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健康かながわ

写真 2023年度第4回かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)が、1月16日(月)にオンラインにて開催された。今回のテーマは、「職場における化学物質管理と産業保健との接点~リスクアセスメントに基づいた労働者の健康管理について~」。独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 化学物質情報管理研究センター 化学物質情報管理部部長の山本健也氏より講演していただいた。 参加者は、企業の産業医や保健師ら164名が視聴した。


化学物質による新たな職業病の発生

 業務上疾病において化学物質が要因となるケースは昭和40年代以降、減少傾向にある。しかし、平成に入ってからもフッ化水素ガスや鉛など、労働安全衛生法令(以下、「法令」)で管理されている化学物質による中毒事例の発生があり、1,2-ジクロロプロパンによる胆管がんやオルト-トルイジンによる膀胱がんなど、法令で規制がない化学物質による新たな職業病が発生している。
また、高濃度ばく露が主体の時代では、化学物質による中毒は自覚症状などの把握が容易であったが、低濃度ばく露が主体である近年では、悪性腫瘍など症状が現れにくく、見つかった時点で回復が難しい疾患が管理の対象となっている。このことは化学物質による疾患に限らず、脳血管障害やメンタルヘルス不調といった疾患も同様である。産業保健職は、これらの疾患の症状が見つかる前の段階でリスクの芽を摘む予防の視点から「リスク管理」をすることが重要になっている。

法令改正によって求められる化学物質の自律的な管理

 化学物質管理は国際的な潮流であり、EUをはじめアメリカ、中国、東南アジアなどでも「リスクマネジメントとして化学物質管理を進めていくことが必要である」という認識のもと、様々な制度や仕組みが導入されている。日本でも西暦2000年前後より関係省庁による様々な取り組みが実施されているが、今般の職域でのがん等の事案をきっかけに職場における化学物質管理に関する検討会が開催され、検討を重ねた結果2022年5月に法令の改正が公示された。その後の段階的な施行を経て、2024年4月には改正法令が全面施行となる。
 今回の法令改正で最も重要な点は、まず化学品のメーカーが製造する化学物質の危険性・有害性情報をユーザーに適切に伝えるための制度変更がされ、職場における化学物質の危険性・有害性にかかる「情報伝達」が強化された。次に、伝わった情報を基にユーザーがリスクアセスメントを実施し、その結果に基づいた「自律的な管理」ができることとされた。この2つが大きなポイントとなる。すなわち、従来の化学物質への法令遵守の対策から、「危険性・有害性の情報を基にリスクアセスメントを行い、その結果に基づいた自律的なリスク低減対策を実施する」という流れに大きく転換される。
 国が化学物質の製品ラベルやSDS(Safety Data Sheet:安全データシート)作成などの義務化を予定している「リスクアセスメント対象物」は、危険性・有害性に関する情報が多い約2,900物質である。ユーザーは使用する化学物質に関する情報をSDS等で収集した後、その危険性・有害性を洗い出して、ばく露評価の結果を踏まえてリスクを見積り、その結果に基づき優先順位を決めてリスク低減対策を実施し、記録することがリスクアセスメントの一連の作業となる。

まとめ

産業保健職としてリスクアセスメントの方法を理解する

 リスクアセスメントには、「実測」によるものと「推定モデル」によるものと大きく2つの方法がある。
「実測」には作業環境測定や個人ばく露測定などの方法がある。「推定モデル」にはコントロールバンディング、数理モデル、マトリックス法などがある。なお、リスクアセスメントのための新しいツールも開発されている。
 リスク低減対策の手法は従来通り「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」の3管理を適用する事に変わりないが、どの手法を選択するかは事業者の自律的な判断となる。

まとめ

「リスクアセスメント対象物健康診断」への対応準備

 リスクアセスメントの出発点としては、まず取扱いのある化学物質の危険性・有害性に気づくことが必要である。化学物質に限らず、職場での危険有害要因やその健康影響に早期に「気づく」ことはとても重要であり、気づきが無ければ危険有害要因へのばく露低減につながらないため、健康障害を防ぐきっかけを掴むことができない。危険性・有害性の有無の把握は必ずしも産業保健職の職務ではないが、産業医の職場巡視等でリスクアセスメント対象物となっている化学物質の存在を把握すること、リスクアセスメントの実施の有無を確認することも必要である。

  リスクが受容範囲を超え、健康診断が必要であると事業者が認めた場合には、「リスクアセスメント対象物健康診断」を行う。医師が必要と認める項目の第3項健診と、作業従事者が濃度基準値を超えてばく露したおそれがあるときに、速やかに行う第4項健診がある。これらは、従来の特別規則に基づく「特殊健康診断」とは実施の要否の判断や対象者の選択方法が異なる。第3項健診の場合、主に衛生委員会の議論のなかで「労働者の意見」を聴いたうえで事業者が「リスクアセスメント対象物健康診断」の実施の要否を判断することとされているが、その際に産業保健職に意見を求められることが予想される。第4項健診の場合、実測等によるリスクアセスメントの結果が濃度基準値を超えている場合などでは、速やかに「リスクアセスメント対象物健康診断」を実施する必要がある。

 化学物質の有害性による健康影響を理解する際、職場で入手可能な情報源はSDSである。特に、第2項「危険有害性の要約」、および詳細な情報が載っている第11項「有害性情報」を読み取り、その化学物質の有害性を把握したうえで健診項目を検討していく作業が必要となる。また、健診項目の選定などについて今後、厚労省からガイドラインが公表される予定である。

まとめ

職場として自律的な管理を行う組織力を高めることが重要

 産業保健職は職場への助言、指導をする立場であり、リスクアセスメントの実務を直接担うことはかえって職場の自律性を損なうことが懸念されるため注意が必要である。
 産業保健職の役割は、職場巡視やSDSなどから、危険性・有害性のある化学物質に気づくこと、リスクアセスメントの方法を理解し、助言、指導を行うことである。そのためにはリスクアセスメントのツールの一つである「CREATE SIMPLE」などの結果を理解することが必要である。リスクアセスメントの必要性やその実施方法等を理解したうえで、その方法を職場に伝達することや、衛生委員会で課題が出された場合に産業保健職として意見をし、職場でのリスク低減対策等への助言、指導することも重要である。
 職場の化学物質管理には、従来の「衛生管理者」「推進者」「職場担当者」に加え、社内では「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」が、社外からは必要に応じて「化学物質管理専門家」等がこれから参画する。こうした関連スタッフが連携して全員で取り組んでいくことが、組織力を高めることに繋がる。                         

まとめ

参考資料:独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 職場の化学物質管理総合サイト

(2024.1.16)

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