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結核-43年ぶりに罹患率が増加、集団感染をストップ

結核が再燃している

帝京大学病院(東京・板橋区)では昨年夏から肺結核の疑いのあった医師が今年一月まで約半年間診療を続け、看護婦ら三十六人が集団感染したことが判明。さらに埼玉県大宮市の市立中学では男性教諭から生徒、同僚の教諭ら百人に感染した疑いがあることも報道されている。

さて、なぜいま結核なのだろう。事実、平成九年の全結核新登録患者数は、四万二千七百十五人(前年比二百四十三人増)で、昭和三十四年以来三十八年ぶりに前年を上回っている。また罹患率は人ロ十万対33.9で(前年比0.2増)、昭和二十九年以来四十三年ぶりに前年を上回った。死亡者は二七四二人であった。
結核の増加について大きな原因が二つ推測されている。ひとつは高齢患者の増加だ。若い頃に結核に感染し免疫ができていた人が加齢により体力が衰えたり、糖尿病などで抵抗力が弱まり発病するパターンが増加している。昨年七月、新潟県の特別養護老人ホームで、二年間で入所者と職員二十七人が感染、うち十四人が死亡したケースでは死亡者のうち十一人は他の病気を併発していた。

それともうひとつの原因が若年層が結核菌に未感染であるということ。過去、結核が「国民病」といわれていた時代には知らないうちに結核菌に感染し免疫のできていた人が多かった。つまりほとんどの人が自然感染していたのである。正常な人では結核菌が体内に入っても免疫機構により菌は封じ込められ80~90%の人は発病しない。

しかし現在では中年以下の人は、結核菌に感染していない人が大多数。1950年代では二十歳代では50%が自然感染していたが最近では2%のみである、という報告もある。

こういった免疫のない若年者の集団のなかに発病者がいた場合に「集団感染」が引き起こされる。過去五年間に十九件発生している病院での院内集団感染では若い医療従事者の大部分が未感染であることが医療従事者の結核に対する関心の低下とあわせ要因のひとつにあげられている。

集団感染はここ近年増加しており(表)、昨年報告された四十四件のうち最も多かったのは学校であった。なお神奈川県では平成六年から今年の七月現在までで集団感染の事例は三件である。

このように日本では今、結核菌に感染している高齢者と、それより若い未感染の世代との二極化が心配されている。

緊急事態宣言

厚生省は七月二十六日「結核の非常事態宣言」を発表した。宣言では結核に対する認識の甘さを指摘。結核は過去の病気ではない、と警鐘を鳴らし、自治体、病院、老人施設といった各関係団体へ施設内感染の予防などを要請。一般国民に向けても健康診断の積極的受診と咳が続くような場合には早期の医療機関の受診を呼びかけている。

そして発表が行われた同日午後には都道府県、政令市、特別区の結核対策担当課長を召集。自治体レベルでの連絡協議会を組織し情報交換を密にするように要請した。

また厚生省では国立病院・療養所の再編成をすすめる。がん、循環器病など十九の疾病分野別に各病院をネットワーク化し、専門分野をはっきりとさせ高度な医療を目指すもの。結核を含む呼吸器疾患については国立療養所近畿中央病院(大阪府堺市)を高度専門医療施設として全国の国立病院・療養所の中核とする。ここでは複数の治療薬に耐性があり治療が難しく死亡率も高い「多剤耐性結核」の診断法・治療法の開発や研究を行い、情報発信を行う。

いま何ができるのか

すでにWHOでは1993年に結核の非常事態宣言を発表している。「今すぐに手をうたなければ今後十年間に三千万人の死亡が予想され、単一病原体として最大の死因である」という。欧米諸国に比べると日本の結核の状況は悪い。(図)罹患率では1960年代のオランダに匹敵している。

いま結核に対してわれわれがとるべき手段は何なのだろうか。当協会呼吸器専門医・松崎稔医師に話を聞いた。
「結核は排菌している患者の咳やくしゃみにのって空中に排出される結核菌を吸い込むことによって感染します。感染や発病を防ぐには、排菌している患者に接触しないことですが、それより前に排菌するほど病状が進まないうちに患者を発見し治療することが重要。早期発見・治療すれば他人にうつす恐れは急速に消滅します。

結核が発病すると咳や発熱、倦怠感などカゼと煮た症状が続きます。このような症状が長く続く時は、「カゼだろう」とかたづけないで「結核かもしれない」と疑って受診すること。また無症状であることも少なくないので定期検診(胸部X線撮影)を必ず受診することは大切です。

今までの集団感染の事例でみると、感染源とみられる患者は発見に遅れがあり、この間に病気自体が進行し、周囲への感染も拡がってしまっています。本人の健康意識の低さもありますが、このとき医療側にも不当な「結核離れ」があり、診断の遅れにつながっていると指摘されています。同じことが学校や事業場での対応の遅れについてもいえます。
排菌している患者に接触した人がいたら、その人を検診(ツベルクリン反応)して、感染していたら予防投薬をして発病を防ぐことが大切。学校や事業場では事態を速やかに察知して保健所に連絡し、保健所による調査・検診に協力するなど関係機関との連携を図り、体系的な対応が求められます。」

(健康かながわ1999年8月号)
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