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健康かながわ

 
  第6回かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)が1月29日、神奈川県自動車整備振興会教育センターで開催された。「職場のメンタルヘルス対策~いまどきの若者に対応する」のテーマで筑波大学医学医療系産業精神医学・宇宙医学・笹原信一朗准教授が講演した。参加者は企業・団体の産業保健スタッフら131人(98団体)。

 

承認依存

今、豊かになった日本では若者は働かなくても生きていけるようになった、と笹原先生。親と同居し食べることには困らない若者は多い。
  アブラハム・マズロー(米・心理学者)が人間の欲望をピラミッドに例えた図(左)を用いて笹原先生は解説する。一番基本的な「生存」、そして「安定(安全・金銭)」、家族と同居していれば「所属欲求」も満たされている、というのだ。「引きこもっていても所属欲求までは満たされてしまうのです」と笹原先生。
  そうすると人間は次の欲求のレベル「承認」を求めてくる。最近、世間を騒がしたバカッター(バカなツイッターの造語)はその端的な事例。面白いからといって迷惑な行為をする自分の様子を写真撮影し、自らツイッターに晒してしまう人をバカッターとネット上では蔑称する。ファミリーレストランの店員が店の冷蔵庫に入った写真をツイッターに投稿、店舗はその迷惑行為で閉店となった事件はマスコミでも大きく報道された。
  ツイッターに自分のばかげた写真をあげ、どれだけ多くの人に見られているか(リツイート)が、承認となってしまう。自分のしている行為が危ういものであっても、その現実検討よりも承認の欲求が勝ってしまうバカッターは「承認依存」の典型であろう。
  ネット社会で育ってきた若者は「他者からの承認」を得られないと、もはや生きるに値しないと感じてしまう。○○大学に入学できない、○○会社に就職できないという挫折体験は彼らにとって存在価値の否定となってしまうのだ。
  就職活動をはじめてから「本気で死にたい」「消えたい」と思ったことがあるという学生が21%に上がった、という調査を笹原先生は示した。
  若者にとっての就労動機は「承認されるため」であって、中高年世代の「食べるため」とは違うのです、と笹原先生はいう。 

コミュ力偏重

若者の間では「空気が読めない人=KY」や「コミュニケーションに障害がある人=コミュ障」といったコミュニケーションに関わる流行語が生まれてきた。
  小中学校でも、コミュニケーションがうまくて友達がたくさんいる子が上で、コミュニケーション下手な子は下という「スクールカースト」と呼ばれる現象が拡がっている。
  企業が新入社員を採用する時に重視するのがコミュニケーション能力。もちろんビジネスの現場でも必須の能力であることは間違いないが、社会が過剰にコミュニケーション能力を求める、その同調圧力に苦しんでいる若者も多い。
  「便所飯」とは、1人で食事をしていると友達がいないと思われるため、トイレで弁当を食べる学生をさしていう。中高年以上には理解しがたい行動かもしれない。

変化への不信

若者には自分の「変わらなさ」への確信がある。客観的には変化や成長をとげているのに、主観的にそれを実感することができない。今の自分に備わっている能力や性格はこれからも変わらない、今できないことは将来もできないという思いこみがあり、未来に希望を持てない若者が増加している、と笹原先生はいう。
  承認依存・コミュ力偏重・変化への不信、これらが意味しているのは「実存の危機」。「若者には社会から必要とされている・認められているという実感がないのです」と笹原先生は解説する。
  大ヒット映画「アナと雪の女王」のテーマソングで歌われたのが「ありのままで」。「このままでいいんだよ」というメッセージが実存の危機状態の若者の心に刺さったゆえのヒットだったのでは、と笹原先生は分析する。
 

支援のポイント

そういった若者への支援のポイントは最初に信頼関係の構築、これは相手の存在そのものを認めるということ。
ただし、なんでもOKということではなく、一般社会の枠組を提示し、個別の状況に即した具体的な指示をしていくことが大切になってくる。
気をつけたいのが承認欲求が高く、自分は変われないと思っている相手の心を傷つけないこと。下図は新社会人に調査した「やる気を奪う先輩社会人からのセリフ」。信頼関係がない先輩・上司からのこれらのセリフに耐えられない若手社員は多い。





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