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EAP・従業員支援プログラムとは

EAP(Employee Assistance Program)は一般に従業員支援プログラムと訳されている。
1970年代のアメリカではアルコールや薬物などへの依存が大きな社会問題となっていた。その問題は働き盛りのビジネスマンをも巻き込み、業務成績の低下や退職にまで発展するというような深刻な状況を招いていたのである。 この解決策として、アメリカの先進的な企業を中心に導入されたのがEAPである。 米国のEAPは、1979年に企業内アルコールプログラムとしてスタートした。その後、社会はますます多様化し、個人が抱える問題も様々なものになり、EAPのサービスの内容もそれに合わせて広がり、現在ではアルコール、薬物依存の治療はごく一部となり、うつ、神経症、心身症、家庭問題への対応など領域は多様化している。 最近は企業のリストラや合併にともなう社員の組織的な支援プログラムなどもおおくなってきたようである。

内部EAPと外部EAP

EAPの組織形態は、ニつに大きく分けることができる。ひとつは、企業内にEAPスタッフが常駐して社員の相談を受ける内部EAPと呼ばれるものである。二つ目は、企業とは独立したEAP会社が複数の企業から業務委託を受けるものである。委託を受けた外部EAPは電話などで社員からの相談を受け付けたり、専門家が相談を受けたりするのである。 また、最近では内部EAPと外部EAPの折衷型ともいえる、複数の同種の企業(病院、大学など)が共同出資してEAPオフィスを社員のために作るコンソーシウム型EAPがある。外部EAPと内部EAPはそれぞれ長所、短所があるので、米国の企業ではEAPを利用する目的によって選択しているようである。

EAPの目的 EAPの目的は社員およびその家族が個人的な問題(心理的、精神的、アルコール、薬物の問題、家族や経済的問題など)を解決するための専門的サポートをタイムリーに提供することによって、社員のパフォーマンス(業績、生産性)を向上または維持することである。

セルフ・リファー
EAPの個人へのサービスでは、社内にいるEAPスタッフが相談にきた社員に短期的コンサルテーションを行い、問題解決を手伝う。 例えば、子どもが不登校になったとか、家族にアルツハイマーがでたとかというような解決したい問題にターゲットを絞り、支援ゴールを決めるのである。 アルツハイマーの母親を施設に入れるかどうかを本人が決定することがゴールだった場合、EAPのコンサルテーションだけで解決するケースがほとんどである。 しかし、子供の不登校をなおすことがゴールの場合、特別なサポートが必要になってくる。そのために子供を専門の臨床心理士にみてもらったり、両親は親業セミナーに行ったり、また、子どもを児童精神科医に紹介することが必要になってくるのである。  

このような場合、EAPはサイコセラピーを自分で行うのではなく、外部の専門家を紹介することが特色といえよう。
個人がEAPを利用する場合にはセルフ・リファー(任意相談)と呼ばれ、上司や人事は一切関わらずに、EAPによるアセスメントと外部機関へのリファーが行なわれる。

マネージメント・リファー
もう一つの方法は、マネージメント・リファーと呼ばれているものである。 社員のパフォーマンスの低下がストレスなどに起因する場合、上司がEAPを部下に勧める方法である。  この場合もEAPは最終的には個人にアセスメント、介入、短期カウンセリング、外部へのリファー、ケースマネージメント等を行うが、その前に上司に対してEAPが時間をかけてマネージメント・コンサルテーションを行うのが特色といえよう。 マネージメント・コンサルテーションの目的は問題を持つ部下をスムーズにEAPへ橋渡しすることと、その後の問題解決への動機づけを高めることである。

EAPによる介入のプレイヤーは問題を持つ社員の上司、人事、EAPスタッフ等である。上司が部下の問題のことでEAPにコンサルテーションを受けにくると、上司はまず社員の行動やパフォーマンス低下のパターンを詳しく記録を取るように指示される。 

勤怠状況が悪くなった、仕事のミスが増えている、円滑な対人関係の変化などのパフォーマンスの低下の記録をもとに、上司は本人と率直に話し合い、業績がもとに戻らなかった場合の結果を伝えてもらう。 本人と上司がそれは困るから何とか解決しようと同じゴールに向かって、解決策を話し合い、その原因が本人の能力とは別のところにある個人的な問題にあるらしいと本人が納得した時点で、上司はEAPの利用を部下にすすめるようにアドバイスするのである。

組織へのサービス

最近では職場全体をヘルシーにすることにより生産性を上げる、というEAPの組織的介入の機能も活発なものになってきている。 世界の他の会社のEAPを見てもここ近年はM&Aやリストラクチャリングなどの組織変化の時に社員のやる気をどう高めていくか、ということが重要になってきている。 組織が大きく変化する時には不安をおぼえる社員が増えるものである。 このような時に、「私はこの会社の将来図の中に入っているのか」「私は戦略から取り残されるのか?」などと不安になったり、会社への不信感が募ったりするものである。M&Aなどの組織変化を成功させるためには、このような心理的プロセスに注目することが重要である。

日本でのEAPの適用
日本EAP協会が近年、設置され、日本におけるEAP研究、および採用する企業も増えてきた。外部EAP、内部EAPを問わず、今後、EAPを発展させ、労働者への効果的なメンタルヘルス対策を行っていくには、専門スタッフの教育、スーパービジョン、すでにかなり整ってきてはいるが、政府による関連法規の設定が必要であると思われる。

(健康かながわ2000年12月号)
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