法人向けサービス
前のページへ戻るHOME > 法人向けサービス > 健康情報(法人向け) > かながわ健康支援セミナー > 禁煙する気のない方への支援スキル-脅かしでない動機づけの実際-
健康かながわ

禁煙する気のない方への支援スキル-脅かしでない動機づけの実際-

産業保健活動の向上を図ることを目的に行われている「かながわ健康支援セミナー」の第3回目が、10月22日に神奈川中小企業センタービルで開催された。新中川病院の加濃正人医師/臨床心理士が、「禁煙する気のない方への支援スキル―脅かしでない動機づけの実際―」をテーマに講演を行った。このセミナーは、神奈川県予防医学協会が事業所の健康管理担当者を対象に開催しているもので、今回のセミナーには48団体68人が参加した。

喫煙者の気持ちは、“禁煙したい"と“禁煙したくない"という相反する欲求の綱引き(両価性)で説明される。禁煙を働きかけるための動機づけとは、この綱引きのバランスを変えることが必要である。そこで動機づけに必要な依存症の知識と、具体的な面接の方法を学んだ。

image1.動機づけの必要性
タバコをやめると離脱症状は2~3日がピークで、その後は軽減される。その後も生起する喫煙衝動は、離脱症状だけでは説明できない。ニコチン依存には、身体の依存(離脱症状)と心の依存(認知の歪み)がある。身体の依存には、禁煙パッチや内服禁煙治療薬が効果を示しているが、心の依存には心理的な支援が必要である。両方の支援があると禁煙が容易である。

「認知の歪み」とは、ものごとのとらえ方に一定の偏りが生じることを指し、依存症においては、薬物摂取を優先する価値感の形成や、影響の過小評価が知られている。「禁煙が重要だと思えず、自信もない」という人が、いずれ「禁煙が重要で、自信もある」という状態になると、行動変容(禁煙)への準備段階に移行しやすくなる(図)。その過程で、「禁煙は重要だが、自信がない」という状態や「禁煙は重要ではないが、自信がある」という状態になることがある。

健診や健康支援の場で保健医療従事者が出会うのは、禁煙への「自信がある、なし」にかかわらず、「禁煙が重要ではない」と考えている喫煙者である。このような人に禁煙を働きかけるためには、重要度の認識を上昇させる手段が必要だということになる。

2.動機づけ面接法
動機づけ面接法とは、特定の行動変容に志向させる指示的要素と、相手の言葉に共感して傾聴する来談者中心の要素を併せ持った面接スタイルである。薬物依存・嗜癖行動・生活習慣病への効果が示されており、禁煙支援における効果が実証されている。
動機づけ面接法では、相手が間違ったことを言ったとき、その間違いを正したくなる「正したい反射」を利用する。
喫煙者に対して喫煙を継続する理由、禁煙した方がいいかもしれない理由を「開かれた質問(はい、いいえで答えられない質問)」で尋ねると、その発言の中に、「禁煙したいけれども禁煙したくない」という両価性を反映した矛盾が見いだされる。

支援者は、その矛盾を指摘して説得を試みるのではなく、好ましくない発言であっても是認し、矛盾に気づかぬポーカーフェイスで、相手の言葉やその意味を、喫煙者に伝え返したり要約したりする。そうすると、喫煙者には「正したい反射」が起こって、矛盾を建設的な方向へ解消する発言が起こる。その発言の多くが、禁煙の必要性、願望、禁煙しないことの懸念などであり、この言葉を自分で発することが、禁煙の動機に直結する。

動機づけ面接法において、この一連の手順は、「OARS(オール・舟の櫂)」という言葉で表現される。すなわち「Open Question(開かれた質問)」「Affirm(是認)」「Reflecting(聞き返し)」「Summarizing(要約)」の頭文字である。

OARS実施のポイントは、
・来談者より短く話す
・質問の中で開かれた質問が大半になるように
・1回の質問には2回以上聞き返しをする
・聞き返しは複雑な聞き返し(単なるオウム返しではなく意味内容や感情を反映した聞き返し)を半分以上に
・来談者の準備段階の先に行かないようになどである

3.何を動機づけるか
動機づけ面接法は、禁煙を直接容易にするための手段ではない。禁煙は、何段階もの両価性解決の集合体である。漠然とした禁煙への方向性を見いだせたのなら、次に「禁煙のための情報収集」「OTC禁煙補助薬使用」「禁煙外来予約」「リセット禁煙読書療法」など、個別の行動目標に向けて動機づけを行うことが好ましい。
講演の後半は、参加者が4~5人のグループにわかれて、動機づけ面接法の練習方法の一つである「バッティング練習」(来談者と支援者のやりとり)を行い、単純な聞き返しや、複雑な聞き返しを身につけた。

中央診療所のご案内集団検診センターのご案内