期に朝ごはん抜きの習慣がついてしまわないように、適切な食習慣を身につける目的」で大学の新入生オリエンテーション、新入社員研修時に活用できるリーフレット(新入生男子・女子用、新入社員男子・女子用計4種類)を作成。携帯電話が生活必需品の彼らに、少しでもアクセスしやすいようにとQRコード(下図)も掲載しています。

  朝食摂取状況等実態調査では、若い世代が簡単な料理の作り方に興味があること、コンビニのおにぎりや菓子パンではなく、白いご飯や食パンのみを朝食によく食べることもわかりました。「若い世代本人からお気に入りの"my朝ごはん〟レシピを集め、保健福祉事務所のホームページに順次、紹介していく計画」と久保田律子さん。

  同時に、若いパパ・ママに向けては子の誕生をきっかけに、父親・母親自身の食習慣を見直してもらうリーフレットの作成も予定。古川弘子さんは「市町村の栄養士、保健師の協力を得て実現し、ホームページにも掲載する考えです」と今後の計画を話してくれました。

社員食堂・学生食堂の取り組みをホームページで

 若い世代の食生活支援に欠かせない存在となっているのが、社員食堂や学生食堂。福利厚生、キャンパスサービスの一環という枠を超えて、毎日のように利用するリピーターの栄養・健康状態につながる重要な役割を担っています。

  厚木保健福祉事務所では管内5カ所の大学、76カ所の事業所に協力を求め、給食施設の指導などを通じてその役割の大きさを食堂運営に関わる人たちに伝えていくと同時に、若い世代が食や健康に対する興味・関心を高めるように社員食堂、学生食堂の活動もホームページで紹介していく予定です。

  古川さん、五十嵐さん、久保田さんは「私たちの仕事は健康づくりを支える環境を整備することです。直接栄養指導をしたり食事を提供したりすることとは違い、お城の石垣の石を一つひとつ積むような地道な取り組みですが“上手に食べることはカッコイイ〟そんな風潮をつくっていきたい」と話していました。

 

(健康かながわ2012年6月号)

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