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健康かながわ

  第7回かながわ健康支援セミナー(主催・当協会)が、2月21日に神奈川県自動車整備振興会館教育センターで開催された。今回のテーマは、近年職場で対応が急がれている「大人の発達障害」。北里大学医学部精神科学講師であり、相模原市寄附講座「地域児童精神科医療学」特任講師の井上勝夫氏を迎え、「産業保健に役立つ大人の発達障害の理解と対応」について講演していただいた。当日は71団体87人の参加があった。

発達障害の正しい理解を

発達障害という言葉の認知度は高まったものの誤解されている部分は多く、まずは発達障害とは何かを正しく知ってほしいと井上講師はいう。「発達障害は病名ではなく、知的障害、学習障害、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症など(表1)を総括する言葉です。精神疾患全般を発達障害と捉える風潮に流されてしまうと、さらに誤解を生んでしまいます」と警鐘を鳴らす。
 大人の発達障害は、子どもの頃から症状はあるが周囲に気づかれず、もしくは取り上げられない程度の目立ちにくい症状や特性だった場合が多い。大人になって目を向けられるようになったとすれば、その背景には職場での対人調整や作業内容の複雑化、結婚などにより相手との距離が近くなったことなど、本人のキャパシティーを超える何かがあると考えられる。
 状況を改善するには、専門医の診断を仰ぐことが最良の選択とは限らず、「保健師を相談役に立てたら職場への復帰率が上がった精神保健活動もありました。医師の診断より、状況に沿ったアドバイスが有効な場合もあるのです」と実例を語った。

職場のユニバーサルデザインを目指して

次に障害別の基本的な対応策を覚えておこう。知的障害の場合、本人の努力が報われる環境を整えることが大切。生真面目な人が多く、要求される水準が高いと疲弊するため、80%の達成でよしとする。学習障害は障害領域を補う代替え手段を利用し、自閉スペクトラム症なら混乱が生じにくい環境整備を活用すること。また注意欠如・多動症の場合、薬物療法の開始と終了時期の判断が重要である。併せて、不注意症状を補うために書類整理用の色分けボックスをつくるなど、物理的な工夫を検討したい。
 では、発達障害の従業員に対して産業保健スタッフはどう向き合えばいいのか。「発達障害の人は伝える力が拙いという前提のもと、本人が抱える困りごとを丁寧にヒアリングしましょう。その際、産業保健スタッフの解釈は入れず、具体的な事実のみを記録することです」と講師。そして発達障害の可能性が疑われる場合は、面談したスタッフが1人で抱え込まずに複数の人で相談し、現場レベルの工夫で対応可能か、専門医の診断が役立つかを検討する。「早まった判断や偏見は禁物」と釘を刺した。
 また人事労務担当者は、機械的な人事異動ではなく、適材適所の発想で本人と周りがストレスなく働ける対応を目指したい。働きやすい環境作りにおいては、職場のユニバーサルデザイン(障害・能力の差異を問わずに利用することのできる施設・製品・情報の設計)を提案。発達障害の知見を通して職場環境を整備すると、ほかの職員も働きやすくなるという。なお、注意欠如・多動症と自閉スペクトラム症などは過剰診断のリスクが高い。そのため医師に診断書を求めるのか、診断書は求めず職場で配慮して対応するのか、よく話し合って進めることが大切であるという。
 
 最後は、「大人の発達障害は、診断技能が未発達なまま法律ができ、過剰に話題になっている状況です。この望ましくない状況に会社組織が巻き込まれないようにしてほしい」と結んだ。
講演の後半は質問タイムにあてられた。ここでは質疑応答をいくつか以下にご紹介する。

Q&A 質疑応答

Q 月の3~4割は遅刻する職員に対して、上司は休職を望んでいます。自己評価と周囲の評価に開きがある場合はどうしたらいいですか。
A 遅刻の記録を付けて一定回数を超えたら減給などの常識的なペナルティを課し、本人の意識改革を促してみましょう。

Q 保健師をしていますが、相談を受けても本人に見合う職場を用意することは難しいのが現状。保健師に何ができるでしょうか。
A 自宅での生活状況も聞いて本人のできることを探りましょう。試行錯誤するからこそ発見があるという前向きな意識で取り組み、職場のユニバーサルを目指してください。

Q 面談の際に話を引き出すコツはありますか。
A 「休日は何をしていますか」など答えやすい質問を投げかけ、話しやすい環境を作ってから本題へ。困りごとは誰でも抱えているという前提で話を振り、悩みを聞き出してください。

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