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健康かながわ

2022年度第3回 かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)が2月6日(月)「腸活でカラダもココロも健康に!~腸内細菌の多様性が健康長寿の秘訣~」のテーマでオンラインにて開催された。講師に京都府立医科大学大学院 医学研究科 生体免疫栄養学 教授・内藤 裕二氏を迎え、ヒトの腸に棲みつく1000種類、100兆個もの腸内細菌の多様性を維持し、腸活によってカラダもココロも健康になる秘訣を講演していただいた。
産業保健に関わる産業医や保健師、管理栄養士など100人がリアルタイムに視聴した。




 近年、腸内細菌と腸内環境が健康や病気の増悪に関係するとわかり、「腸活」が話題になっている。日本が長寿国になったのは栄養学をベースにした食生活改善の成果だが、現在は平均寿命と健康寿命の差を縮め自立した生活を長く続けることに注目が集まり、その鍵を握る栄養や腸内細菌の研究が進んでいる。

 健康長寿の指標は、暦年齢から生物学的年齢に

 早期胃がんの生存率と食事の関係を見ると、内視鏡でがんを切除できても栄養状態が悪いと43.5%の患者が多臓器がんで命を落とす。つまり日本の医療は、手術で瞬間的な幸せ「Happiness」は実現できても、持続可能な多面的な幸せ「Well-being」には到達できていないことになる。世界的なウェルビーイング調査でも日本の順位は低く、この状況を脱するには健康寿命の延伸が重要であり、栄養学の分野では「人生100年時代の健康栄養学」へのシフトが始まっている。

 健康長寿を目指す際に注目されているのが、加齢に伴う臓器機能の低下過程や身体機能低下から測定する「生物学的年齢」で、世界では生物学的老化スピードを遅らせる研究が盛んだ。老化度は遺伝子の傷により測定でき、食事、運動、リラクゼーションなどの改善によって生物学的年齢が若返ることが解明されつつあり、生物学的年齢を指標とした健康長寿戦略の提案が期待される。

 腸内細菌の多様性で健康寿命を予測できる!?

photo image  フィンランドで7,211人の成人の腸内細菌をストックし、15年間でどのような病気で命を落とすか腸内細菌から予測する研究が行われた。10年後に死亡した721人の腸内細菌の多様性を見ると、Principal component3(PC3)という多様性が上がると死亡率が増加し、腸内細菌叢の多様性と死亡率は相関していると判明。PC3は何によって決まるかは研究中だが、腸内細菌科細菌が多いと胃腸疾患、がん、呼吸器疾患などに罹患し15年以内の死亡率が高い。

 腸内細菌は個人差が大きいが、似ている腸内フローラ別にタイプ分け(エンテロタイプ)を試みた結果、腸内細菌の特徴によってA~Eに分類。日本人のエンテロタイプと食の関係を見ると、Aタンパク質・脂肪タイプ、Bバランス食タイプ、Cアンバランス食タイプ、Dタンパク質・脂肪・糖タイプ、Eヘルシー食タイプであった。腸内細菌叢の多様性は健康長寿の予測マーカーとして有用であり、どのような食事で腸内細菌の多様性が生まれ健康長寿につながるかを調べる研究が必要になっている。

 パーキンソン病発症には腸と脳、そして腸内細菌が関与

 脳の状態は腸に、腸の状態は脳に影響を及ぼし、脳と腸は相関関係にある。その例として、無菌マウスに腸内フローラを移植すると、それまでの落ち着きのない行動が収まり、腸への刺激が脳に伝わり脳が成熟するメカニズムが明らかになった。

 病態と腸内細菌の研究も進んでおり、パーキンソン病には腸で起きた異常が脳神経に伝わり腸ファーストで発症するケースがある。世界5カ国のパーキンソン病患者の腸内細菌叢を比較分析したところ、特にロゼブリア菌、フィーカリバクテリア菌、ラクノスピラ菌が減少していることがわかり、病態と腸内細菌の関係を紐解く研究が必要になっている。

 また健康長寿には4つの幸せホルモンの関与し、なかでもドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質をコントロールし、精神神経を安定させるセロトニンが重要。セロトニンは、大豆、魚、野菜などに含まれるトリプトファンによって元になる物質が腸内で生成され、それが脳内で合成され、食事・腸・脳の協力関係によってつくられている。

 酪酸・酪酸菌の増加と筋力維持が健康長寿を支える

 100歳超の人が全国平均と比べて約3.3倍と高い京都府・京丹後では、健康長寿の秘密を紐解くコホート研究が行われている。それによると健康長寿には酪酸・酪酸菌が関与し、酪酸・酪酸菌は制御性T細胞を誘導し抗炎症に作用する、寿命を延長し加齢による筋委縮を抑制するなどのメリットがあり、ラクノスピラ菌という酪酸産生菌が多いほど筋肉量が多いことも判明。酪酸・酪酸菌が多い京丹後の人は、ヨーグルト、海藻類、全粒粉、葉野菜、果実類など食物由来の多様な食品を毎日摂取しているというデータもある。

photo image  また筋肉の維持は認知症リスクを減らし、逆に筋肉が減少するサルコペニアでなおかつ肥満を伴う人が認知症を発症するリスクは、正常な人の6.17倍も高くなる。サルコペニア肥満のマウスを使った実験では、水溶性食物繊維を投与すると筋量減少、握力低下が改善。また筋力の維持にはタンパク質も重要で、日本人には大豆などの植物由来や魚由来の良質なタンパク質の積極的な摂取が望ましい。(2023.2.6)

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