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かながわ健康支援セミナー

2021年度第4回 かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)が3月18日(金)「相手に伝わる話し方、聴き方」のテーマでオンラインで開催された。講師に東京工芸大学 芸術学部教授・学部長・大島 武氏を迎え、専門職の皆様方を対象に、仕事に活かせるコミュニケーション技術について、解説していただいた。産業保健に関わる産業医や保健師など130人がリアルタイムに視聴した。

独りよがりにならず互いを思いやる話し方、聴き方を習得

 コミュニケーションとは自分と相手との間で行うメッセージ交換であり、伝えたいことを「コード化(言語化)」し、それを受け取った相手は言葉の意味を「解読」することでやりとりが成り立つ。解読の仕方はその人の経験や価値観によって異なり、例えば話し手がペットの話を前提に『犬』というワードを使っても、聴き手は盲導犬のような働く犬を想像するかもしれない。こうした誤解を減らすために「フィードバック(質問・確認)」を行い、なおかつ「コンテキスト」(話の流れ)を共有することがコミュニケーションには不可欠といえる。

円滑なコミュニケーションを行うために、まず話し手が心得ておきたい8つのポイントを押さえておこう。
 ① 「概論→詳細」「結論→理由」のように”大枠”から話す
 ② 日時・数量を明確にして具体的に話す
 ③ 話を構造化する
 ④ 言葉を濁さず自信を持って言い切る
 ⑤ 相手の反応に合わせてゆっくり話す
 ⑥ 相手の土俵に立って話す
 ⑦ 相手に馴染みのない言葉は使わず、専門用語は使い時を見極める
 ⑧ 相手の貴重な時間を無駄にしないようにタイムマネジメントを意識し、話の所要時間と終了時間を守る。

③について補足すると、話の要点を3つに絞ると聴き手は理解しやすく、また過去・現在・未来と時系列に沿った話は伝わりやすい。⑤はそもそも話し手と聴き手の脳の情報処理スピードが違うことが前提になっている。なぜなら話し手は知っていることを話し、聴き手は知らないことを聴くためで、そのことを踏まえて話すスピードに配慮すること。⑥は人は新しい情報に触れたとき既に知っている情報と結びつけ、関連づけが成立すると理解しやすいもの。話し手は聴き手の得意分野に寄り添って話すと、共感が生まれやすいと覚えておこう。

 コミュニケーションは一方的だと成り立たないので、「聴き手」の聴く姿勢も大切。ちゃんと話を聴くメリットとして状況や相手の性格について情報収集できるほか、人は自分の話を真剣に聴いてくれる相手に好感を抱き、良い意味で「慣れ」が生じて良好な関係性を築きやすくなる。そのために意識したいのは次の3つのポイント。
 ① うなずきやあいづちをして、真摯に聴いているサインを送る
 ② 聴き手からも質問を投げかけ言葉のキャッチボールの頻度を高める
 ③ 賛同できなくても一旦受け入れ、それから自分の意見を言う(Yes,but法)

コミュニケーションスキルは、「言語」+「非言語」の合わせ技で高める

 コミュニケーションには音声を伴う「言語」と、身振り手振りや表情による「非言語」の表現があり、双方を駆使することでより良いコミュニケーションが生まれる。アメリカの心理学者アルバート・メラービアンは「人が相手に好意を感じるのは好意的な言葉よりその言葉をかけるときの声のトーンや表情に大きく左右される」と説き、言語が意味を伝える役割なのに対して非言語は感情を伝え、感情が伴うことで相手が受ける印象が変わってくるという。非言語スキルを磨くコツは次の3つ。

 ① 相手に関係性を意識させるために「アイコンタクト」をする
 ② 意図的に「スマイル」を作る。好意には返報性があり笑顔で接してもらうと、それに応えようとする心理が働く。
 ③ 人は情報の8割を視覚から得ているのでスライドや図解の「ビジュアル」を使う

しかし、いろいろ気をつけても常に100点のコミュニケーションができるわけではなく落ち込むこともあるだろう。上手くいかなかったときは、次の言葉を思い出してほしい。『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』(平戸藩主・松浦静山『剣談』より)。つまり物事は様々な要素が重なって偶然上手くいくもので、「こうすれば上手くいく」という鉄板のコミュニケーションはないのだ。逆に失敗には必ず原因があり、繰り返さないためには「やってはいけない」パフォーマンスを意識しておく必要がある。失敗は思い出したくないものだが、あえて手帳などに書いて記憶に留めておくと同じつまずきをしないで済み、また書き起こすことで思考が整理され新たな気づきが生まれる。ぜひトライしてほしい。

 最後に、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの教えを紹介しよう。人を動かす3要素は「ロゴス(論理)」「パトス(感情)」「エートス(信頼)」だという。理屈が通った内容を、熱意を持ってわかりやすく話し、なおかつ「あなたが言うなら」と思ってもらえる信頼を勝ち得ること。今回のセミナーが多少なりとも皆様の参考になれば幸甚である。(2022.3.18)

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