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健康かながわ

本年度の第3回「かながわ健康支援セミナー」が10月2日に神奈川中小企業センタービルで開催された。精神科において万病の元といわれる発達障害は、思春期を過ぎるとうつやパニック発作、依存症などさまざまな二次障害を発症する。そこで初めて自分は発達障害だったと気づく人も多く、治療が難しいため引きこもりなどになるケースも多い。麻布大学生命・環境科学部臨床検査技術学科の岩橋和彦教授(写真)が、大人の発達障害について対応や支援方法も含めて講演した。産業保健スタッフを中心に78団体95人が参加。

かくれ発達障害の増加

 2005年に発達障害者支援法が制定され、2008年には国公立大学の特別支援教育や入試センター試験において別室で受験できる特別措置などによって、日本でも特殊な才能を持つ人を引きこもらせないで活躍させようという風潮や制度が生まれてきている。
 軽度も含め日本での発達障害の出現率は10%を超えているといわれ、問題は、思春期以降にうつや依存症、神経症、人格障害などの二次障害を発症しやすい点だ。「素肌」は発達障害で、その上にさまざまな二次障害を「重ね着」する。この治療は難しく、引きこもりなどに移行しやすい。

 例えば学歴は高く独創性もあるが、発達障害であることに気づかず、コミュニケーション能力や協調性に欠けるため、社会適応力が低いとみなされて就労できない、あるいはできても長続きしないといった「かくれ発達障害」が増えている。

多種多様な発達障害

 ひとことで発達障害といっても症状は個別的で家庭環境などによっても多種多様である。歴史上では政治、経済、科学、文化、スポーツなどあらゆる分野で傑出した人物が、実は発達障害であったといわれるケースは少なくない。「障害」ではなく「アンバランス」という考え方が正しいかもしれない(図1)。

 発達障害の1つであるアスペルガー症候群(ASD)は、「空気が読めない」「人の気持ちやいいたいことがわからない」「こだわりが強い」「思ったことを遠慮なくいう」といった傾向があり、本人に悪意はないが周囲を怒らせ、居場所がなくなり、引きこもるケースが少なくない。またADHD(注意欠陥多動障害/注意欠如・多動性障害)は、忘れ物が多くぼんやりしている「不注意優勢型」、落ち着きがなくキレやすい「多動・衝動性優勢型」、そして両方をもつ「混合型」に分けられる。子どもの頃にADHDであれば思春期以降も80%が症状を持続するという報告があり、大人ADHDに伴う症状は「集中できない」「思いつきで行動する」「打たれ弱い」「劣等感が強い」「依存症になりやすい」などがある。

思春期以降の二次障害


 発達障害は学童期に目立った症状が出る場合と、思春期以降に不登校、うつ、引きこもり、拒食など二次障害が出て、初めて「かくれ発達障害」であることに気づく場合がある(図2)。精神科において発達障害は万病の元とされ、思春期以降に80%以上が気分障害、40%以上が依存症、さらに不安障害、パニック障害などの神経症を重ね着することが多い。

 またPTSD、人格障害、自傷行為、睡眠障害発症のリスクも高い。これらの症状は、できるだけ早く気づくことが肝心だ。なぜなら受診して病名がわかることで、当人が今まで感じていた生きづらさは、発達障害の影響であったと理解、納得できるからだ。ではその治療法だが、発達障害のうつや引きこもりの治療については、薬だけでは治らないと考えるべきだ。一般的なうつの場合は静養と薬だが、発達障害の二次障害の場合は当てはまらない。基本的には早寝早起き、規則正しい生活が肝心で、生活習慣を正す処方として、例えば朝は精神刺激薬、夕方に抗精神病薬、夜に眠くなる抗うつ薬で、昼間は元気に過ごし夜はぐっすり眠るようにする。そして適度に太陽を浴び、身体を動かして汗をかくことも必要だ。

 長期の引きこもりへの対応はまず親が家族相談を受け、現実を許容し、居心地良く接することで安心してコミュニケーションがとれる環境づくりが必要だ。プライドを傷つけないように医療機関への受診を勧めるのも、1日や2日でできるわけではなく、根気よく続けなければならない。無理やり強要するのは逆効果になる。受診に行けるようになったら、うつと同様に昼型の規則正しい生活リズムを取り戻すようサポートし、向精神薬も補助的に使用する。
 生活習慣の改善と同時に精神科デイケア・ナイトケアへ通うことも有効だ。ソーシャルスキル・トレーニングや音楽療法、芸術療法、運動療法などを活用しながらコミュニケーション能力の向上を図り、就学や社会復帰の援助を行うことができる。

 また復職の場合、家庭内のみならず、職場の環境整備も必要だ。例えば上司はほめて伸ばすタイプ、穏やかできつい叱り方をせず、図や表を用いて視覚から訴えるようなわかりやすい教育的指導ができる人が理想だ。また発達障害を受け入れてくれる部署に配置換えし、信用できる同僚に打ち明けて理解してもらうことでストレスを感じずに仕事に復帰することができる。ぜひ周囲のサポート体制を作ってほしい。

最後に、精神科の医師として大切にしていることとし「精神科医療とは、科学的な検査データ解析や無機質な情報開示より、患者や家族の話に耳を傾け病気に対する畏れ、将来に対する不安を取り除き、病気と自分に向き合う勇気を与えることだと思う。仏教用語の『施無畏(せむい)』、苦しみを救い無畏を施す。皆さんにこの姿勢と考え方をぜひ理解していただきたい」と岩橋教授は結んだ。

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