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健康かながわ

安心・安全な登山のために事前の『登山者検診』を

昨今の健康志向の高まりと共に、中高年のレジャーとしてすっかり定着した感のある登山。海外への山岳ツアーも盛んだ。しかしながら、高山病をはじめとして、隠れていた持病の悪化、突然死など、通常と違う特殊環境での身体のトラブルも多発している。

  その危険性を少しでも回避するために『登山者検診ネットワーク』を立ち上げ、専門医による登山者検診を推進。自身も数多くの高地トレッキング、高峰登山の経験を持ち、当協会の「登山者検診」の担当医でもある、堀井昌子医師に、健康に登山を楽しむための話を聞いた。

堀井昌子〈ほりいまさこ〉神奈川県予防医学協会中央診療所 医師
横浜市立大学医学部卒業。同大学大学院を修了後、神奈川県立成人病センター内科勤務。その後、県立がんセンター循環器科兼検査部長、大和、厚木、平塚の各保健所長を務め、2005年より当協会へ。専門は心臓病、高血圧。日本循環器学会専門医 日本内科学会認定医 日本医師会認定産業医 日本体育協会公認スポーツドクター日本山岳会会員 横浜山岳会会員

高山病とは

高山は、酸素が薄く、気圧が低い状況です。おおむね、2、500メートル以上の高山に登ると、頭痛、吐き気、めまい、手足のむくみなど、高山病といわれる症状が現れ始めます。一般的には、一晩眠れば軽減または消失しますが、稀に重症化し、脳浮腫や肺水腫を起こし、死に至ることもあります。

  しかし、高山での人の体調にはかなり個人差があり、現れる症状も様々。その人がどれだけ高所に順応できるかは、〝低酸素換気応答(低酸素を感受して呼吸を増やす反応)〟がかかわっています。これはもって生まれた体質で変えることはできませんが、低酸素環境体験・低酸素負荷試験を事前に受けることで、高所での自分の体調を予測することはできます。予測ができれば、対処もしやすいですね。

  この低酸素環境体験とは、人工的に低酸素の状態を作った部屋で運動したり、眠ったりしてみることです。しかし、低酸素の状況を作るのは特殊な設備が必要なため、専門機関に行く必要があります。

高山病を防ぐには

 山で一番大事なのは〝呼吸〟です。高所は酸素が薄いので、呼吸がきちんとできて十分な酸素を取り込めるかどうか、それが身体の各組織にいっているかどうかで、体調が決まります。
  ですから登山前の準備として、呼吸の訓練をしておくことは意味があります。その訓練とは「腹式呼吸」で、これをすぐにできる人はなかなかいません。まずは口から息を吐くことを意識して、吐ききったら鼻から吸います。高所になると呼吸が浅くなるので、なるべく深くすることです。

  またツアー前は仕事に追われ、軽い風邪など体調を崩した状態で登山をすると、高所に行ってから肺水腫になるというケースもあります。地上では些細な炎症が、高所では大きな症状になる場合もありますので、よいコンディションで参加できるようにしていただきたいですね。
  また、登山中は水分補給も大切です。高所は空気が乾燥して、気温も一日で40度ぐらい変わり、変化が激しい。この環境で体を動かすと、体から水分が失われますから、1日4リットルほど飲みなさいといいます。のどの渇きを感じる前に飲むようにします。

  高山病の症状がでて、それが一晩寝ても改善されない場合は、300~500メートルほど下って、また登りなおします。それを繰り返すことで、高所に体が慣れていきます。

登山者検診とは

高所で自分の身体がどうなるかも心配ですが、まずは現在の自分の身体状況を知っておくことも大切です。特に中高年の場合、疾患を有しながらも登山をする方が多く、それと共に遭難や突然死などの件数も増えています。 海外への高所ツアー(高地トレッキング・高所登山)の際は、旅行会社から健康診断書の提出を求められます。ご自分が日頃行かれている主治医で作成することも可能ですが、やはり登山に詳しい医師でないと判断が難しいこともあります。そこで登山医学、高所における生理学に精通している「日本登山医学会」に所属する医師による『登山者検診』(下表)が必要になってきます。

  実際の『登山者検診』は、持病がないか、あってもきちんとコントロールがされているか、どんな薬を服用しているか、過去の登山歴とその時の健康状態など、かなり詳しく問診をします。そして健康診断を受けていただいた上で、医師との個人面談により、その人に応じたアドバイスをいたします。
  たとえば睡眠時無呼吸症の人は、酸素を取り入れにくいので、山ではかなり不利になります。それでも行きたいという人には、内服薬やマウスピースなどを試したうえで、数値の変化から判断します。
  このように、健康に不安のある方でも個別の相談によって、希望に添えるようになるケースもあります。
  また健康診断書は英文併記で、海外でも通用する統一されたものですから、ツアー先での不測の事態に備えられるのです。

  今年から「国際山岳認定医」という制度に日本も参加することになりました。これは、山岳救助など100時間の座学と実習をした後に認定される世界統一基準で、自分の身を守りつつ負傷者も診ることができるドクターを養成することを目的としています。将来的には、登山医学にかかわるすべてのドクターに取得してほしいと思っています。

※神奈川県予防医学協会では、登山者検診を休止しています。2022/7/19

安全な登山のために

これから登山を始めようとしている中高年の方は、有名な山だから…といきなり始めず、段階を踏んでほしいですね。特に若い頃やっていた方は、自分の体力を過信している部分もあり、十分な下調べもせずに自己流で登ってしまうケースも。できれば、登山者の会に所属して、安全な登山を心がけてほしいです。
  装備も考えてほしいですね。非常食も衣類も、持っているだけではダメ。すぐに出して食べられるところに入れておく、衣類も天候の変化にすぐに対応できるようにしておくべきです。山はいい時だけとは限りません。

*登山者検診ネットワーク…日本登山医学会に所属する医師と代表的山岳旅行会社3社が作成した統一の基準により、高峰登山・トレッキング参加希望者の健康状態を事前にチェックするために所定の医療機関で、出発前の検診を受けるシステム。当協会もネットワークに参加している。

(健康かながわ2010年10月号)

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