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健康かながわ

健診・検査データ共有化と全国規模の健診に向けて

先頃、国立大学の教育目標や目的の達成度が評価・公表された。利用する人たちに質のいいサービスを提供することはどの分野でも当たり前となり、今後は良質のサービスをいかに継続するか、サービスの提供がどんなメリットをもたらすか、が評価される時代となる。 健診機関も、受診者に真の満足がいく「継続性あるサービス提供」が急務だ。そこで、予防医学事業中央会がいち早く取り組んだ「健診・検査データの共有化」を紹介しよう。 その検討委員会のメンバーであり、常任技術委員会委員・森雄一(財団法人神奈川県予防医学協会 集団検診センター副所長)などの話をもとにお伝えする。

「いつ・どこで・誰が」検査しても同じ結果になるように・・・

image健診・検査データの共有化とは、検査結果の基準範囲や判定基準を統一することではない。例えば、肝機能検査のGOT値が45IU/l、脂質検査のコレステロール値が200mg/dlの検体があるとする。共有化とは、この検体を予防医学事業中央会傘下のどの支部で検査しても同じ結果が出るように検査環境を整えることであり、その品質を保証できるようなシステムを構築しようということである。一般に、検査方法や試薬、検査機器により異なるデータが出てしまう事が多い。 そうした中で、予防医学事業中央会ではどこで検査しても日々同じ結果が提供できているという保証体制を整えようと数年かけて努力してきた。その結果、一般の健診や人間ドックで実施される検査のバラツキを3~5%以下にまで小さくさせることができた。得られた検査値のバラツキ(変動幅)が、生理的変動内に収まっていることや、専門医が許容する範囲内にあることが確認された。支部間データの互換性が保証されたことになる。

残念ながら、現状の検査データは、健診機関や医療機関が異なると検査の値も異なる。現に日本医師会が行っている全国の医療機関・検査センターに同一試料を配布して得たデータを解析した結果を見ても相当のバラツキがある。検査データにバラツキがあると医師も判断に迷う。「高い信頼性ある検査データをもって健診しよう」というのが共有化の目的である。もう少しわかりやすく言えば、ある会社に勤務するAさんが関東地方で受診しても、転勤先の関西地方で受診しても同じ結果が得られること。つまり、全国にある予防医学事業中央会の支部で健診を受ければ、その検査データは同じ物差しで評価できるということである。健診・検査データの共有化を、このようにとらえていただきたい。

eQAPをワンステップに

検査データ共有化の信頼保証として、日常的に行われている検査の標準化やモニタリングは欠かせない。そこで神奈川県予防医学協会では「eQAP*」[Quality Assurance Program:国際試薬㈱が窓口となって実施する全国規模のIT版外部精度管理の一つ。毎日、約3500の医療機関・健診機関が参加している]に参加して、日々の検診データの管理を充実させてきた。 eQAPとは毎日の検査データをインターネットで送ると、一週間のデータ結果をまとめた週間レポート、あるいは一ヶ月分の全データ結果を収録したCDが参加施設に返送されてくる。この結果をもとにして、当協会では日常の検査データを管理している。 eQAPはまた、予防医学事業中央会傘下37支部のデータを取り出して解析・管理することができる。「いつ・どこで・誰が」検査を受けても同じ結果になる根拠として生かしている。

疾病の判断基準も決められる

共有化が進み同じ検査データが得られるようになると、さまざまな疾病の判断基準が容易に決められる。例えば、日本動脈硬化学会の高脂血症の診断基準、総コレステロール220mg/dl以上を高脂血症と診断することも、日本糖尿病学会での空腹時血糖が126mg/dl以上を糖尿病ということも一律に定めることができる。

経年変化がわかる報告書

eQAPによるデータ管理の実績をもとに、すでに独自のサービス提供を始めている。その一つが個人(受診者)管理の充実である。
健診結果を伝える報告書には過去5年間の項目別データが記載され、主要項目のグラフ化などにより経年変化が一目でわかるようになっている。一次健診から精密検査、専門外来まで一元管理できるため、受診者一人ひとりに、よりきめ細かな健康支援を提供できるようになった.(詳しくは『健康かながわ』第408号をご覧ください)

また、健診データに異常が出た場合、そのデータを医療機関に直結するなどして治療に生かすことも可能である。健診と医療の現場の連携を促進する意味でも、健診・検査データの共有化は多くの期待を集めている。

健診・検査データの共有化は、受診者の満足度向上に不可欠です
河合 忠談 (予防医学事業中央会・臨床病理学術委員長 自治医科大学名誉教授 国際臨床病理センター所長)

病気を治すという視点から、健康をいかに維持するかという視点への変化は、21世紀を「地域における保健中心のケアの時代」にするでしょう。つまり、受診による一つひとつの検査が社会的にどれくらい利益があるか、その人のためになるかといった視点で評価される時代になるということです。

「健診」ということばの普及とともにその内容が注目されるようになれば、「いいデータって何だろう?」という受診者の関心は高まってきます。そして、受診者が医師や健診・検査を実施する機関、団体などを選ぶ時代になってきます。すでに医療の世界では、医療機能評価機構という組織が発足して、その認証をとる病院がだんだん増えてきています。臨床検査も、全国的なレベルで医療機能評価機構と同じシステムが立ち上がれば「その認証を持っているところで受診しよう。学校や職場の健診・検査の契約をしよう」という動きになるでしょう。

国際的な標準化をスタートさせたシンガポール。国家規模での臨床検査標準化に着手 した中国、台湾。臨床検査の国際標準化に向けたアジア各国の動きからも健診・検査の精度向上とその維持は、世界的な流れといえます。 予防医学事業中央会傘下の各支部が、ここ10数年来行ってきた外部精度管理調査の成績をみると、支部間の変動係数が日本医師会実施の全国変動係数と比べて小さくなってきているのがわかります(本文の図参照)。支部間の検査数値が揃ってきたということは、健診・検査を受ける人たちや医療機関にとって、そのデータへの信頼がさらに高まることが期待できます。

健診事業の競争が激しくなるなか、予防医学事業中央会という全国組織のメリットを生かし、支部間のデータ活用などが前進するたびに、受診者のメリットは増していくと考えてください。データ共有化検討委員会を設けるなどしてその実用化に取り組んでいるのは「健診・検査なら予防医学事業中央会のネットワークで」と学校、職域、勤労者などから評価され、安心して健診事業を託されるようになるのが目標であることは言うまでもありません。

(健康かながわ2002年4月号)
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