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前のページへ戻るHOME > 情報サービス > 健康かながわ>第35回予防医学実務研修会 神奈川県における放射性物質の測定と健康影響
健康かながわ

 神奈川県内の放射性物質測定は平時より14の測定地点(川崎5・横須賀8・茅ヶ崎1)で行っています。3月11日の東日本大震災と、それに続く福島第一原子力発電所事故が発生しました。3月15日に高い値を示した空間放射線量率(モニタリングポスト最大値:横須賀0.2128μSv・茅ヶ崎0.182μSv/時)は現在、原発事故以前の平常値に近づいています。

  県衛生研究所では常時、大気中・雨水・水道水・海水・食品・土壌・肉などについて放射性物質の測定を行い、その具体的な数値を県のホームページなどに公表しています。いずれの測定結果も、健康にただちに影響する数値ではありません。



岡部英男
神奈川県衛生研究所・茅ヶ崎保健福祉事務所 所長

 

微量放射線被曝の影響については特定できない

 人体に影響する放射線は放射性物質が取り込まれる経路では、消化器や呼吸器から体内に入った結果の「内部被曝」と皮膚などに落下・付着して起こる「外部被曝」があります。

  被曝線量とがん発症のリスクについて、100mSvの被曝でがん発症リスクが0.5%程度増加するという調査結果があります(放射線医学総合研究所などの調査)。それ以下の微量被曝では明らかな証拠はありません。
  がんの発症には食生活や喫煙など被曝以外の要因も加わり、放射線被曝の影響を特定できないからです。

3月下旬に福島県内の子ども(0~15歳)を対象に甲状腺被曝についての調査が行われました。測定できた1080人全員が、精密検査が必要と決めた国の基準値0.20μSv/時を下回りました(最高値は0.10μSv/時)。甲状腺がんは進行がゆっくりで治療成績もよいため、評価によってリスクの高低がわかれば、今後、より注意深く検診を行う必要はあります。

適正な判断と冷静な行動を

 マスコミ報道の県内の最近の測定値が「茅ヶ崎0.050」になっているのは、衛生研究所が茅ヶ崎市にあるためです。
  はじめに紹介した空間放射線量のほか、県内の野菜、しいたけ、原乳、魚、貝、海水などの検査を実施しています。公表した数値はいずれも食品衛生法上の暫定規制値を下回っています。
  衛生研究所で測定した項目について、いくつか例を挙げます。

■茶(生葉)

5月に県内で採取した茶(生葉)から暫定規制値を上回る放射性セシウムが検出されました。最大値780Bq/kgが検出されたお茶1kgを毎日飲むと計算すると3.70mSv/年になります(左表)。

仮に、暫定規制値500Bq/kgの荒茶を原料に製造された茶葉製品10gを使った500mlのお茶を飲用した場合は0.0000325mSvとなります。これは胃の透視を受診した場合の放射線の人体への影響、約0.6mSv/回に比べると微量です。

■海水・海水浴場の砂浜 屋外プール

5月、横浜市から真鶴町までの海水浴場を中心に海水の検査を実施。放射性物質は検出されませんでした。海水浴場の砂浜27カ所では6~8月にかけ二度にわたって測定を行いましたが、原発事故前の年平均値と同程度でした。

  屋外プールの放射性物質濃度については、東京都によるプール水放射性物質濃度の試算を用いて行いました。子どもが誤ってプールの水1lを飲んだ場合の被曝線量は0.09μSvです。

 

■牛肉

 県は、県内の畜産農家の牛に対して全頭検査を実施する方向で検討しています。放射性セシウムが国の規制値を上回った岩手、宮城、福島、栃木の肉牛は出荷自粛・回収を行いましたが、規制値の2倍のセシウムを含む牛肉を大人が1kg食べても、一生のうちに受ける内部被曝量は14μSv程度です。自然に体内に入る放射性物質による内部被曝1500μSv(1.5mSv)に比べてかなり低い値です。

■米

 衛生研究所では県内の土壌調査をつねに実施しています。農水省の発表に従い、県でも生産量の多い地域で収穫前の予備検査、収穫後の本検査の2段階で実施します。

■まとめ

 放射性物質については、正しい測定結果をもとに、適正に判断し、冷静に行動しなければなりません。

講演後のQ&A

Q 足柄茶の放射性物質の値が高かった理由は
 大気中のセシウムが葉に付着したことと、根から土壌の放射性セシウムを吸収した可能性もあります。10の市町村で出荷制限となりました。県西部や山側の茶の産地間での比較でも地域差がありました。

Q 自然被曝にこれからの被曝量が上積されると考えるとどうなりますか
 ヒト体内の放射性物質は新陳代謝によって外部に排出されます。物質の種類によって排出される時間が違います。疫学的なデータを元に考えれば、いますぐに健康に影響のある数値は出ていません。原発事故でさまざまな放射性物質が放出されましたが、広島や長崎の原爆被曝者のように「一気に大量の被曝をした」場合とは大きく異なります。

Q 母乳を測定できる機関はありますか
 国や各自治体の検査機関は、食品(原乳を含む)を中心に検査対象物の測定に追われていて、各々の母乳まで測定できていないのが現状です。公的機関では母乳の測定はできていないと思いますが、国が指定する民間の検査機関はあります。

行政に課せられた大きな課題 当協会常勤顧問 鈴木忠義

鈴木 3月11日以降の対処は、被災地を含むすべての自治体行政にとって大きな課題となりました。原発事故による放射能、放射性物質への不安が払拭されるのはまだ先でしょう。
  支援活動にあたった専門職の声からは同僚の死、職場の崩壊、行政資料の流失に直面しつつ、日夜働きつづける職員の姿を想像して下さい。
  日々、放射線量の測定に取り組む第一線の立場からは、測定値の理解などを解説していただきました。わずかな時間で住民に説明する知識を得られないのは承知の上で、今回の研修会を企画しました。問題意識を持って日頃の業務に取り組むきっかけになれば幸いです。





(健康かながわ2011年9月号)

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