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健康かながわ

自律的健康管理と保健指導の実際

今回の「かながわ健康支援セミナー」特別編は、20年度最後の研修となる。2月27日、『自律的健康管理と保健指導の実践』をテーマに、神奈川県予防医学協会2階会議室で開催。講師は労働衛生コンサルタント事務所「オークス」の竹田透所長。今回は、参加者を30人と限定し、職種も保健師・看護師・管理栄養士のみとした。また事前に資料を送付し、当日は参加者全員への質疑応答をするなどの新しい試みもなされた。

マニュアル化しがちな保健指導への警鐘

冒頭、「保健指導とは、何を得ようとする場だと思いますか?」という竹田透先生の問いに、「自分の今の状態に気づいてもらう場」、「自己管理能力を高める場」、「人生の中で健康をどう捉えるかを考えてもらい、それを良い方向に持っていく場」、「その人に合った健康支援をする場」、「安全管理義務を確認する場」などの声が参加者から返る。

特定保健指導が始まってほぼ1年。いっそうの成果が求められる保健指導の場で、手っ取り早く評価を得られる(と考えられる)ための方法を知ろうと、セミナーやHOWTO本は花盛りだ。しかし竹田先生はそのことに以前から警鐘を鳴らしてきた。
「この保健指導は、どういう目的でやっているのか。自分自身に問いかけてみることが大切です。日々の業務の中で、流れ作業になっていないか。ときどき振り返って見直し、自分の保健指導が良かったか良くなかったか、確認しながら進んでいかないと…。

私のする保健指導は、こういうふうにやりますというのを、自分なりに文章にしてみるといいと思います。私はこう考えますというのをクリアにすると、指導も進めやすい。それは、他の人と多少違ってもいいんです。自分なりの定義としてはっきりさせておくことが大切です」。
そもそも、保健指導は、健康上の課題も性格も千差万別な人間相手。絶対的な効果を上げる方法(マニュアル)など存在するわけはない。それだからこそ、指導者一人ひとりの力量が問われるのである。

自己評価の必要性

ここで先生は、保健指導での自己評価の必要性を提案する。
この日、事前に作られた『指導のシナリオ』に添削したものを資料として提示しながら、「限られた時間でどうやったらきっちり指導ができるか。本当は、保健指導の状況をビデオに撮って、評価するのがいいのですが、個人情報保護法のことがあってそれは難しいですね。そこで保健指導の場面を考え、一言一句まで作り、シナリオ化するのです。こうして文章化することで、 自分の指導のクセがわかったり、足りない部分の気づきにつながったりします」と、自己評価から実際のスキルアップにつながる方法を紹介。受講者は、熱心に耳を傾けていた。

言葉の遣い方を ていねいにする

さらに「自律的健康管理とはどういうものだと思いますか?」の問いに、「自己責任」、「その人が行動変容を自らやっていくこと」、「ちょっとしたヒントを基に、自分で考え、行動できること」という答え。

「では、ジリツ的健康管理の時のジリツは自律ですか?自立ですか?」「健康とはどういう状態のことですか?」「健康は、どうやったら評価できますか?」「健診で健康が測れますか?」と次々に質問が発せられ、それに答える受講者たち。さまざまな答えに竹田先生は、「自律的健康管理も健康に対する評価も、定義は人それぞれ違うと思いますが、そこを相談者とよく話し合って、言葉の遣い方をていねいにしていくことが大切だと思います」と話す。

ちなみに先生は、「自立」→生活が自立しているというように他人に寄生していない状態、「自律」→人の意見を自分の考えに取り入れながら上手にまわしている状態と考え、健康管理での「自律」の重要性を話した。
そして、言葉に対するちょっとした認識の違いが、大きな理解のズレにつながるということを警告していた。

主役はあくまで相談者

image保健指導といえば、受ける側はあれこれと耳に痛いことをいわれ、どうしても窮屈な思いがある。「はい、それでがんばってみます」といわなければいけないような雰囲気がある。指導者にすれば、相談者の行動変容を促そうと、あれこれとアプローチをしたり、頭ごなしにしかってみたり…。

しかしそれでは、竹田先生の提唱する『自律的健康管理』にほど遠い。
今回のテキスト(参考文献・参照)には、本来、人は自ら健康を維持していく能力をもっており、何らかの外的影響などで健康を損なったとしても、回復する能力を有するという言葉の意味をよく捉え、指導者は、この人間性への絶対的な信頼が必要であり、その力が促進されていくようにサポートしていくスキルが必要になると書かれている。

「健康指導の具体的アプローチは、個々の人によって違います。しかし、健康を損なう外的要因は相談者がコントロールできるものと信じ、それをサポートしていくのが、指導者の役割。他者からの評価を受けるために指導を受けるのではなく、指導を受け、自分でやっていこうという気持ちになり、やれるという自信を持って行動できるようになるのが、『自律的健康管理』です。
相談者の気持ちに沿い、たとえば、酒を楽しみたいという気持ちをつぶさず、長く酒を楽しむ方法を一緒に考えましょう、というスタンスがいいのではないでしょうか」と先生は言い、最後に下表の言葉で締めくくった。

セミナー終了後の参加者のアンケートでは、「自分の保健指導を客観的に見直す、いいきっかけになった」という声が多く寄せられていた。個室で行われる保健指導の難しさと、スキルアップに常に努力する参加者の気持ちが感じられる。

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