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健康かながわ

C型肝炎ウイルス

日本では、肝がんによって年間3万人を超える人が命を落とし、平成11年で全がん死の11.6%を占め、第4位となっている。その原因の7割から8割を占めるのが肝炎ウイルス、特にC型肝炎ウイルス(HCV)といわれている。現在、C型肝炎患の持続感染者は約200万人いると推定され、しかも自分自身がC型肝炎ウイルスに感染していることを自覚していない人が多いこともわかってきた。そこで今回は肝炎に詳しい神奈川県予防医学協会検査第一部の青木芳和部長に最近のその動向について伺い、C型肝炎についてレポートしてみたい。

自覚症状が少ない

関西に住む知人の妹のAさん(40代)は、今年の夏、「どうも体がだるくて、今年は特に暑かったので最初は夏バテかなと思っていたけれど、それにしてはひどかったので病院に行ったら『すぐ入院』と言われて…GOT、GTPの検査では通常の百倍近くなっており、精密検査をしたところC型肝炎と診断されたんです」という。

Aさんはそれまで何の自覚症状もなかった。肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、重症化しないと自覚症状が現れないケースが多い。健康診断や人間ドックなどでオプション検査として受けてキャリアであることがわかるケースもあるといわれている。
とりわけC型肝炎は他の肝炎と比べても症状が重いとされる急性期の場合でも自覚症状が見られる人は2から3割で、Aさんのように全身倦怠感が多く、引き続いて悪心・嘔吐などの症状が出てくる。そしてさらに悪化すると黄疸になるという。

C型肝炎の特徴

肝炎ウイルスにはいくつかの種類があるが、感染経路は二通りである。一つが経口感染でA型とE型がよく知られている。もう一つが血液を介して感染するもので、B型そしてこのC型肝炎ウイルスがあげられる。

C型肝炎ウイルスは、長い間、B型同様血液伝播型であることは知られていたが、その原因のウイルスが同定できず、非A非B肝炎ウイルスと呼ばれていた。だがようやく1988年、米国で分離・同定され「C型肝炎ウイルス」と命名された。
そして輸血用血液のC型肝炎ウイルスのスクリーニングが始まったのは、翌年の八九年から。この初期の検査法が導入される八九年までは輸血された人の8.7%に非A非B型肝炎が発生していた。それらのほとんどがC型肝炎だと考えられている。
 92年にはさらに高精度の検査法が導入され、発生率は0.1%以下、99年にはさらに新しい検査法(核酸増幅検査:NAT)が導入され、安全性はさらに向上している。

したがって問題となるのは、C型肝炎に感染しているかどうか高感度で検査できなかった92年以前に事故や病気などで輸血を受けたことのある人。このような人はC型肝炎に感染している可能性が高いといえる。また産科の疾患や大きな手術をした時に使用される、血液凝固因子製剤のフィブリノゲン製剤の投与を受けた人も感染している可能性が高いというデータも明かになってきた。

「現在、C型肝炎について議論が活発になってきているのは、C型肝炎ウイルス感染していると高率にがん化すること。それに対して検査方法や治療法もそれなりに確定してきたこと。そしてこのような過去の輸血の問題やさらには予防注射の時の注射針の打ちまわしなどもあり、感染者が重大な発症の時期を迎えていることが考えられます」と当協会検査第一部の青木芳和部長は指摘する。

B型肝炎ウイルスに対しては、86年の母子感染に対する対策などをはじめ、既に充分な予防対策が講じられてきた。今後、C型肝炎に対してその早期発見から治療までの対応が、早急に望まれるようになってきた。
厚生労働省は、外部の専門家によって構成された「肝炎対策に関する有識者会議」を設置し、今年三月、C型肝炎を中心とした今後の方向性についての報告書を取りまとめた。それによるとC型肝炎ウイルス感染の可能性が一般の人よりも高いと考えられるとして表1の人々を挙げている。

