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健康かながわ

 
 

第3回かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)が10月14日、神奈川県自動車整備振興会内で開催された。国立国際医療研究センター・国際医療協力局の和田耕治先生(写真)、「もう一度考える職場の感染予防策~エビデンスと現実~」がテーマの講演に79人(58団体)の産業保健関係者が参加した。 

求められるのは個人と組織の行動変容

「職場でインフルエンザをはじめとする感染症を防ぐには、個人と組織の行動変容が必要です」と和田先生。一人ひとりの健康意識を高め予防行動を促すとともに、発熱や嘔吐などの症状があれば速やかに休める職場の体制づくりを行っていきたい。
 冬場は町中で飛沫感染の予防を期待してマスクの着用をしている人を多く見かける。労働者世代を対象にした調査では「流行期に公共の場でマスクをする」と40%が回答した。こうした人達は手洗いや、ワクチン接種なども「マスクをしない」と回答した人より積極的に行っていた。このように健康意識を高め、行動にまで移せるように個人への情報提供はもちろんのこと、組織としても文化として予防策を浸透させたい。
 インフルエンザのワクチン接種の現状を見てみると、20歳から69歳までの男女を対象にした調査では、接種したのは4~5人に1人という結果に留まった。接種しなかった人に理由を聞くと、働く世代は「医療機関に行く時間がない」が第1位に。60歳代になると、これまで感染経験がないから、今後も「自分はインフルエンザに感染しないと思う」という回答が増えている。  

行動を変えない背景を知る

人の行動を変えるには、行動を変えない理由に着眼し、それに合ったアプローチが望ましい。一方で、昨年ワクチン接種をした人は、翌年も接種する傾向にあり、ワクチン接種においても、習慣付けされるという側面も見えてきた。
 また、行動を変えない背景には、「ワクチンは本当に意味があるのか」という、ワクチンに対する不信感が存在することも知っておきたい。働く世代を対象にした調査で、「政府のワクチン推奨に不信感がある」と回答した人は約30%。「不信感がある」と答えた人は、医療従事者からの情報に比べ、友だち、インターネット、本の情報を信じている人が多い。氾濫する情報に惑わされている人には、正しい情報を発信し不信感を払拭しない限り行動変容は難しい。
 次に注目したいのが、風疹ワクチン接種の傾向だ。2013年に働く世代に風疹の流行があり、風疹ワクチンや抗体検査について助成されたこともまだ記憶に新しい。そうした状況においてワクチン接種、または抗体検査をしたと回答した人は妊娠希望がある女性で24%、そうでない場合には7%であった。また、風疹が流行しているということや、妊娠中に先天性風疹症候群のリスクが高まるといった情報を知っていても、ワクチン接種や抗体検査という「行動」にはつながっていなかった。
 風疹ワクチン接種や抗体検査をした人の動機を調べてみると、「風疹ワクチンを接種した知り合いがいる」からという回答が大きく影響していたことがわかった。信頼できる身近な人からの情報や、著名人がSNSで発信する「予防接種を受けた」というコメントなどに背中を押されているようだ。こうした多用なチャネルを活用し、より望ましい健康行動へと導いていくことを常に手段として考えたい。

不安や偏見の払拭も重要

 感染予防策を考える時、ハンセン病しかり、感染症の歴史は差別と偏見の歴史であることを忘れてはならない。現代においても日常生活では感染しないと頭で理解しているのに、「一緒に仕事をしている人がHIVや肝炎ウイルスに感染していたら、自分も感染するのではと不安に思う」という人が約30%もいることを認識しておきたい。また、「同性愛者、不特定多数との性交渉者、薬物中毒者でないか」という偏見も存在する。
 こうした不安や偏見と関連した社会的要因はなんと「年齢」だ。HIVの場合、1980年代に起こったHIVパニックを経験し、誤った情報をすりこまれたであろう60歳代に不安と偏見がいまだに強い。看護師への調査では、「HIV感染者を担当したくない」という意見が約40%を占め、50歳代以上にもっとも目立つ。また、B型肝炎は、20歳代に偏見が多いのが特徴。これは、性交渉による感染が若い世代に増えていることが一因の可能性がある。
 感染予防策は、とかく感染者を排除するようなことが含まれているが、無用な
不安や偏見につなげない、また現在ある不当な偏見をなくす職場教育を含めて考えていく必要がある。12月1日は世界エイズデー、7月28日は世界肝炎デーである。「こうした機会を利用して、職場においてHIVや肝炎などの偏見がないように教育することが産業保健職に期待されている」と和田先生はいう。


 




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