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健康かながわ

拒食症の実際と治療

渡辺久子・慶応大学小児科医師は「ぜひ、拒食症を予防するために学校現場、特に養護教諭に協力してほしい」と講演の冒頭、参加者の養護教諭たちに呼びかけた。拒食症は死にいたる病であること、難治性の病気であり治療には最低7年間の歳月を必要とすること、なによりも思春期の子どもが「食べない」ことで自身の存在の根底をゆがめて訴える悲痛な病気であることを渡辺医師は訴える。

食べ盛りの子どもが食べない、発達を止める。そして自分の姿を鏡に映して太っていると思う。拒食症の子どもには「自己像の認知障害」があるという。つまり自分のことがわからなくなっている、鏡に映った姿は実際はやせ細っているのに自己感覚がマヒしているため、「太っている」と思い込む。拒食症の子どもたちにとって大切なのは「他人の目・世間の目に自分がどう映るか」といったことなのである。

体重の減少が5Kgまでは飢餓感はある、しかしそれを越えて本当の飢餓状態に入ると脳内麻薬(エンドルフィン)が脳内に放出され、飢餓感がなくなり活発になり、何でもできるという錯覚におちいるいわゆる「ハイパー・アクティブ」の状態に突入する。もともとが良い子であった子どもがこの状態になると、猛勉強をし、成績があがり、家の手伝いもするので家族や学校も、良い子であった子がさらに「良い子」になっているため安心してしまう。そして子どもも周囲の大人たちに認められているため、「自己像の不一致」のストレスがなくなる。周囲が子どもの変調に気づくのは体重の減少が8Kgを越えた頃のようだ。 「この段階での子どもの脳はまさに麻薬漬けなのです」と渡辺医師。このことは後の治療にも影響する。入院治療を始め、食事を食べ始めた時に抑うつ・不安・いらだちが出現し、自殺の危険性もあるという。これは麻薬中毒者の禁断症状にとても似ている。

早期発見のヒント

学校でそして家庭で、拒食症を早期発見するためのいくつかのポイントを渡辺医師は紹介した。

〔1〕成長曲線
子どもの平均的な身長・体重の発達を経年的にグラフ化したものが「成長曲線」。(表)このグラフに実際の体重をプロットしていくことで拒食症の早期発見に結びつく。 「成長曲線が横ばい、下降しているのはよっぽどのことが起こっていると思ってください。拒食症は少なくとも成長曲線が横ばいの状態で発見してほしい」と渡辺医師。成長曲線から外れ、減少したカーブを発見した時では遅いのである。同年齢の平均体重から-20%のやせの場合、周囲の誰から見ても「おかしい」という状態であり、また高校生で30Kg台の体重は異常、と付け加える。 学校では春秋、二回の体重測定を行い、成長曲線を記録することを渡辺医師は提案している。

〔2〕観察
爪を押してみて5秒以内に、血行が戻らず白いままだったら要注意。これは抹消循環の不全によるもの。また、体温の喪失を防ぐためにうぶ毛が濃くなる、皮膚が角質化しぱさぱさになる、というよく観察すればわかる身体からのサインがあるという。また、家庭では「いっしょにお風呂に入ってください」とお母さんに勧めている、と渡辺先生。そして保健室に来たときには、養護教諭がかるく子どもの肩に触れ、肉づきを確かめる。  
また就寝時の脈拍が60以下の徐脈となった場合は中程度の臓器障害も心配されるほど拒食症が進行し、かなり危険な状態。睡眠中に脈をとることで拒食症の進行度が推定できる。

いのちを教える

「子どもの問題は良くすることが可能です。真心をこめて子どもに接すれば、本当に子どもは変化します」。渡辺医師は会場の養護教諭たちに語りかける。進行した場合の死亡率は20%という死に至る病「拒食症」。その子どもたちと臨床の場でのかかわりは渡辺医師の言葉を借りれば「毎日がバトル」。 治療の基本は「いのちが大事をとことん言うこと、大切なのは言葉ではなく治療者がハラの部分で相手に誠実で親身であるかだ」と養護教諭へ メッセージを贈った。

(健康かながわ2001年9月号)
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