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前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ>「健康日本21(第二次)」これから10年間の健康プラン
健康かながわ

 平成12 年度からの第3次国民健康づくり(健康日本21 )は、昨年9月に評価結果が出された。これを踏まえて次の運動プランを検討するため、10 月の厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会の了承のもと、平成25 年度から向こう10 年間の健康づくり対策をはかるために運動プラン策定専門委員会が6回開かれた。
 平均寿命世界一の水準にあるわが国は、これまで地域公衆衛生施策などが果たしてきた役割は大きいが、急速な高齢化や社会的格差などがもたらす国民の健康への影響など、今後取り組むべき健康課題や新たな問題があることも事実である。昨年9月号の『The Lancet』(英の医学誌)で日本の保健医療政策特集が組まれるなど、国際的にも注目されている。同時に、がん対策推進基本計画や医療計画との整合性を図る必要がある。(国民健康づくり運動プラン策定専門委員、神奈川県医師会理事、はとりクリニック院長 羽鳥 裕)

健康増進の考え方は

 昭和21 年WHOの〝健康とは、身体的、精神的、社会的に完全な良好な状態をさす〟ところから始まる。日本では昭和53 年からの国民健康づくりから第1次国民健康づくり、昭和63 年からのアクティブ80 ヘルスプラン、第3 次国民健康づくり対策として平成12 年からの健康日本21 につながる。

  健康日本21 の評価をみると、59 項目での達成状況では、目標に達した(メタボの認知度、80 歳で20 歯以上)が17 %、改善傾向(食塩摂取量の減少、運動を心がける人の増加、喫煙の健康への影響知識の増加など)が42 %、変わらない(自殺者、多量飲酒者、脂質異常者) が24 %、悪化(日常生活における歩数、糖尿病合併症)が15 %である。健康日本21 では1 次予防の重視と個人の健康づくりを支援する社会環境づくりで、後半には特定健診・特定保健指導につながるが、以前の老健法に基づく健診と比べて受診者にメリットの感じられにくいシステムとなった。 。

第二次の目標設定

 健康日本21 (第二次) における目標設定は、健康寿命の延伸と健康格差の縮小、主要な非感染性疾患*(NCD) がん、循環器疾患、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)発症予防と重症化予防。
*生活習慣病は国際会議では適切な翻訳語がないためこのプランではNC Dを使用する。

 人口減少社会かつ超高齢社会における健康増進対策は、働く世代の負担が極めて高くなるが、定年の延長や高齢者の社会貢献にも期待するためには元気な高齢者が必要となる。

  平成22 年国民健康調査によれば、生活地域、職業、収入、家族構成により健康格差が生ずるが、今後その差がさらに大きくなるとする推計がある。例として低収入の世帯で肥満者が多く、朝の欠食、運動習慣がない、喫煙者が多いことなど、経済格差で健康に影響が出る。。

具体的な目標数値

 高血圧はあらゆる循環器疾患の危険因子で、 健康日本21 での目標には達しなかったが低下傾向にあり、80 歳代までは、lower the bett erとする目標設定が妥当である。血圧の諸指標で簡便な指標は収縮期血圧である。

  減塩食は血圧を低下させ循環器疾患を低下させる。食塩摂取量は平均10 ・6g(男性11 ・4g、女性9・8g) で減少傾向にあるが、8g以下を目標とする。収縮期血圧を、塩分8gで2・3㎜ Hg 、運動で1・5㎜ Hg 、飲酒制限で0・12 ㎜ Hg 、降圧剤服用10 %増加で0・17 ㎜ Hg 、合計4㎜ Hg 低下させる目標を設定する。

  糖尿病は、新規透析導入の最大原因。また失明原因の第2位、心筋梗塞、脳卒中のリスクを2-3倍増加させる。糖尿病有病者は、平成19 年には強く疑われる人は890万人、可能性が否定できない人は1320万人、両者を併せると2210 万人。10 年前に比べて1・3倍と増加ペースは加速する。このままでは平成35 年には14 10万人(男性111 0万人、女性300万人)と推定され、10 00万人に押さえこむことが目標とされた。

  COPDは今回大きく取り上げられた。世界的に見て患者数2億人、年間死亡者は30 0万人、今後30 %増加し、2008年死亡順位4位から2030年には3位と予測される。日本ではCOPD による死亡数は増加傾向にあり、2010年には16293人、死亡順位9位(男性7位、女性16 位)。発症原因は90 %がたばこ煙で喫煙者の20 %にCOPD を発症する。女性は男性より感受性が高いため、発症リスクが高い。しかし大多数の患者が、未受診、未治療であり早急に啓発活動が必要である。

  アルコールの摂取量は近年減少傾向にあるが、アルコールによる死亡原因は第8位。死亡以外の有病、障害などを加味したDALY s(disability-adjusted life-years) に換算すると第3位となる。 全DALYの男性6・7%、女性1・3%の負荷になる。そこで、NCDリスクを高める量の飲酒(1日純アルコール換算男性40 g以上、女性20 g以上)を超えないようにする。女性は飲酒による肝障害など臓器障害をおこしやすく、アルコール依存症になるまでの期間が短い。多くの先進諸国で許容飲酒量に男女に差を設けている。喫煙同様、未成年、妊婦の飲酒をなくすことが求められる。

がんへの取り組み

   がんについては、健康日本21 では、各がん検診受診率を現状から50 %以上増加をあげていたが、子宮がん・乳がん・大腸がんについては目標に達しないことから、受診クーポン券の発行につながった。75 歳未満の10 万人あたりのがん年齢調整死亡率は、平成22 年84 ・3%から27 年に73 ・9%になることをめざす。

  また、健康増進法ではがん検診に年齢制限上限を設けずに行ってきたが、諸外国との比較をふまえ、40 -69 歳までを検診対象(子宮頸がんは20 ?69 歳)とし、受診率50 %(胃・肺・大腸がんは当面40 %)を目標とする。がん年齢調整死亡率の減少のためには、予防、早期発見の推進とともに、がん対策推進基本計画にあげられる放射線療法、化学療法、小児がん対策などさらなる進展が期待される。

  発症予防からは、喫煙、飲酒、身体活動、体型、諸生活(塩分減少、野菜・果物摂取量増加)、がん関連感染症防止(子宮頸がんワクチン、HTLV ?1 感染防止、肝炎ウイルス検査体制の充実、未対策割合の減少)が望まれる。

  重症化予防では、早期発見、定期的な有効ながん検診、自覚症状があるときの受診勧奨の啓発、がん死亡率を下げるために行う政策としての対策型検診、人間ドックなどの任意型検診があるが、国民へは、健診で必ず見つけられるわけではないこと、寿命を縮めるわけではないがんの診断(過剰診断、過剰治療) など、がん検診の不利益も説明することも必要となる。

  次世代の健康(少子化、妊娠、出産、育児)、喫煙問題、食生活改善、運動療法、ロコモティブ症候群、メンタルヘルス、脂質異常(LD Lから総コレステロールへ復帰)、都道府県市町村の取り組みについては別の機会に触れたい。

 

(健康かながわ2012年7月号)

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