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かながわ健康支援セミナー

2021年度第3回 かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)が12月7日(火)「高齢期の就労による健康への影響~高齢労働者の就労状況や健康課題を踏まえた対策~」のテーマでオンラインで開催された。講師に帝京大学大学院公衆衛生学研究科講師・金森 悟氏を迎え、現在増加し今後増加していく働く高齢者について、その現状や問題点、就労が健康に与える影響、働くことの意義、これからの課題について学んだ、産業保健に関わる産業医や保健師など68人がリアルタイムに視聴した。

高齢者の就労を取り巻く現状

 令和3年4月に高年齢者雇用安定法が改正され、これまで定められていた「65歳までの雇用確保の義務」に「70歳までの就業確保の努力義務」が加わり高齢者を取り巻く雇用状況は変わりつつある。
高齢者の就労意向は、70歳以上まで働きたい人の割合が男女とも約70%で、2020年の高年齢就業者数は10年前の1.6倍にあたる906万人に達している。定年後の雇用形態を見ると異業種に転換して就労する人が多いことや、390万人が非正規雇用であるのが特徴的で、業務量や拘束時間はほとんど変わらないのに給料は大幅にダウンするケースも少なくない。加えて気力や学習能力の衰えなど健康面の不安を抱えながら働く高齢者は多く、こうした不安への対策が望まれる。

働く高齢者の健康課題とは

 次に働く高齢者の健康課題を疾病・機能低下・心理社会的問題の3つの観点から見ていく。
まず疾病は人口10万人あたりの受療率が、65~69歳は40~44歳と比べて入院で4.2倍、通院で2.3倍。定期健診における有所見率は50代を超えると6割以上が何らかの異常が見られる。血圧や血糖などの基礎疾患やがん罹患率も年齢と共に上がり、中でも高血圧と糖尿病を抱える人の割合が高く、31.8%の人が病気の治療をしながら働いていることが明らかだ。

機能低下においては握力や反復横跳びを含む体力テストの結果、加齢と共に体力は低下し特に衰えが目立つのが柔軟性で、体力の個人差は年代が上がるほど大きくなることもわかった。ただ平均的な体力は年々若返り傾向にあり、1998年から5年ごとに行った体力テストでは、70~74歳では男女共に20年前の65~69歳より成績が良くなっている。

 心理社会的問題で注目すべきは新型コロナウイルス感染症に伴う二次被害だ。社会的つながりや社会的支援の少なさはたばこやアルコールより死亡率を高めるため、コロナ禍では年齢が上がるほど孤立を感じる人が増えているので、適切な支援が求められている。

就労が健康に与える影響

 高齢者の就労が健康に及ぼす影響には悪い面と良い面があり、まず加齢に伴い労働災害発生率の上昇が悪い面として挙げられ、年齢別・男女別の調査では男性は25~29歳で2.05%、なのに対して65歳~69歳は4.06%で2倍に、女性は同じ年齢で見ると4.9倍に増加している。(図1)

業種別の労働災害発生率は陸上貨物運送業が極めて高い。労働災害の種類は墜落・転落の発生率が男性では25~29歳が0.29%に対して75~79歳は1.17%と約4倍、女性は転倒の発生率が25~29歳で0.15%に対して75~79歳は2.33%で約1.5倍に増加。
また労働災害は業種・年代に関わらず就業1年未満の発生率が高いため、職種が変わることのある定年後は注意が必要だ。業務上疾病で多い腰痛は、社会福祉施設で働く高齢者に目立つ。熱中症は、年齢が上がるほどリスクが高まり、特に建設業と製造業は注意が必要だ。また脳・心臓疾患は50歳代の発症率が最も高い。

 一方の良い面は、経済的自立や生きがいの創出、女性より社会的孤立傾向が高い男性の社会参加に就労が貢献しているといってよい。働いている人は働いていない人より生存率が高く、要介護認定になりにくいことも判明しておりこうした恩恵は常勤でもパートタイムでも大きな差はない。(図2)
また就労以外にボランティアなどの社会参加をしている人は健康状態が良く、「就労か地域組織への参加」のいずれかもしくは両方を行うことが推奨されている。就労目的と健康との関係も興味深く、金銭目的だけの就労は生きがい目的の場合と比べて生活機能の悪化リスクが高まるため、健康効果を高めるには生きがいを実感できる仕事に就くことが理想的で大切である。

これから事業者に求められること

 高齢者が安全かつ健康で働ける環境作りが急務となっているが、労災防止策を取っている企業が5.7%に留まっているのが現状である。そこで厚生労働省は高年齢労働者のための「エイジフレンドリーガイドライン」を策定し、安全衛生管理の基本的体制と具体的な取り組みを体系化した。ガイドラインでは総括管理、作業環境管理、健康管理、労働衛生教育、安全衛生教育の5分野でさまざまな対策を打ち出しているので労災防止の参考にしたい。また退職後も見据えた健康支援の必要性を問う声が多く聞かれ、産業保健スタッフがいなくても健康につながる行動ができるようにヘルスリテラシーを高め、退職後の健康診断の受診先指導や社会参加の促進が求められている。

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