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前のページへ戻るHOME > 法人向けサービス > 健康情報(法人向け) > かながわ健康支援セミナー>「勇気づけ」保健指導―支援者のココロも軽くなるアドラー流面談技法―
 
健康かながわ  

「有所見者なのに保健指導に応じてもらえない」「いくら指導しても、行動に移してもらえない」など、行政や企業の保健指導の現場では保健医療関係者の悩みは尽きない。10月17日に横浜情報文化センターで行われた「第4回かながわ健康支援セミナー」では、講師にヒューマンハピネス(株)の上谷実礼代表取締役を迎え、相談者の行動変容を効果的に促す保健指導のあり方を、アドラー心理学の手法から視点を変えて考えた。当日は73団体84人が参加。

相談者の仲間として

講師の上谷実礼先生は医学博士。千葉大学で講師を務めながら、産業医、労働衛生コンサルタントとして保健指導をしていく中で、アドラー心理学と巡り会った。「ここでは、アドラーの考え方を保健指導や支援者のメンタルケアにどうつなげていくかを紹介します」と先生。
 講演は「アドラー心理学の人間知」「よいコミュニケーションとは」「自分を勇気づける」の3本の柱で構成された。
 冒頭「アドラー心理学の人間知」では、アドラー心理学の思想や理論に触れた。アドラー心理学の理論は5つの基本前提としてまとめられている。
 人間は主体的に行動を選択している。生育環境や過去の出来事を受け入れながらも、自分がどのような態度で生きていくかを主体的に決められる「個人の主体性」。
 人間は何らかの原因に背中を押されるように生きているのではなく、自ら目的を設定し、その目的に合うように言動を選択しているとする「目的論」。
 人間を心と体、理性と感情などの部分に分けて考えるのではなく、全体としての個人が目的を達成すべく人生を歩んでいくと考える「全体論」。
 個人は社会に組み込まれた存在であり、その人を理解し、問題解決するには社会の中での個人の言動を見ていく「社会統合論」。
 人間は周りの事象を自分の価値観で解釈し、自分の見たいように世界を見ている「仮想論」。
 そして、究極的な目標として「所属」を求めると考える。所属とは、自分には居場所があり、他者は仲間である、自分は必要とされている、と感じることである。
 アドラー心理学の人間知に照らすと、相談者が自分の健康課題に向き合わないのは勇気がくじかれているからだと考えられる。したがって、支援者が相談者を勇気づける関わりが重要となってくる。勇気づけとは「自分には居場所があり、他者は仲間である、自分には能力があると感じられるように関わること」である。

よいコミュニケーションのあり方とやり方

アドラー流面談技法の特色は「勇気づけ」の保健指導である。「あなたの健康のために○○をすることを勧めます」というような、医学的な知見による保健指導の一方的なアドバイスとは異なる。そして相談者の行動変容を起こすことを直接的なゴールとして目指さない。相談者との間によい関係をつくり、相談者を勇気づける関わりをした結果として行動変容が起こってくることを期待する。
 その前提となるのは、相談者と支援者の「よいコミュニケーション」だ。よいコミュニケーションはあり方とやり方で構成されている(図1)。
 あり方として、アドラー心理学では横の関係をつくることを提案する。他者を支配しよう、コントロールしようという縦の人間関係では当然、相談者は自分の居場所を感じられず、支援者への信頼や共感は得られない。反対に、相互尊敬、相互信頼、共感に裏打ちされた協力的な横の関係をつくることで相談者は勇気づけられ、支援者は相談者の仲間であり、自分には居場所があると感じられるようになる。基本的には、保健指導の内容は相談者の課題である。他人の課題に土足で踏み込まないという「課題の分離」の姿勢を持った上で、「あなたと私の共同の課題としてお手伝いさせていただけますか?」と問い掛ける「共同の課題にする」というプロセスも相談者を勇気づける横の関係の重要な要素である。
 よいコミュニケーションのやり方としては、感謝を伝える、聴き上手になる、失敗を受け入れる、結果よりもプロセスに注目する、あたり前のことやすでにできていることに注目する、アイ(私)・メッセージで伝える、短所ではなく長所に焦点をあてるなどの勇気づけの技法が紹介された。性格的な短所は視点を変えるとすべて長所としてとらえることができる(表1)。

まずは自分を勇気づける

アドラーは「自らが勇気を持つということが、他者を勇気づける出発点である」という言葉を残している。「相談者とのよい関係を作るにはまず、支援者が自分自身と仲良くなることが大切」と上谷先生は説く。自分自身に対しても、自分の中に居場所をつくれるような、今の自分のままでOKを出せるような協力的な横の関係をつくること、すなわち自己受容が相談者とよい関係をつくることにつながる。
 自己受容のために、「自分に対して勇気をくじく負の注目をするのではなく、「正の注目をする」「自分に対するハードルを下げる」「いつも頑張っている自分をねぎらう」などが提案され、セミナーは終了した。
 多くの保健担当者が悩む保健指導も、支援者自身のあり方を整え、勇気づけの技法を身につけていくことに課題を打開するための糸口があるようだ。。

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