また頻繁に血液に触れる(特に針刺し事故など)機会のある保健医療従事者も感染に十分注意する必要がある。
C型肝炎検査は、まず採血してウイルスに対する抗体があるかどうかを検査するHCV抗体検査を行う。抗体検査で陽性になった場合、さらにウイルスの遺伝子があるかどうかC型肝炎ウイルスRNA検査、またはウイルスの抗原検査を行い、感染しているかどうかを判定することとなる。

a. 1992(平成4)年以前に輸血を受けた者
b. 長期に血液透析を受けている者
c. 輸入非加熱血液凝固因子製剤を投与された者
d. cと同等のリスクを有する非加熱凝固因子製剤を投与された者
e. フィブリノゲン製剤(フィブリン糊としての使用を含む。)を投与された者
f. 大きな手術を受けた者
g. 臓器移植を受けた者
h. 薬物濫用者、入れ墨をしている者
i. ボディピアスを施している者
j. その他(過去に健康診断等で肝機能検査の異常を指摘されているにも関わらず、その後肝炎の検査を実施していない者等

早期発見・治療がきめて厚労省も対策に動き出す

C型肝炎ウイルスに感染すると70%以上の人が持続感染の状態となるといわれている。そしてそのウイルスによって肝臓障害が起こり、肝臓の細胞が壊れ、また新しく再生したりとそれが繰り返され、慢性肝炎となる場合が多い。さらに一部の人は十数年で肝硬変、肝がんへ進行する。

厚生労働省の有識者会議の報告書では次のデータを公表している。
40歳以上のC型肝炎ウイルス感染者100人を選び出すと、選び出したその時点で、65~70人が慢性肝炎となっている。また無症候性の感染者100人を選び出し、20~30年間、適切な治療を行われなかった場合、10~16人が肝硬変に、20~25人が肝がんに進行してしまう。しかし適切な治療を行うことで病気の進展をとめたり、遅くすることが確実にできると訴えている。

感染していることがわかった人は専門の医療機関を受診し、肝臓の障害の程度を調べることが必要となる。「肝臓の障害が軽くて、GPTの値が正常であれば問題なく普通の生活も送れる」といわれ、カミソリや歯ブラシなど血液がつく可能性のあるものを共有しないなど、一般的な衛生を心がければ他の人への感染もまず心配ない。

またC型肝炎の治療はインターフェロンを使うのが中心となる。「その治療の効果はウイルスの量とその遺伝子の型によって変わります」と青木部長はいう。

C型肝炎ウイルスは大きく分けると六つの遺伝子が確認されている。日本では遺伝子型1b(Ⅱ)が70%、2a(Ⅲ)が20%、2b(Ⅳ)が10%みられる。そのうちインターフェロンは1bで20%弱、2aでは60%以上、2bでは40%以上の人でウイルスの排除があったというデータがある。つまりインターフェロンは3割の人に有効で、日本人に多い遺伝子型には効果が少ないという現実もある。

しかしインターフェロン治療でウイルスはなくならないものの症状が改善する患者も多く、合わせて6~7割近くは有効とされる。またリバビリンという新薬との併用療法の臨床試験も始まっており、今後ますます治療法も進むと考えられる。

やはり月並みではあるが早期発見・早期治療が大きな鍵といえ、これまでの状況を振り返ると「40歳以上の人は一度は検査を受けた方がよい」と青木部長は勧める。

厚労省でも対策へ

厚生労働省でも「有識者会議」などの報告をもとにC型肝炎ま正しい知識を府普及するとともに来年度の予算概算要求で、「C型肝炎緊急総合対策の推進」として69億円もの要求を出し、検査体制などの充実を図るとしている。現行の健康診査体制を活用した内容としては- ① 40歳から70歳までの老人保健法に基づく健康診査の受診者に対し、5歳刻みで節目検診を行い、5年間で全員に肝炎ウイルス検査等を実施する。なお現に肝機能検査で要指導領域にある者等については、早期に二次検診として肝炎ウイルス検査を実施する。 ② 政府管掌健康保険等の生活習慣病予防健診においても、肝炎ウイルス検査を実施する。  -が挙げられている。

今後の同省の動向に注目するとともに、当協会でもさらなる検査体制の充実に努め、予防医学の側面からサポートをしていきたい。

(健康かながわ2001年12月号)
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