第44回神奈川学校保健研究会夏期講習会が8月7日~9日、かながわ県民センターに129名の参加者を集めて開催された。「支援者」としての養護教諭に必要なカウンセリングのあり方、初期救急のポイント、学校スポーツ事故の法的危機管理などの講師を招いて学ぶ内容に早くから関心が集まり、新潟や愛知、京都などからも参加者があった。3日に渡って行われた講習から大塚剛・帝京大学医学部附属病院救命救急センター 医師「知っておきたい初期救急」の概要をまとめる。
学校内には基礎疾患を持つ生徒もいるが、それ以上に多いのが生徒たちの校内活動によって起きる事故である。事故が発生しないための予防策を講じるとともに、事故発生時の適切な救急対応を日頃から熟知しておく必要がある。救命救急の現場で医師として活躍する大塚講師は「養護教諭をはじめ、すべての教職員が学校救急に携われることが望ましい」と、心肺蘇生、軽症頭部外傷、体幹部(胸腹部)打撲、創傷初期評価についての話をした。
救命の連鎖
ただちに、絶え間ない心臓マッサージ
心肺蘇生ガイドライン2010には〝呼吸がない場合は心停止と判断〟して、ただちに胸骨圧迫からCPRを開始するよう書かれている。胸部を早く・強く押すのが重要で、目安は少なくとも100回/分。中断を最小限にするため複数名であたるのが望ましい。
「これまでは気道確保→呼吸確保→胸骨圧迫というのが心肺蘇生の手順でしたが、ガイドライン2010によって胸骨圧迫→気道確保→呼吸確保となり、胸骨圧迫の重要性が強調されました」。(図1)
頭部打撲と脳しんとう
遊具やスポーツなど、学校には頭部外傷につながる要因が多い。そのため「日頃から危険な頭部外傷を見逃さない、必要な時は適切に医療機関につなげる」ことを心がけてほしいと大塚講師はいう。危険な頭部外傷とは外傷性くも膜下出血や急性硬膜下・硬膜外出血、頭蓋底骨折などが疑われるような事例。頭部の画像検査はCT検査が一般的だが、病院ではどのような所見を認めた際に頭部CTを施行しているのかを解説した。
また画像上何も異常を認めなくとも、帰宅後に自宅での意識レベルの低下、嘔吐、けいれん、激しい頭痛、透明な液体が鼻や耳から出る(髄液がもれている)などに注意して、最低でも24時間は観察し、異常があれば病院に連絡するという事を保護者に説明し、理解を得ることが重要である。
CT検査の結果、画像上の異常が認められなくても何らかの症状を呈しているときは、脳しんとうの可能性が考えられる。「頭部、顔面、頸部に直接衝撃を受けなくても、タックルなどの接触プレーでも脳しんとうは起こる」。
脳しんとうの注意点としては、「脳しんとうでは脳神経伝達物質が過剰に放出され、脳代謝が乱される。症状が正常に戻るまで7~10日かかり、代謝が完全に戻るには30日ほどを要する。脳しんとうになったら症状がおさまるまで運動はもちろんのこと脳を休ませてください。テレビゲーム、携帯メールなども実は脳の疲労につながるので控えるように」と大塚講師。
思い込みで判断しない
校内・課外活動中に身体をぶつけたと訴えてくる児童生徒も多い。「人間の内臓は複雑に入り組んでいます。そのためぶつけたのは胸? お腹? 背中? と詳細に聞き、また打撲痕の有無を観察し、正確に受傷部位を把握してください。子どもの訴えとこちらの安易な思い込みだけで判断するのは難しく危険なためです」と大塚講師はいう。
打撲した部位や症状によっては、超音波検査やCTなどの画像検査が必要となる。この時点で異常が認められなくても、内臓損傷が翌日以降にわかることもある。
搬送前にできる処置を考える
創傷評価の目標は「危険な創傷を見逃さず、医療機関を受診する際は搬送前にできる処置を考える」ことであり、いつ・どこで・だれが・なにで・なぜ・どのようなけがをしたのか、5W1Hに整理することが重要だと大塚講師は続ける。中でも搬送前にできることとして挙げた例は、すぐにでも役に立つ内容だった。
(健康かながわ2012年9月号)