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労災保険で過労死予防

image「死の四重奏」と二次健康診断等給付事業

「死の四重奏」対象者は推定30万人

今回の改正では、定期健康診断で脳・心臓疾患に関連する血圧検査・肥満度(BMI )・血糖検査・血中脂質検査の4項目すべてに有所見と診断される「死の四重奏」の人 に対して、医師による二次健康診断や特定保健指導にかかった費用を労災保険で給付す る。日本医師会労働者健康開発プロジェクト委員会によれば、給付対象となる人は推定 30万人、一人当たりの給付額を3~4万円程度として約120億円の規模となる。  

ではなぜ、この4項目が有所見となると脳卒中や心臓病になりやすいのだろうか。神奈川県予防医学協会精密総合健診部の菊池美也子医師は「欧米化する生活習慣による栄養の摂りすぎ、喫煙や飲酒への意識の低さ、さらに職場などでストレスにさらされるこ とが多く、運動不足になりがちな環境がまず挙げられる」としたうえでこう続ける。「動脈硬化性疾患のスタイルは時代とともに変化していて、肥満や糖尿病、脂質代謝 異常などが冠動脈疾患の引き金として台頭してきています。例えば、夕食をとる時間が 不規則な人。体内でのコレステロールの合成は主に夜間に行われ、また夜間は代謝も低下するため、夜、遅く食べたり、たくさんお酒を飲んで寝てしまう人はコレステロールの生 産を自ら高めています。そうしたことから、肥満の是正や運動など生活習慣へのアドバ イスがこれまで以上に重要になってきました」。

食生活や運動、喫煙・飲酒といった生活習慣の改善は自己管理が基本だが、それを阻む社会要因も多く、社会的支援や環境整備が急がれていた。

受診機会、医療費軽減への一歩

生活習慣を変えたい、変えなければと考える人は着実に増えてきている。だが、忙しくてできない、症状もないのでそのうちに、と二の足を踏んでいる人が大半だろう。「接待はほどほどにと思っていても自粛できない。勤務時間内に通院ははばかられる、といった気持ちの強い営業職の人は難しいのでは」(菊池医師)。  

「死の四重奏」有所見者が、二次健診を労災医療指定の機関で実施すると保険が適用 されるという今回の動きは、受診機会をつくり、早期の対応が疾病に歯止めをかけるこ とで長期的に見れば医療費の抑制にもつながると見る向きが多い。「生活習慣を積極的 に変えようとする人たちをサポートするのが社会、事業所の責任になっていく一歩にな るのでは」と菊池医師も期待する。二次健診等給付制度の実施に向けたガイドラインが 間もなく公表される予定だが、対象となる人が確実に受給できるよう事業所の適切な処 置も望まれている。

事業所と産業医の連携・信頼が深める

前述の4項目の異常判定については、健康診断担当医の判断によるとしたうえで、肥満度、血圧、血中脂質、血糖検査のガイドラインが細かく設定される。また、検査には頸部エコー検査、運動負荷心電図または心エコー検査のいずれかを選択するなど実施細目もつくられる。 「死の四重奏」有所見となった人のプライバシー保護を最優先したうえで、(労働者健康開発プロジェクト委員会案では) その検査結果をもとに産業医やかかりつけ医師などがおこなう休養・栄養面での保健指 導も給付の対象になる。健康状態の改善効果などを評価するため、指導結果を実施機関 から報告収集するなど細かな二次健診ガイドラインの設定で、制度は実施に向けて動き 出す予定となっているようだ。

生活習慣の改善を通じた健康に対する意識が、働く人ばかりでなく、事業所でも高 まるだろう。過去に老人医療費の無料化モデル事業で実証されたように、医療費の低減が期待できる」と、神奈川県予防医学協会集団検診センターの井澤方宏所長もこの制度実施を歓迎する。

「死の四重奏」有所見といわれた人が、検査結果をきっかけに生活習慣の改善や疾病 予防にこれまで以上の努力を重ねるようになること、有所見の従業員をサポートし、い まの仕事を続けられるような対策を考える、事業所の食事メニューの改善やカロリー・ 塩分表示を徹底するなどの対策が充実する、などを理由に挙げて「事業所と産業医、健 診・保健指導を実施する機関との連携が密接になり、信頼関係も深まっていくことでト ータルヘルスプランニング、生活習慣病改善、循環器系疾患の事後指導がより万全に向か うだろう」と見るからだ。

休養の大切さを知る

改正労災法の二次健診等給付実施にあわせて、神奈川県予防医学協会は医療設備やスタッフ面、受け入れ体制の整備を充実させて二次健診や特定保健指導の実施機関となれ るよう、労働者健康開発プロジェクト委員会案で実施機関とされている労災指定医療機 関としての指定を受けたところだ。多くの人たちと接して健診実績を積み重ね、経験豊 富な医師、保健婦、管理栄養士、トレーナーが健康を望む人のアドバイザーになりたいからである。

「特定保健指導をながく続けることが、個々の受診者の生活改善のアイデアをうみだ すことになります。また私たちは生活習慣のなかに『休養の大切さ』を組み込んでほしいとこれからもアピールしていこうと思っています。いろいろな意味で無理をしてしまう、 働きすぎてしまうのが脳・心臓疾患や過労死につながるわけですから」(井澤所長)。

(健康かながわ2001年3月号)
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