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乳がん検診の評価と今後の課題

乳がん検診のターニングポイント

乳がん検診にとって平成十年は大きなターニング・ポイントだったと私は認識しています。その理由として一つには老人保健事業のがん検診経費が一般財源化になったこと。二つ目が「視触診による乳がん検診の有効性を示す根拠は必ずしも十分ではない」という「がん検診の有効性評価に関する研究班」(久道班)から報告がなされたこと。これは全く有効性がないという報告ではなく、「生存率の比較による研究において無症状の場合は死亡リスク低減効果が認められる」ということがあり、「無症状の場合」ということが重要なこととなってきます。三つ目には厚生省の大内班並びに日本乳癌検診学会から「マンモグラフィ併用検診のガイドライン」が出されたことです。この三つの大きな流れが十年度にありました。

さらに最新の動向として今年七月二日、厚生省の「高齢者保健事業の在り方に関する専門委員会報告」があり、報告書の健康診査等の項目で「乳がん検診については、マンモグラフィ併用方式の漸次導入を、他のがん検診については、現行の手法による取組みを引き続き推進することを推奨」とあり、厚生省として、公式にマンモグラフィ導入を推奨することになりました。また七月二十九日には全国老人保健担当者会議が開催され、前述の報告の概要と同時に東北大学の大内憲明先生が講演し、「マンモグラフィによる乳がん検診の手引き:精度管理マニュアル」が各都道府県に二冊配布されています。

罹患率が第一位に

もう一つ最新の情報として医学ジャーナル誌上で、一九九四年に女性では乳がんの罹患率が第一位になったことが発表されました。
乳がんはこのように罹患率は高いのですが、死亡率は第五位で、治る可能性の高い疾患です。また年齢別罹患率をみると、四十歳代後半から五十歳代にかけピークを迎えています。この社会的に有用な年齢層が多く罹患する疾患なのです。こうした意味からも検診を実施していく必要があるといえます。

今回、平成九年度の横浜市における乳がん検診についてまとめる機会がありました。横浜市のがん発見率は0・一二%、全国平均の0・0九%より高い発見率となっています。受診者の割合は初診者が二0%、再診者は八0%。これらのデータを経年的にみるといわゆる「繰り返し受診者」が増加し、それらの方々は高年齢化してがん発見も高齢者へと移行してきてきています。もちろん検診を繰り返し受けていただくことは重要なことです。しかし四十歳代からの初診者の掘り起こしが、社会的・経済的側面からも必要なことだと思います。

視触診も有効

次にこれまでの視触診による乳がん検診は意味がなかったか、という問題を考えてみたいと思います。 
愛知県がんセンターの黒石哲生先生の研究に、乳がん検診のカバー率が高率地域と対照地域を比較し、乳がん年齢調整死亡率とその変化率を比較したものがあります(表2)。表2のように乳がん検診のカバー率が三五%以上と高い地域は、全年齢でみると二七・五%死亡率が下がり(対照地域は二・九%減)、三十歳から六十九歳に限ってみると三九・二%死亡率が下がる(対照地域は六・七%減)という結果が出ております。

市町村単位で考えた場合、保健婦やがん検診関係者が様々な努力をして受診率が高い市町村では、従来の視触診による検診でも十分有効性を発揮しているといえます。

視触診とマンモ併用検診

このように視触診による乳がん検診は、ある程度有効であるということもできます。しかし、もう少し救命効果をもたらし、早期発見を高めるためにマンモグラフィという方法を導入しようというのが今回の動きだといえます。

世界各国で行われているマンモグラフィによる乳がん検診の研究をみると、五十歳以上では死亡リスク低減が科学的に証明されています。四十歳代になると救命効果の傾向はみられるが、科学的には証明されているとはいえないとされました。しかし最近、機器の進歩により欧米では四十歳代でも救命効果があるという報告がなされ始めました。

日本でも大内先生たちが宮城県で実施した、視触診とマンモグラフィ併用検診と、視触診単独検診を比較した研究があります。表3のように併用検診での発見率は0・三一%、視触診単独では0・0八%という結果になっています。しかも併用検診からの早期がんは七三%になるという結果も出ています。

以上のようなことから私たちは、〔1〕四十歳代は、年一回の視触診による検診〔2〕五十歳以上は、二年に一回のマンモグラフィと視触診による検診を行うことを提案し、表1のようなガイドラインを作成しました。

これからの課題

マンモグラフィ併用検診を行うためには、〔1〕最高の画質の写真〔2〕見落とし、拾いすぎがないような読影能力〔3〕所見の共通概念と記載、という条件があげられます。現在、学会では「精度管理中央委員会」を組織して検討を行い、読影医の教育システムの確立も進めています。

このように併用検診のこれからの問題として、一つには読影医の確保、放射線技師の養成と診断や技術レベルの評価。次に機器や施設の認定評価の問題。そして高い水準の精度管理システムを確立していく必要性があります。また実施方法としては同一施設(場所)でマンモグラフィを先にとって、その写真を見ながら視触診をすることが理想だと思います。しかし受診者の利便性や各市町村の実状を考慮し、その実状にあった方法を選択するのが一番だと思います。

現在、このように乳がん検診は、大きな節目にあります。これを乳がん検診の目的を達成するための良い機会と捉え、新しい検診体制を構築することが重要だと考えます。

(健康かながわ1999年9月号)
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