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全国の平均寿命に異変が起きている。都道府県別で沖縄県の男性が初めてトップテンから転落、全国平均さえ下回った。初集計となった市区町村別でも岐阜の町村にトップを奪われ、沖縄からは28位に顔を出すのがやっと。神奈川県では横浜市青葉区が市区町村別で3位となったものの、都道府県別でみると、トップテンの常連だった女性は90年に14位に落ち、現在は23位と次第に順位を下げ、沖縄と似た状況に置かれている。沖縄はかつての長寿県のライバル、長野から専門家を呼び、教えを請うが、キーワードは長野、岐阜両県が力を入れている予防医療となりそうだ。

●長寿の危機  
「二六ショック」。沖縄の医療関係者の間でこんな言葉がささやかれている。2000年の都道府県別の平均寿命で沖縄県の女性は86.01歳とトップを維持したが、男性は77.64歳と全国平均(77.71歳)を初めて下回り、5年前の前回調査の4位から一気に26位まで落ちたからだ。
 「原因は中年世代の死亡率の高さだ」と県医師会の当山護副会長は説明する。45歳から59歳の死亡率は、脳血管疾患や脳出血、肝疾患、糖尿病などで全国ワースト10に入る。いずれも生活習慣と関連の深いとされる疾病ばかりだ。  

実は沖縄県の男性の「長寿の危機」は降ってわいたものではなく、以前から指摘されてきた。95年に県は「世界長寿地域宣言」を出したが、それも「今出しておかなければ二度と出すチャンスがなくなる危機感があった」と宣言の舞台回しをした当山副会長は振り返る。
 「危機感は現実になるまで具体的な対策、取り組みはまったくなかったといっていい」(当山副会長)。皮肉にも宣言を出したことが災いし、行政も医療関係者もあぐらをかき、長寿県という名誉に安住するようになってしまったようだ。
 女性は1位の座を死守したものの、45歳以下は男性と同じ傾向。沖縄国際大の鈴木信教授は「このまま生活習慣病を放置すれば10年後には女性トップの地位も危うい」と警鐘を鳴らしている。

●無名の山村
 今年三月に厚労省が初めて集計した市区町村別の平均寿命でも沖縄は大里村の28位が最高。80.6歳で日本一を奪ったのは岐阜県中部の無名の山村、和良(わら)村だった。
 JR高山線で岐阜駅から特急で北へ一時間半、さらに山峡の道をバスで約三十分揺られ、ようやく和良村に着く。百年生きるという天然記念物オオサンショウウオが棲(す)むのも長寿村らしいが、かつては「肺病(結核)の巣」と言われるほど医療事情が悪かった。

 転機は55年の村営診療所開設だった。招へいされた中野重雄医師は「予防を主として治療を従とする」をスローガンとして、@寄生虫の駆除A結核の撲滅B脳卒中の追放C家族計画――の四本柱で、村の保健組織育成を図った。村内全地区を巡回した衛生座談会は七年間で延べ二百七十回を超え、無料の成人(生活習慣)病検診を続けた。
 特に結核は予防医療を推進、検診率は35%から十年後には97%まで高まり、やがて患者ゼロを実現した。

  和良村に住む波多野儀造さん(92)は当初からずっと検診を受けている。「どや、みんな行こか、と住民に声をかけ、検診に協力してきた。いまでも高血圧などの心配もあるが、「いつも検診を受けているから、病気などちょっとした変化でも気づいてもらえる」と検診の効果を認める。何年か前、「頭がふかふかする」と感じた時もすぐに検診を受けているかかりつけ医に相談。「脳こうそくの恐れがある」とすぐに診断、現在も薬で予防を続けている。
 逆に沖縄では県民の検診の受診率も低く、糖尿病や高血圧の外来で都道府県中最低など疾患の受療率も低いばかりか、男女とも肥満率が全国平均を上回る。沖縄協同病院の仲田精伸院長は「現在の医療体制は、病気になって初めて対処する感染症対策の発想から抜け切れていない」と指摘する。
 最近、80歳代の父を胃がんで亡くした自営業の男性(55)は「父は痛みのあまり、けいれんを起こすまで病院に行こうとしなかった」と振り返る。沖縄特有の「なんくるないさあ(なんとかなるさ)」という楽天的な気質は、病気の発見を遅らせ、時に命取りになることもある。

●女性は23位
 神奈川県の現状を分析すると、市区町村別では男性は和良村、岐阜県国府町(80.4歳)に次いで、三位に横浜市青葉区が入った。トップ30では18位に横浜市都筑区(79.6歳)、23位に川崎市麻生区(79.6歳)が入るなど健闘。男性は都道府県別でも80年には沖縄と並び全国でトップになるなど、65年以降、6位以上を維持している。
 一方、女性は市区町村別ではトップ30に入っている自治体はゼロ。都道府県別でみても、65年、70年は連続二位、5年に初めて沖縄が集計に加わったときに一つ順位を3位に下がったが、85年(7位)まではトップ10を守っていたが、その後、90年に14位、95年は25位、2000年は23位と、沖縄の「二六ショック」と似た状況になっている。

 ただ県の女性の平均寿命は84.74歳で、全国平均(84.62歳)を上回っている。県の担当者は「具体的な分析は行っていないが、女性の平均寿命は伸びており、伸び率がほかの都道府県ほど大きくなかったというだけではないか」と言う。逆に市区町村別で三位となった青葉区も「市内では最も所得水準が高く、健康に対する意識の高い人も多いかもしれない」と推測するが、「区として特別な事業は何もしていない」とのことである。

 市区町村別で四位の東京都三鷹市が「ベッドタウンで人口の移動率も高く、分析は非常に難しい」というように、人口の流出入が大きい神奈川県も「なぜ女性の伸び率が二十位代までに落ちたのか」の答えを出すのは難しいかもしれない。だが何も分析しないままでは、近い将来「ショック」になる可能性もないとは言えない。初めて市区町村別の平均寿命をまとめた厚生労働省も「都道府県単位よりも人口が少ない市区町村レベルで、それぞれの保健福祉水準を比較検討する材料にしてほしい」と求める。

●かつてのライバル
 
都道府県別では90年に男性の長寿日本一を沖縄から奪取したのは長野県だ。女性も80年に初めてトップ10に入ってからも順位を上げ、今や3位。長野県は40年以上前から予防医療に力を注ぎ、医療費は全国で最も低いレベル。今や「長野モデル」として注目されている。
 沖縄県医師会は6月にかつてのライバル、長野県の保健所長を招き、予防医療の必要性を説くセミナーを開いた。「生活習慣病の時代には、病気にならないよう先手を打つ知恵が必要」。沖縄と長野の逆転劇からは、そんな教訓も読みとれそうだ。

財団法人 神奈川県予防医学協会