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健康かながわ

  わが国のがん対策のおおもとになる「がん対策推進基本計画」。2007年に制定された「がん対策基本法」に基づき、がんによる死亡率を引き下げるなど、国としての目標が計画の中に盛り込まれた。あれから5年。基本計画の見直しが11年度に行われ、12年度は「新計画」の元年になる。新しい基本計画には、どんな特徴があり、どんな課題が残っているのだろうか。
(読売新聞東京本社科学部次長・佐藤良明)

 がんは日本人の死因のトップを占める。1981年に首位になって以来、がんによる死者は増え続け、2010年には約35万人が、がんで命を落とした。 生涯のうち、おおむね2人に1人はがんになると推計されている。

  こうした状況から政府は「がんの克服」を国家的課題と位置づけ、1984年の「対がん10か年総合戦略」など、3度の「10か年戦略」を策定した。
  ただし、従来の10か年戦略には、患者の目線が足りず、これからは、患者の立場を意識した、きめ細かいがん対策を推進してほしい、という要望も近年高まっていた。その結果、07年に「がん対策基本法」と同法に基づく「がん対策推進基本計画」が始動した。

  07年基本計画(前計画)は一定の成果を挙げ、課題を浮かび上がらせた。計画自体は5年で見直すことになっていた。また、策定(見直し)にあたっては、がん患者、医師らで組織する「がん対策推進協議会」(会長=門田守人・がん研究会有明病院長)の意見を聴くことにもなっていた。推進協は3月1日に議論を集約し、小宮山厚労大臣に新計画案を答申した。6月頃までに閣議決定される見通しだ。計画案では「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けない社会」(「はじめに」より)の実現をめざしている。

四つの重点項目

  「全体目標」をまず見よう。前計画では、75歳未満の国民のがん死亡率を10 年間で20%減らす、としていた。新計画案は、この目標を堅持し、一層がん対 策を充実させるとしている。

  では、全体目標の達成に何が必要なのだろう。新計画案には、重点的に取り組む事柄として、①従来の治療(手術、抗がん剤、放射線)のさらなる充実と専門的な医療従事者の育成②がんと診断された時からの緩和ケアの推進③がん登録の推進④働く世代や小児へのがん対策の充実--の四つが盛り込まれた。

  がん患者にとって関心があるのは、やはり、医療内容と医療スタッフの充実だろう。
  がん診療連携拠点病院もそのうちの一つだ。拠点病院は、がん患者が居住する地域にかかわらず、等しく科学的根拠に基づく適切な医療を受けられるように整備が進められてきた。07年当時、286か所だったが、今年1月現在では388まで増えた。しかし人材は十分とはいえない。

がん薬物療法専門医、が ん薬物療法認定薬剤師といった専門性の高いスタッフは、拠点病院といえども不足している。前立腺がんなどに対する「強度変調放射線治療(IMRT)」という最新の治療を行える高度な機器はあっても、扱えるスタッフが不在の拠点病院もある。新計画案では、こうした実情を踏まえ、高度医療を担う専門スタッフの育成にさらに力を注ぐべき、としている。  

具体的な数値目標

 予防・早期発見分野でも特徴が見られる。たばこ対策では、成人喫煙率の数値目標が初めて盛り込まれた。

  計画案によると、10年後までに喫煙率を12・2%まで減らすとしている。2010年の喫煙率は19・5%で、徐々に減ってきているが、新計画案では、10年後に行政機関・医療機関は受動喫煙ゼロ、家庭で同3%、飲食店で同15%とすることを目標に掲げた。数値目標がなかった前計画に比べ、大臣への答申に、 具体的数値が盛り込まれたのは前進だ。

  また、検診についてもさらに力を入れるとしている。
  受診率について前計画では、胃、肺、大腸、乳房、子宮頸部の五つのがんで 50%以上を目標にしたが、現状は、胃で25%(04年)が30%(10年)に、肺で15%(04年)が23%(10年)になった程度で、受診率の大幅な改善は果たせていない。

そのため、新計画案では、69歳以下について、胃、肺、大腸を当面40%、乳房、子宮頸部は50%達成を目標とした。

今後の課題

  新計画案には様々な対策が盛り込まれた。しかし懸案も残った。
  3月1日に開催された推進協の会合では、メンバーの一人、NPO法人ミーネットの花井美紀理事長が、医療コミュニケーションについて問題提起した。医療従事者の心ない言葉で、がん患者らが深く傷つくことは以前から問題になっていた。

  新計画案では、患者や家族の心情に配慮した、診断結果や病状の適切な伝え方について「検討を行う」という表現をしているが、花井さんは、踏み込んだ 対応を求め、「検討会を発足してほしい」と厚生労働省に迫った。

  一方、推進協の議論でも、その必要性は認められながら、具体的な手法がなかなか見つけられずにいるのが、がん対策を客観的に判定できる、わかりやすい「指標」作りだ。

  新計画案では、医療内容そのものや、医療機関での様々なサービスの質も含めた分かりやすい評価指標の策定について必要な検討を行い、施策の進捗管理 と必要な見直しを行う、と表現している。

  推進協では例えば、緩和ケアの進捗状況について、数字で示す「除痛率」を指標にできないか、といった意見も出たが、結局は検討課題として残った。新計画は3年後に中間評価、5年後に見直しを行う手はずになっている。推進協会長代理を務めるNPO法人グループ・ネクサスの天野慎介理事長は「次回の見直しまでに適切な指標を作ってほしい」と厚労省に注文した。

  がん対策推進基本計画は、策定にあたって、がん患者らの生の声を反映する画期的な試みだった。今回の見直し作業でも昨年から月1~2回のペースで議論を重ねてきた。それでも、小児がん対策、がん登録事業、がん患者の就労支援、ドラッグ・ラグなど工夫と検討の余地を残したテーマも少なくない。推進協の議論の締めくくりで、門田会長は「これからが勝負だ」と述べた。計画が「絵に描いた餅」にならないような取り組みが、関係者に求められる。

(健康かながわ2012年4月号)

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