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健康かながわ

2022年度第2回 かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)が12月2日(金)「なぜ人は予防行動しない? ナッジで人を動かす」のテーマでオンラインで開催された。講師に青森大学社会学部 客員教授・竹林 正樹氏を迎え、人の行動の不合理な心理特性を科学的に解析し、心理特性に逆らわずに背中をそっと押すような設計(ナッジ)による受診率向上策を実践的な手法を交えて講演していただいた。昨年度好評をいただいたセミナーの第2弾。
 産業保健に関わる産業医や保健師など143人がリアルタイムに視聴した。

 判断を司る「直感」に訴えると行動は変えられる

photo image 健康の大切さをわかっていても健診を後回しにしてしまう原因は、「認知バイアス」という直感が持つ認知の歪みにある。人の判断を担っている直感は、巨大かつ本能的な性質を持ち、象に例えられる。対する理性は、直感では対処できないときに出現し、正しい答えを導き出し、賢い調教師のように働く。
認知バイアスは系統性があるため、予測可能である。阻害要因となる認知バイアスにブレーキをかけ、促進要因のバイアスを味方につけることで行動を促す設計を「ナッジ」と呼ぶ。 

 正しい判断を阻害する認知バイアスとは

 阻害要因になり得る3つの認知バイアスを紹介する。まずは現状を好み変化を嫌う「現状維持バイアス」で、これが強いと体に良くないとわかっていても現在の生活習慣を手放そうとしない。次に、現状を過大評価し、面倒なことを先送りにしたくなる「現在バイアス」で、将来の健康リスクが予測できたとしても目の前の快楽に飛びついてしまう。特に肥満や喫煙する人は、現在バイアスが強いことが報告されている。最後に「自分だけは病気にならない」と信じ込む「楽観性バイアス」で、これが強いと、健康情報も自分に当てはめようとしなくなる。

 ナッジを成功に導く鍵は「EAST」の実践

photo image 効果的なナッジを設計するには、「EASTフレームワーク」が重要になる。EASTとは、Easy(簡単で)Attractive(魅力的で)Social(規範に訴え)Timely(タイムリー)の頭文字を取ったもので、なかでもEasyは重要である。なぜなら私たちの直感は、たとえ小さな障壁にぶつかるとすぐに行動を中止してしまう習性があるからで、障壁を取り除くだけで行動につながりやすくなる。

 チラシなどの作成にEasyを適用すると、極力余計な情報を排除することになる。これは確実に伝えるべきメッセージを特定し、ノイズとなる部分を全て取り除くのがベストである。今までに作成した健診案内を見直し、長い題名(14文字超え)、社交辞令的な顔の見えない文章、メッセージ疲労を引き起こす「ましょう」の連発などは改善の余地がある。また視認性の低い色や図柄、多用したイラスト、小さすぎる文字、読みにくい書体などデザイン面の障壁も再考したい。

 直感的に動きたくなるシンプルな設計にするには、「明確な矢印を示すこと」である。矢印に必要な3要素は①スタート②ゴール③一貫性である。なぜなら人は、最初の印象が長続きし(プライミング効果)、最後の印象が記憶に定着し(ピークエンドの法則)、そして一貫したストーリーを好むからだ。ナッジの有無別の学会チラシで、ランダム化比較試験を行ったところ、参加意欲は、ナッジなし30%、Easyのみ40%、EAST全部48%と、最大1.6倍もの差が出た。参加意欲は、内容そのものよりもチラシに設計されたナッジに左右されるようだ。

【ナッジなしのチラシ】

【Easyナッジのみのチラシ】

【EASTナッジのチラシ】

 直感に訴えないチラシを作ってしまう要因は、①Who(ターゲット層)とWhat(訴求内容)が曖昧な状態で、Howに突入していること②ターゲット層への事前調査をせずにぶっつけ本番でのぞんだことがあげられる。また、集団介入の場合、無関心層をターゲットに特化するのは避けたほうがよい。そもそもチラシを読む可能性の低い無関心期の人ではなく、読む可能性が高く、人数が最も多い準備期の人を取りこぼさないことが重要になる。準備期の人が実行期に入ると、同調バイアスによって無関心期の人が関心期に移行する可能性が高まり、全体の底上げが期待できる。ただし、これはあくまでも集団介入の話であり、無関心期には個別アプローチがよいだろう。
対象者の認知バイアスの特性に沿ったナッジを取り入れることで、費用対効果が高い形で受診率が向上していくと期待する。

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