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健康かながわ

カウンセリングの基礎

「今の困難をどう切り抜けていくか、ということが生きる上での課題であり、その乗り越え方を身に付けていく事が、"生きることを学ぶ"ことと言えます。そして、心の健康にとって大切なことです」と講師の堀之内高久・横浜国立大学保健管理センター助教授は心の健康にとって大切なことは何かを説明する。

心の健康を扱う専門家は知識、気づき、スキル(技能)の三つが大切な要素である。
スキルとはノウハウのことで、親しくなるスキル、相手を見抜くスキル、自分で困難を乗り越えるスキル、相手が乗り越えるように援助するスキルなどのことだ。また、スキルを習得する(学ぶ)ためには何年もトレーニングすることが大切だという。残念ながら日本ではこのスキルの習得が遅れているそうだ。

自己成長は、自分の心の痛み、心の傷、悲しみを自分で解決し、これらの困難を乗り越えてはじめて達成するものだ。しかし、今の子どもたちだけでなく、大人も含めて自分で困難を乗り越えるスキルを身につけている人がどれほどいるのだろうか。ましてや
子どもが自分で困難を乗り越えるように支援するスキルを持っている人は少ない。
そういう意味では、養護教諭はとても重要な位置にいると堀之内先生は話す。

物語を創る

「子どもが自分で困難を乗り切るためのプログラムはあります」と、堀之内先生は現在不登校児と関わっているケースを紹介する。

そのプログラムは、子どもに自分を動物にたとえると何か考え、決めてもらう。そして、その動物が主人公になって、家族とともに困難に立ち向かって乗り越える絵本をつくる。その次に今度は仲間と一緒に困難を乗り越える物語を創る。そして最後に、自分だけで困難を乗り越えた絵本を書いてもらい、自分の書いた絵本をみてそのストーリーの中で沸き上がった"感情"の感想文を書いてもらう、というものだ。その文章を大人が読んで誉めることがポイント。絵本を書くという創造する力を持って困難に打ち勝つ内的成熟を促し、誉めることによって生きる力を養うのだ。

困難に打ち勝つスキルを身につける

今までの相談では、原因追求型で現在の状態を過去の原因と関連づけようと根掘り葉掘り聞いて、明らかにしようとする。それは、とても苦痛であったり、悲しいこと、嫌なことであったりする。クライアントにとっては、信頼関係ができない限り、なかなか
話すことはできないだろうし、原因が明らかになっても、それが今の困難な状況を乗り越えることにはならないだろう。

しかし、堀之内先生は「過去の内容や秘密をしゃべらなくても、自分で困難を乗り越える方法はあります」と説明する。参加者は堀内先生を囲んで円になって座り、ワークが始まった。

まずはじめに「人のためではなく、自分のためにトレーニングを受けます」と言ってくださいと、堀之内先生はクライアントに自分自身のためにこのワークを受けることの確認をとる。そして、目を閉じて肩の力を抜くようにリラックスを促す。決して強制はしない。次に目を開け、誰も座っていない椅子に向かって今の自分が座っているのを想定して、そこに座っている架空の自分の姿勢や顔つきについて感じたことを話す。そして、架空の自分に対して"ねぎらい"の言葉をかけたり、今、体から沸き上がる感情について話す。ワーク中、堀之内先生は悲しみや憎しみなどの感情や感覚を、クライアント自身が取り除けるうに、また、気持ちが楽になるように声をかける。ワーク終了後、「今まで思い悩んだことが今の自分の感情や体の感覚に出てきているように感じた」と参加者から感想が聞かれた。

最後に堀内先生は「養護教諭自身自分で困難を乗り切るスキルを身につけていないと子どもを支援するプログラムを実践するのは難しいです」と、結ばれた。

(健康かながわ2000年3月号)
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