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戦略的健康プログラムの勧め─米国の成功事例─

健康へ積極的投資

為替、各種債務、災害、労務問題など、企業が経営上監視すべきリスクファクターは数多い。近年このリストに従業員の医療コストという新たなファクターが加わった。96年度で見ると、1,800の健康保険組合のうち71%が赤字で、赤字総額の累計は2,000億円にも及ぶ。患者の自己負担率の増大でここ数年は一息つけるが、中期的に見れば一時しのぎでしかない。このままでは、企業にとっても従業員にとっても医療費負担は拡大の一途であり、早急に何らかの手を打つ必要がある。

では経営者は健保リスクを回避するために何をすればよいのか。ここでは米国での先進事例を基に「戦略的健康プログラム」の導入を提案したい。これは健康な人へ積極的に投資することによって医療費を低減させるものである。

米国では近年、各種の健康維持増進プログラムが活発に導入されている。個々の企業、または企業から委託を受けた外部業者が、従業員の健康リスクの評価、健康維持を動機づけるためのスポーツ・イベント、禁煙・体重コントロールプログラムなどを展開する。従業員はこれらのアドバイスに基づき運動をする、タバコを止めるなど、自身の行動・生活を改善し、健康増進に励むことになる。その結果、自分の健康状態を維持・改善できるだけでなく、医療コストの一部が還元されるという金銭的なメリットも享受している。このように生活者のクオリティ・オブ・ライフの向上と、総医療費の低減の両立を狙ったものが「戦略的健康プログラム」である。

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2. 「米国における戦略的健康プログラム成功の鍵」

日本でも企業や健保組合が健康増進を組合員に呼びかけるなど、一見似たことを行っているかに見える。しかし、米国型のプログラムは、そのアプローチにおいて3つの点でより優れている。

1) 投入コストに対するリターンが明確である

米国のプログラムでは、かけたコストに対する医療費低減額を厳密に把握している。そして、メリットの大きい分野に集中的に投資している。投資に対する医療費低減効果として、妊婦の禁煙プログラムで約6倍、健康啓蒙プログラムで約6倍という実績が報告されている。ある保険プログラムでは、老人がプログラムに加入した場合、看護婦と住宅修理工が老人宅を訪れ、廊下に滑り止めの工事をしたり浴槽に手すりを付けるなど、家の中で怪我をしそうなところを無償で直してしまう。家の中で転んで怪我をして掛かる医療費より、原因を前もって修理してしまうほうが、全体として見た時にコスト効率がずっと良いからだ。 米国のプログラムでは、かけたコストに対する医療費低減額を厳密に把握している。そして、メリットの大きい分野に集中的に投資している。投資に対する医療費低減効果として、妊婦の禁煙プログラムで約6倍、健康啓蒙プログラムで約6倍という実績が報告されている。ある保険プログラムでは、老人がプログラムに加入した場合、看護婦と住宅修理工が老人宅を訪れ、廊下に滑り止めの工事をしたり浴槽に手すりを付けるなど、家の中で怪我をしそうなところを無償で直してしまう。家の中で転んで怪我をして掛かる医療費より、原因を前もって修理してしまうほうが、全体として見た時にコスト効率がずっと良いからだ。

2) 発病リスクを科学的に予測する
2番目の特徴は、プログラム自体が分析的・科学的に設計されている点にある。例えば疾病予防を行う場合、糖尿病であれば、患者の過去の生活パターン、各種検査結果の値などを100以上の変数で統計的に調査・分析する。すると「この3つの条件に当てはまる人は数年内に80%の確率で糖尿病に罹るリスクがある」ということが分かる。そこで、まだ糖尿病に罹ってないプログラム会員の現在の生活・健康レベルを調査し、その会員が糖尿病のハイリスク・セグメントか否かを判別し、個々人の状態に応じた食生活の改善、あるいは体重のコントロールなどのプログラムを提示する。糖尿病予備軍が糖尿病になることを防げる、というわけだ。診療件数全体の8割が予防可能な疾病だという調査がある。病気になっていない健康人のリスクファクターを抑えることによって、医療費を大幅に削減できる可能性がある。

3) 健康への正しい行動を動機づけるしくみ・システムを埋め込む
本人が健康維持増進に対し正しい行動をとるようインセンティブ、あるいは努力しない人にはディスインセンティブを与える、という点が3つ目の特徴である。例えば「過去2年間にフルマラソンを走ったことがある」「禁煙をした」など、あるターゲットを達成した従業員には保険料を割引く保健プログラムがある。逆に、疾病予備軍であるにも関わらずリスク回避の努力をしない従業員には、保険料を割増しすることもある。このような、従業員が健康に気を遣って正しい行動をとるように誘導するプログラムを、米国では大企業の約半数がすでに採り入れている。

3.「民間主導でのプログラム導入が可能性を拓く」

日本においても企業・各健保組合といった民間サイドが中心となり「戦略的健康プログラム」を導入していくべきであろう。その際、欧米のシステムをそのまま導入することはできないが、その経験を日本に適合する形に変え、取り込んでいくことは十分可能である。事実、米国のアプローチと似た形で従業員に対し、健康維持・増進に対するサポートや動機付けを戦略的に展開し始めた企業が日本においても出てきている。

ある日本の自動車メーカーでは、製造ラインに携わる従業員に毎月血液検査を行い、問題のあった従業員は生産ラインに立たせないという制度を設けている。健康上の問題が自分の査定や給与に影響を与えることになり、健康への意識は否が応でも高まっていく。日本では、健康状態により健保料率を変えるということはできないが、こうした間接的な形での健康への動機付けは可能である。

また、「戦略的健康プログラム」は企業にとって、新たな有望事業分野となる可能性を秘めている。従業員の健康リスクの評価や高リスク者に対する集中教育、生活習慣の改善に向けたインセンティブの付与などといった、サービスを外販する訳である。日本の健康維持・増進マーケットの市場規模は、スポーツクラブ、人間ドックなどを中心に約1.6兆円である。これに対し、現在国民医療費は約17倍の27兆円で、この1:17という予防と治療のコスト比率は、諸外国と比較すると治療サイドに大きく傾針している。我々の試算では、ヘルスケアコストが最も有効に活用されるのは、予防によって治療コストを減らし、予防と治療のコストバランスが1:3になった場合である。その際の健康維持・増進マーケットの市場規模は約8兆円になると考えられる。非常にマクロに捉えれば、健康維持・増進に関して約6兆円の新市場が生まれる可能性があるということだ。ここでいち早く「日本戦略的健康プログラム」を構築した企業は、そのノウハウを活かして外部にもサービスを提供し、この6兆円市場に新事業を立ち上げるというシナリオを描くことも可能となる。

(健康かながわ1998年5月号)
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